成田空港にはかつて、第2ターミナル本館と別棟を結んだ、ユニークな乗りもの「シャトルシステム」というものがありました。ただこれには、旅客機側にとってはちょっとした困りごとがあったのです。

ズバリ「横に動くエレベーター」

 成田空港にはかつて、第2旅客ターミナル本館と別棟のサテライトを結んだ、ユニークな乗りもの「シャトルシステム」がありました。この交通システムは日本唯一の乗りものでしたが、現在では乗ることができません。また、このシャトルシステムは、とある課題もありました。

 この課題は、現在同空港が打ち出している、将来的にターミナルのレイアウトを集約する「ワンターミナル」構想をはじめとする機能強化の方針のなかでは、ある意味で参考になる例ともいえそうです。


かつて成田空港第2ターミナルの本館とサテライトを結んだシャトルシステム(草町義和撮影)。

 シャトルシステムは複線で、ターミナル本館とサテライトのあいだを無人運行していました。走る姿は、東京都内の新交通システム「ゆりかもめ」に似ていましたが、仕組みは全く異なるものでした。車両の下から圧縮空気を噴き出して浮き上がり、ケーブルに引かれて進んでいたのです。

 日本唯一の乗りものとされるのは、この仕組みからです。ひとことで言えばシャトルシステムは、「横に動くエレベーター」だったのです。しかし、使用開始から21年後の2013年に廃止され、この区間の約300mは現在、通路で結ばれています。

 シャトルシステムの乗車時間はわずか1分間少々でした。それでも、車窓からは一味違った空港の景色を楽しむことができました。ターミナル本館にある展望デッキからは、およそ正面か斜めからしか旅客機を眺めることができませんが、シャトルの両窓は駐機する機体を間近で、しかも真横から眺めることができたのです。

 車窓からは、到着した機体から貨物を降ろしたり、出発へむけ新しい機内食や乗客の荷物を積み込んだりと、てきぱき動き回る地上車両を見ることができ、空港が持つ「機能美」を表すような光景だったと記憶しています。

 反面、シャトルシステムは、旅客機から見ると、成田空港の「機能美」という意味を損なってしまう存在でもありました。

「シャトルシステム」旅客機には悩みのタネに?

 というのも、シャトルシステムは駐機場を区切るように専用路が造られていました。つまり、シャトルシステムの専用路が妨げとなるために、ターミナル本館とサテライトの間を通って目的の駐機場へ向かうことができなかったのです。

 たとえば第1ターミナル側にあるA滑走路から進入・着陸し、第2ターミナル北側(現在の第3ターミナル側)の駐機場を目指す場合は、第1旅客ターミナルの前を通って左に曲がり、さらに第2ターミナルを左手に見て、サテライトを回り込むルートを通って駐機場に入らなければなりませんでした。離陸はこの逆です。


成田空港第2ターミナルに駐機する旅客機(乗りものニュース編集部撮影)。

 このようになるのであれば、シャトルシステムは地下に造るなどして、旅客機が迂回することはなく駐機場にたどり着けるようにできなかったのでしょうか。筆者はこのことを新東京国際空港公団(現在のNAA)で働く方にその疑問をぶつけたことがあります。

 この方によると「出発階と到着階各々のロビーから、緩いスロープを設けて地下化するには距離が短かった。エレベーターなど垂直の導線を交ぜると旅客の移動は煩雑になる」ということでした。――シャトルシステムはあまりにも短い距離に、これを作ってしまったがゆえ、結果として、航空機の円滑な通行を妨げることになってしまったのです。

 成田空港が今目指している「ワンターミナル」構想が実現した場合、旅客は一つのターミナル内で長い距離を移動する必要が出てくることもあるでしょう。現実として、成田のような大空港でもし「ワンターミナル」を実現するのであれば、旅客を徒歩だけで移動させるのは広すぎる建物となる可能性は大いにありえます。そうなると、シャトルシステムのようなターミナル内を走る交通手段も活躍の機会があるのかもしれません。

 その斬新さながら、短すぎたゆえに悲しき顛末を辿ってしまったシャトルシステム。将来の「ワンターミナル」でこういった交通手段が作られるかはまだわかりませんが、ぜひ空港内での機能的なアクセスを確立してほしいと思います。