4600機以上が生産されたアメリカ製戦闘機F-16。傑作機といえる同機の派生型のなかでも異色といえるのが、デルタ翼のF-16XLと、カナード翼増設のAFTI F-16でしょう。どのような経緯で開発されたのか、出自とその後を探ります。

屈指の異形機、爆誕のきっかけは自社での独自開発

 原型機の初飛行から48年、改良を重ねて2022年現在も生産が続いているロッキード・マーチンF-16「ファイティングファルコン」は、ジェット戦闘機の傑作として名を残すことは間違いないでしょう。

 F-16の先進的で洗練された設計は、優れた空力特性とともに大きな発展の余地を残していました。その特徴を活かし、F-16をベースとして航空自衛隊向けに日米共同でF-2戦闘機が開発されたことはよく知られていますが、それ以外にもいくつか派生型が造られています。なかでも屈指の特徴を持っているのが、F-16XLやAFTI F-16です。


アメリカ空軍の試作機F-16XL(画像:アメリカ空軍)。

 F-16XLはF-16を開発したジェネラル・ダイナミクス社(以下GD社、現ロッキード・マーチン)が生み出したデルタ翼形状の試作機です。元々は、同社が自社予算で行っていた超音速巡航の技術デモンストレーター・プロジェクトが端緒で、開発を主導したのはF-16原型機の生みの親でもあるハリー・ヒラカ―でした。

 彼はコンベア社(後にGD社が買収)で超音速戦略爆撃機B-58「ハスラー」を手掛けていました。B-58自体が、最大速度マッハ2.1を発揮可能なデルタ翼形状の軍用機で、そこからも超音速巡航や無尾翼機には深い造詣があったことが覗えます。設計段階ではNASA(アメリカ航空宇宙局)ラングレー研究所において風洞実験が行われ、「クランクドアロー翼」という独特の主翼形状が編み出されました。

 この翼は大きな後退角により超音速飛行時の抵抗を抑えるとともに、外翼のみ浅い後退角とすることで良好な操縦性も確保しています。広い翼面積で大きな揚力を得られるとともに、燃料容量を増やし、航続距離を伸ばすことも可能となりました。

米空軍は不採用、でもNASAでテスト機として活躍

 このデモンストレーターにアメリカ空軍が興味を示し、F-16Aの3号機と5号機が改造のために空軍から提供されます。その改造作業が行われていた1981(昭和56)年、空軍はF-111戦闘爆撃機の後継機となる強化型戦術戦闘機(ETF)計画を発表しました。敵地に侵攻して阻止攻撃を行うという性能要求に、GD社はF-16XLを提案することを決めます。

 およそ1m胴体が延長され、クランクドアロー翼となったF-16XLは、1982(昭和57)年7月に初飛行を成功させると、カリフォルニア州エドワーズ空軍基地で飛行試験を始めました。同年10月には早くも基地公開日で展示されています。


1980年代前半アメリカ本土のエドワーズ空軍基地で撮影したF-16XL。性能披露のため翼下に多数の擬製弾を搭載している(細谷泰正撮影)。

 ただ、2年間にわたる評価試験の結果、アメリカ空軍は1984(昭和59)年に複座の強化型F-15戦闘機をF-111の後継となる新たな戦闘爆撃機として採用すると発表しました。これが後のF-15E「ストライクイーグル」です。

 F-15採用の理由は、既存の生産ラインが使えることに加え、双発のため生存性が高いこと、そして大きな搭載量が期待できることなどでした。こうしてETFでは不採用に終わったF-16XLですが、製作された試作機2機はその後、実験機としてNASAで長期間にわたって飛行実験に使われました。なお、この2機は今でもエドワーズ空軍基地で保管されています。

まるでスマホ! 音声認識やVRを実装したF-16

 F-16XLが初飛行した1982(昭和57)年7月、エドワーズ空軍基地にはもう1機のF-16を改造した実験機が到着しました。それがAFTI F-16です。AFTIとは先進戦闘機技術統合(Advanced Fighter Technology Integration)を意味しており、同機を用いて更なる戦闘能力の向上を図るべく、AMAS(Automated Maneuvering Attack System)と呼ばれる自動化機動攻撃システムの研究が行われました。

 AFTI F-16は、電子機器を格納するための背部のふくらみと、空気取り入れ口の下に増設された逆V字型のカナード(小翼)が外見上の特徴でした。使用兵器の選択をパイロットが音声で行ったり、照準をヘルメット内に投影されるイメージ映像で行ったりする実験を実施していました。これらは、今では日常的に使用されている音声認識とVRの先駆けといえるでしょう。


1980年代前半アメリカ本土のエドワーズ空軍基地で撮影したAFTI F-16。外見上の特徴である背部のふくらみと、空気取り入れ口の下に増設された逆2枚のカナードが確認できる(細谷泰正撮影)。

 その後、AFTI F-16は第1段階の試験を終了した後、工場に送られカナードが外されてしまったため。外見上の特徴は失われてしまったものの、機体制御システム等のテストは、その後も続けられました。

 F-16は最初からフライバイワイヤによる飛行制御を前提として設計された機体であるため、機体固有の安定性を恣意的に低く設定しコンピューター制御との親和性を高めています。

 そういった先進性を有していたからこそ、F-16XLやAFTI F-16が生み出されたともいえ、ゆえに1980年代から飛躍的に進歩するデジタル技術を実装する機体としても、F-16は最適であったことを物語っています。