「トナカイ」の名を持つ輸送機DHC-4 どこでも発着・悪路もOK…サンタ向きの機体?
カナダでトナカイを意味する「カリブー」の愛称がつけられた飛行機、それがカナダ初の双発輸送機、DHC-4です。その性能からアメリカ軍が大々的に採用しており、もしかすると、プレゼントを満載して飛ぶサンタクロースにも適していたかもしれません。
北米に生息するトナカイ=カリブー=DHC-4!?
今年(2022年)もサンタクロースを乗せたそりを引くトナカイにとっては忙しい季節が到来しました。北米に生息するトナカイはカリブーと呼ばれますが、飛行機にもカリブーと呼ばれる機種があります。デ・ハビランド・カナダが開発・生産したDHC-4輸送機です。
同社はDHC-2「ビーバー」、DHC-3「オッター」などSTOL(短距離離着陸)機で実績を上げていたカナダの航空機メーカーですが、同社初の双発機として開発されたのがDHC-4です。
1982年、カリフォルニア州ビール空軍基地で開催されたエアショーで展示された州兵空軍のC-7輸送機。同機はDHC-4「カリブー」のアメリカ空軍仕様である(細谷泰正撮影)。
開発のきっかけは1950年代。そもそも、第2次世界大戦中に大量調達されたアメリカ製のDC-3旅客機並びにその軍用型C-47輸送機が、大戦終結に伴い民間機市場に大量放出されます。こうした余剰機はその後、世界中で様々な貨物輸送に用いられるようになりました。
ただ、大戦終結からある程度経つと、それら中古機の更新が必要になります。そこにデ・ハビランド・カナダが目を付け、生まれたのが本機でした。開発に際し、機体サイズはDC-3クラスとしながら軽飛行機並みの長さ1200フィート(約365m)の滑走路からも発着できることを目指します。
エンジンはDC-3と同系列のプラット・アンド・ホイットニー製空冷星型エンジンR1830を2基装備。なお、エンジンナセルの内側は3度の下反角が付けられ、外側は5度の上反角の付いた逆ガル翼となっていました。
胴体後部は地面に接地してスロープになる、いわゆるローディングランプを兼ねたドアになっており、車両は自走での積載が可能です。主脚はダブルタイヤで非舗装滑走路でも運用可能な構造です。
カナダの隣国アメリカが大量採用
DHC-4は、主として軍用輸送機を目指して開発された機体でしたが、民間の型式証明も取得して民間機としても採用されました。生産数は1958(昭和33)年から1968(昭和43)年までの10年間で計307機。このクラスの飛行機としては比較的少数の生産に終わったものの、世界22か国で軍用輸送機として採用され、民間機としても10か国の航空会社で使用されています。
1982年、カリフォルニア州ビール空軍基地で開催されたエアショーで展示された州兵空軍のC-7輸送機。同機はDHC-4「カリブー」のアメリカ空軍仕様である(細谷泰正撮影)。
特にアメリカ陸軍ではCV-2「カリブー」として最多の159機が採用され、1960年代に激しさを増したベトナム戦争において多用されました。アメリカ陸軍が導入した機体は、後に同空軍へ移管されC-7と改称、1980年代前半まで運用が続けられます。なお、民間型は丸い機首であるのに対し、C-7は気象レーダーが取り付けられ、その部分が鼻のように突き出ていることから、機首の形状が異なります。
軍用機や民間機として使用されていたDHC-4「カリブー」の多くは1980年代に引退しましたが、引退後も多くの機体が博物館などで保存されているので往時の姿を見ることができます。
また、オーストラリアでは2009(平成21)年まで運用されていたことから、同国では歴史的航空機を保存する民間の非営利団体が、2機を飛行可能な状態で維持しているので、航空ショーなどでレシプロエンジン特有の懐かしいエンジンを響かせて飛ぶ姿を見ることができるでしょう。
もしかしたら、オーストラリアではDHC-4「カリブー」に乗ってやって来るサンタクロースがいるかもしれません。