誤射かもしれないミサイルは迎撃OK? 「他国の資産」を撃ち落としても問題ないワケ
ミサイルが日本に向かって飛んできている場合、これを迎撃し破壊するのは当たり前の行為に思えますが、そうするための法的根拠は、実は状況により変わってきます。誤射かもしれない1発のミサイルには、どう対応できるのでしょうか。
加速する北朝鮮のミサイル開発
2022年12月12日、京都府の清水寺にて「今年の漢字」の発表が行われ、「戦」が選ばれました。「戦」が選ばれた理由としては、今年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻などが挙げられると報じられていますが、この1年を振り返ってみると、日本の近くでもこの漢字と関連し得る事態が数多く発生してきました。そのひとつが、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)による弾道ミサイル発射です。
2022年11月15日、弾道ミサイル迎撃試験に臨む海上自衛隊の護衛艦「まや」から発射されるSM-3(画像:アメリカミサイル防衛庁)。
2022年に入って、北朝鮮は過去最多の31回(1日に複数回発射した場合は1回と計測)にわたり弾道ミサイルを発射しており、なかでも10月4日に発射された弾道ミサイルは、青森県上空を通過して日本の東約3200km先の太平洋上に落下しました。日本列島を飛び越えるかたちで弾道ミサイルが発射されたのは2017年以来、実に5年ぶりとなります。
このように、日本列島を飛び越えたり、あるいは日本の近くに落下したりする北朝鮮の弾道ミサイルが、もし日本の領域内に向かって落ちてきた場合、日本がこれを撃ち落とすことができるのは当たり前です。しかし、実はその根拠には、ケースごとにいろいろなものがあり得ます。
北朝鮮が日本を意図的に攻撃してきた場合はどうなる?
最初に考えるケースは、北朝鮮が日本に対して意図的に攻撃を仕掛けてきた場合です。たとえば、北朝鮮が韓国に侵攻し、あわせて日本の自衛隊やアメリカ軍の基地などに対して弾道ミサイルを発射してくるようなケースがこれに当てはまります。
この場合、北朝鮮は日本に対して意図的、つまり組織的、計画的に攻撃を仕掛けてきたことになり、これは日本に対する「武力攻撃」にあたります。そして、この武力攻撃の被害国は、これに反撃する権利である自衛権の行使として、国際法上、合法的に武力を行使することができます。つまり上記のケースにおいて、日本が北朝鮮から発射された弾道ミサイルを撃ち落とす行為は、国際法上はこの自衛権の行使に該当するわけです。
一方、日本の国内法上は、自衛隊の行動や権限などについて定める自衛隊法に基づいて説明されます。まず、北朝鮮の攻撃に対して自衛隊が出動します。これを「防衛出動」(自衛隊法第76条)といいます。そして、防衛出動を命じられた自衛隊の部隊が武力を行使する(=自衛権の行使)ことを規定する自衛隊法第88条に基づき、海上自衛隊のイージス艦や航空自衛隊の地対空ミサイル「PAC-3」などが弾道ミサイルを迎撃するわけです。
イージスシステムを搭載する海上自衛隊の護衛艦「まや」(画像:海上自衛隊)。
北朝鮮のミサイルが突然発射された場合や事故で落下してきた場合はどうなる?
それでは、もうひとつのケースとして、北朝鮮から発射されたミサイルが日本に向かってきたとしても、それが意図的かどうか判断できないような場合はどうなるのでしょうか。たとえば、北朝鮮から突然ミサイルが発射されたり、あるいは北朝鮮が弾道ミサイルの発射試験を実施した際に何らかの異常が発生し、日本にミサイルやその部品が落下してきたりするような場合がこれに当てはまります。
北朝鮮から弾道ミサイルが発射された場合、日本に飛来するまでの時間は十数分程度と見られています。その間に、このミサイル発射は日本に対する意図的な攻撃なのかどうかを判断することは不可能です。また、そもそも発射試験時の不具合でミサイルが落下してきた場合には、攻撃の意図が存在するとは到底、考えられません。そうなると、これらの場合には、北朝鮮による日本に対する武力攻撃が発生したとは認定できず、自衛権の行使もできないことになります。
突如迫る弾道ミサイルに対応する「破壊措置」とは?
そこで、自衛隊法ではこのような場合を想定して「弾道ミサイル等に対する破壊措置」(自衛隊法第82条の3)という規定が用意されています。これは、弾道ミサイルが日本に落下してくるおそれがある場合に、日本人の生命や財産を守るためにこれを撃ち落とすというものです。
この規定では、大きく分けてふたつの場合が想定されています。まず、(1)北朝鮮をめぐる国際情勢が緊迫しているなかで、弾道ミサイル発射の兆候が見られる場合、そして、(2)北朝鮮が弾道ミサイルの発射試験や演習を行うような場合、です。
(1)の場合、北朝鮮に関する状況が緊迫し、そこで弾道ミサイル部隊などに動きがあるとなれば、北朝鮮が突然ミサイルを発射してくる可能性も否めません。そこで、総理大臣の承認を得たうえで、防衛大臣が自衛隊の部隊に対して、弾道ミサイルが飛来した際にはこれを迎撃するよう命令することができます。
(2)の場合、発射試験や演習など、日本を攻撃してくるとは考えられないような状況で、飛翔中の事故などにより事態が急変し日本にミサイルが落下してくるようなケースが想定される際には、事前に定められている緊急対処要領に従って、防衛大臣が自衛隊の部隊に対して事前に迎撃する命令を下しておくことができます。
航空自衛隊のPAC-3(画像:航空自衛隊)。
一方、こうした形でミサイルを迎撃する場合、国際法上は「緊急避難」として説明することが可能です。緊急避難とは、国家が重大かつ差し迫った危険から自国の本質的な利益を守るために、やむを得ず国際法に違反したとしても、一定の要件の下でその違法性がしりぞけられるというものです。北朝鮮の財産である弾道ミサイルを破壊することは、通常であれば国際法上は違法となりますが、それが日本の領域に落下することで生じる危険から自国の利益を守るためであれば、それも合法な行為となるわけです。
かつて、ある新聞の記事に掲載された「1発だけなら誤射かもしれない」という言葉があります。ネット上では冗談交じりに使われることが多いこの言葉ですが、実は、これはまさに、上述した「相手の意図が分からない状態」では攻撃なのか誤射なのか判断がつかないため、自衛権の行使ではなく破壊措置命令で対応するという話につながるのです。この言葉、実は非常にまじめな話というわけです。