冬場、暖房が効いていると眠りに誘われやすいタクシーの車内。ただ万一、客が目を覚まさなかったら運転手はどう対応するのでしょうか。法人と個人、両方のドライバーを経験したベテラン運転手に直接ハナシを聞きました。

寝るなよ〜寝るなよ〜 冬場なら外気の冷たさも武器に

 タクシーはプライベート空間で座って移動できる快適な乗り物。とくに忘新年会シーズンは、エアコンで暖められた車内で寝入ってしまい、「お客さん!」というドライバーの声掛けでようやく目を覚ます人も少なくないようです。


タクシー事情を話してくれた村瀬タクシーのオーナー、村瀬沙織さん(雪岡直樹撮影)。

 ではタクシードライバーの側から見て、何回呼びかけても客が起きなかった場合はどうするのでしょうか。東京都八王子市界隈で個人の「村瀬タクシー」を走らせる村瀬沙織さんにハナシを聞きました。

「泥酔客は、ほぼ寝込み客と化す」これはタクシードライバーにとっての共通認識だと話す村瀬さん。そこで、乗車してきた時点で対策を始めるのだそう。具体的には次の3つだと話してくれました。

・ステップ1:冷房を入れ、窓も少し開ける。
・ステップ2:しゃべれるようなら、寝落ちしないよう極力、会話し続ける。
・ステップ3:爆睡してしまったら、目的地の手前で冷房全開&窓全開。

 これらを行うことで、寝かさない努力と眠りを浅くする努力をし続けるといいます。

 では、こういった努力も空しく、目的地に着いても客が目を覚まさまなかったらどうするのでしょうか。村瀬さんが行っているのは、スマートフォンを活用したやり方だそうです。

「終電だよぉぉ!」でも起きない ならば…

 村瀬さんが行っているのは、スマートフォンから音を出すこと。電話の着信音が流れると、比較的目を覚ます人が多いため、デフォルトの着信音を利用客のそばで大音量にて流すのだといいます。


村瀬沙織さんの営業車、クラウンセダンの後部座席(雪岡直樹撮影)。

 それでも起きない場合は、今度はアラーム音。これを顔の近くで鳴らすとのこと。これも効果がないとなると、彼女自ら大声で「お客さん起きてぇええ!!」「終電だよぉぉおお!」と声がけすると言っていました。

 人によっては「閉店だよぉおおお!」「タイムセールだよぉおおお!」と起きそうなワードをチョイスして叫び続けるそう。

 ほかにも、左後部ドア以外のドアを全開にして、寒さで起こすという方法もとったりするのだとか。ちなみに、この左後部ドアを開けないというのは、そこが利用客に最も近いドアであるため、万一開放して客が落ちたり逃走したりするのを防止するためだとのことでした。

 これらを10分ほど繰り返しても起きない場合は最終手段、警察官の手を借りるといいます。近くに交番があればそのまま交番へ連れて行き、警察官に起こしてもらうそうですが、近くに交番がない場合は110番してパトカーなどを呼び、警察官に現場まで来てもらいます。

 警察に頼らざるを得ないのにも、理由があります。ドライバーは利用客の身体に触れることはできないから。つまり、ドライバーは揺さぶって起こす手段が使えないのです。警察官は職務上、身体を揺さぶることができるため、タクシードライバーにとっては最後の「頼みの綱」といえる存在だというハナシでした。

「起きたら警察官」の悩ましい問題

 だいたい、警察官に身体を大きく揺さぶられると、よほどの泥酔客でも目を覚ますようですが、記憶が戻ったからといって“万事解決”というワケでもないそうです。

 客からすると突然、目の前に警察官がいるので、人によってはビックリを通り越して怒りだすのだとか。しかも少数ではなく、結構な人数の泥酔客がそのパターンになるということでした。


村瀬沙織さんの営業車。いまやドライブレコーダーだけでなく防犯の観点からも車内カメラは必需品となりつつある(雪岡直樹撮影)。

「なんで警察がいるんだ!」「なんでこんなにメーター高いんだ!」「なんでここに連れてこられた!」

 しかも、なかには寝起きで暴れたり殴りかかってくる人までいるんだそう。そうなることも加味して警察官を呼んでおくようです。

 実際、今年あったこととして村瀬さんが話してくれたのが、先輩個人タクシーが経験した事例です。

 泥酔客が目的地についても起きないので交番の前までいき、警察官の手を借りて目を覚ましてもらおうと奮闘していたら、その泥酔客がなんと警察官を殴ってしまったのだそう。

 こうなると現行犯逮捕です。ただ、それでオシマイとはいきません。タクシー運転手にも捜査協力が求められ、そのまま警察署へと同行。調書作成に8時間も協力することになったのだとか。

 個人タクシーは売上が収入に直結するため、もしそういったことに時間を取られ営業できなくなったら、それはツラいと語ってくれました。

 過度な飲酒、泥酔はさまざまな人に迷惑をかけます。羽目を外さないよう、節度ある“大人の飲み方”を心がけましょう。