火力発電所のCO2排出量の変化をピンポイントで検出 NASA地球観測ミッションのデータを分析
【▲国際宇宙ステーションから撮影されたポーランドを含むヨーロッパの夜景(Credit: NASA)】
地球温暖化を防ぐには、化石燃料の燃焼にともなう二酸化炭素の排出量削減が不可欠です。化石燃料からの二酸化炭素排出量の約半分は、発電所や製油所といった大規模施設に由来しています。しかし、施設ごとの排出量やその変化に関する詳細な情報は、多くの場合入手できません。
このたびアメリカ航空宇宙局(NASA)は、軌道上炭素観測衛星「OCO-2」および「OCO-3」ミッション(※)で宇宙から観測された測定値を使用し、単一施設からの二酸化炭素排出量の変化を検出することに成功したと発表しました。
※…OCO:Orbiting Carbon Observatoryの略
研究の対象となったのは、ポーランドにあるベウハトゥフ(Bełchatów)発電所です。同発電所は石炭火力発電所として世界で5番目の大きさとのこと。研究チームは2017年から2022年にかけて観測されたベウハトゥフ発電所の排煙を分析し、時間単位の発電量の変動と一致する二酸化炭素レベルの変化を検出しました。発電所全体の排出量はメンテナンスや廃炉によって減少していますが、この変化も検出することができたといいます。
【▲ 2014年に打ち上げられたNASAの「OCO-2」衛星のイラスト。地球を周回しながら、地域から大陸までのスケールで、自然由来および人為的に排出された二酸化炭素をマッピングする(Credit: NASA/JPL-Caltech)】
2014年に打ち上げられたOCO-2は、局地的な規模から大陸規模のスケールに渡り、自然および人間の活動に由来する二酸化炭素の排出をマッピングしています。衛星は高度約700kmの太陽同期軌道を周回しており、地表で反射された太陽光が二酸化炭素に吸収される強度を測定することで、地上から衛星までの柱状の範囲に含まれる二酸化炭素の量を間接的にサンプリングしています。
一方、2019年から国際宇宙ステーション(ISS)に設置されているOCO-3は、ある地域の上空をISSが通過する時に地上を複数回走査できるマッピングモードを備えており、都市規模の詳細なミニマップを作成できるように設計されています。
OCO-2とOCO-3はもともと個々の施設から排出する二酸化炭素を検出するために設計されたものではありませんでしたが、マッピングモードを備えるOCO-3で得られた観測データは、今後二酸化炭素の排出点源(ホットスポット)を定量化する上で広範囲に利用される可能性があるといいます。
2022年10月28日付けで「Frontiers」に掲載された研究論文の筆頭著者であるレイ・ナサール(Ray Nassar)氏は、次のように語っています。
「二酸化炭素の排出量をより詳細に把握することで、排出量の削減を目指す政策の有効性を確認することができます。OCO-2とOCO-3を使用した私たちのアプローチは、さらに多くの発電所に適用したり、都市や国からの二酸化炭素排出量に合わせて修正することも可能です」
Source
Video Credit: OCO2/NISARImage Credit: NASA、NASA/JPL-CaltechNASA - NASA Space Missions Pinpoint Sources of CO2 Emissions on EarthFrontiers - Tracking CO2 emission reductions from space: A case study at Europe’s largest fossil fuel power plant
文/吉田哲郎