財務省が国交省から借り入れた自賠責保険料の運用益約6000億円が未返済の問題で、2023年度の返済額が60億円に決定。返済にはおよそ100年かかるばかりか、交通事故被害者事業の不足分には税金が使われます。60億、果たして妥当なのでしょうか。

毎年の返済は54億円を下回らない数字で


54億円の返済水準を盛り込んだ大臣合意について「毎年行われるひとつの基盤、約束ができた」と説明する鈴木俊一財務相。23日夕方(中島みなみ撮影)。

 2023年度の予算案が22年12月23日、閣議決定されました。国土交通省の特別会計から財務省の一般会計に貸し出された自賠責保険料の運用益約6000億円の返済は、60億円(当初予算)に決定。2018年の返済再開以降で最大の返済額となる一方で、貸出残はなお5880億円と巨額。やっぱり完済までに100年かかる……を裏付けた形です。

 自賠責保険料の運用益が財務省に貸し出され一般会計の財源として活用されている件。来年度当初予算の返済額が60億円に決定したことで、一2023年度末に5880億円まで減る見込みです。なぜ、60億円に決着したのでしょうか。

 2022年の返済額は当初予算と補正予算分を合わせて66億円。合意条件に基づくと、2022年の水準を下回らない返済額でなければなりません。2023年度に決定した60億円の返済は、水準を下回っているように思えます。

しかし、国土交通省保障制度参事官室によると、国交省と財務省の大臣合意が結ばれた当時の2022年度返済額は54億円。66億円は大臣合意後に補正予算で追加返済されたため、国交省も財務省も、合意の水準以上の返済が実施されたと評価しています。

 鈴木俊一財務相は23日夕方の会見で、60億円の返済決定について次のように説明しました。

「財政事情が許せば早期にお返ししなければならない性格のものだが、今それがそのようにできないことは、ある意味申し訳ないと思っている。しかし、そういう中でも大臣合意に基づき、確実に誠意をもってお返ししたいと思っている」

 財務省の借入金は1994年に始まりました。毎年の返済額は毎年の協議により決定することが基本で、民間の借入のように返済額は一定せず、返済期限などの条件は財務省と国土交通省の歴代の大臣合意により、これまで6回にわたって書き換えられました。

そうしたなか、2023年から有効になる鈴木俊一財務相と斉藤鉄夫国交相の合意で、返済額の基準は「2022年における繰入額の水準」と、初めて明記されました。少額でも返済されることは一歩前進なのでしょうか。鈴木氏は続けます。

「今結ばれている大臣合意は、2022年度当初予算で54億円の繰戻し(返済)を行うとともに、その水準を踏まえて繰戻しに継続的に取り組むという合意がなされている。私としては、毎年行われるひとつの基盤、約束ができたと思っている」

自賠責値上げ分はすでに“財源の柱” まだ足りず

 鈴木・斉藤両大臣合意は2028年度まで有効です。いま、防衛力強化に加えて、子育て支援の財源を模索しなければならない財政事情を考えると、今回を上回る返済を実行するためにはかなりの努力が必要です。100年返済は、ますます真実味を帯びます。

 一方、2023年度から自賠責保険料の値上げにより自動車ユーザーが負担する新たな賦課金による収入は、約100億円が見込まれています。個々の負担は1台150円を基本に車種ごとの減額が設定される予定で、来年1月の金融庁が担当する自動車損害賠償責任保険審議会で決定しますが、いずれにせよ財務省の返済額を大きく上回っています。

 本来の自賠責の使途である、重い後遺障害を負う交通事故被害者支援などに使われる被害者支援事業は、年間約200億円です。自動車ユーザーの新たな負担100億円、財務省の返済60億円では、なお不足分が出ます。

 新たな賦課金制度は、2023年4月1日から始まることになっているので、2023年事業の財源の柱になることが、あらかじめ見込まれていたわけです。

 影響は自動車ユーザーだけにとどまりません。財務省が抱える借入金5880億円の内訳をみると、元本4848億円、利子相当額1032億円。この利子相当額は、税金で充当されます。被害者支援事業は、事故を起こす可能性がある自動車ユーザーの負担で行い、税金を使わないことが基本です。財務省が返済を遅らせるほど、利子相当額を税金で支払っていかなければならないことになるのは知られていません。

 自動車ユーザー団体などは、このような状況を改善するため、せめて返済計画を明確にすべきだと主張しています。また、積立金の取り崩しを不要とするためには、現状で少なくとも100億円規模の返済が必要だと指摘する有識者もいます。

 自賠責保険料の運用益を財源とする「自動車事故対策勘定」の来年度総額は224億400万円(当初予算)。前年度比で52億68900万円増えました。数年後には、さらに被害者や家族の療護施設の新設のための予算が必要と見込まれています。