埼玉県に「ふかや花園プレミアム・アウトレット」が開業し、東京都心などから直行の高速バスが多数設定されます。ここ数年、各地のアウトレットでは高速バスの誘致で交通手段の充実が図られ、その“次”を目指した動きも進んでいます。

首都圏10年ぶりの新規開業「ふかや花園プレミアム・アウトレット」

 2022年10月20日、埼玉県深谷市に「ふかや花園プレミアム・アウトレット」が開業します。首都圏では約10年ぶりとなる、アウトレットモールの新規開業です。
 
 徒歩3分のところに秩父鉄道の駅(ふかや花園駅)があり、JR熊谷駅からの鉄道アクセスが確保されていますが、バス路線も、開業当初から充実しています。東京駅発(バスタ新宿経由)、大宮発(川越経由)の直行高速バスと、東武東上線森林公園駅およびJR深谷駅からの路線バスです。

 ふかや花園に限らず他のアウトレットへも、乗り換え不要で施設へ直接乗り入れる直行高速バスが、数多く運行されています。同様に郊外や近郊に立地するテーマパークでは、東京ディズニーリゾートなど特別な例を除くと、高速バスがなかなか定着しないのと対照的です。


御殿場プレミアム・アウトレットに停まる東急の高速バス。市が尾駅、たまプラーザ駅、センター北駅経由の日吉駅行き(成定竜一撮影)。

 その背景を探ると、アウトレットと高速バスの、切っても切れない関係が浮かび上がってきます。

「都市部から遠い」は自明のアウトレット

 アウトレットは、前シーズンに売れ残ったアパレルの在庫商品などを割引価格で販売するテナントを集めた複合商業施設で、1980年代に米国で生まれました。日本には90年代に上陸し、2000(平成12)年、小田急御殿場ファミリーランドの跡地に御殿場プレミアム・アウトレットが開業して以来、大都市郊外や近郊に立地するスタイルが定着しました。現在は、「プレミアム・アウトレット(以下PO)」ブランドを展開する三菱地所・サイモン社と、「三井アウトレットパーク(以下MOP)」ブランドの三井不動産が二大勢力で、イオンモールや西武グループらも施設を展開しています。

 都心から離れた郊外や近郊、リゾート地といった立地特性は、割引販売というアウトレットの存在価値と、実は大きく関係しています。理由の一つ目は、地価の安さです。しかし、もう一つの理由の方が重要です。

 都心には、高級ブランドの直営店や百貨店など、割引をしない正規品販売店があります。いくら「型落ち」などの理由があるとはいえ、正規品販売店の近くで割引価格にて販売するのは、ブランド側としても都合が悪いのです。つまり、アウトレットは、都心から離れていることが重要です。かといって、単に不便な場所だと集客が困難になります。

アウトレットと相性抜群の高速バス

 そこで「遠いけど、便利」な場所選びがカギになります。米国生まれの業態ゆえ、高速道路のIC近くというのはその有力候補です。リゾートや旅の雰囲気の演出は、遠さを感じさせないためです。東名のIC至近で、かつ富士山を間近に見上げる丘陵地という御殿場POの立地は、これらの戦略の象徴といえます。

 そして、自家用車を持たない来店客には、直行高速バスが有効です。復路はショッピングバッグで両手がふさがることを考えると、乗り換えが少ないことが求められるのです。

 アウトレット直行高速バスは、小田急箱根高速バス(現・小田急ハイウェイバス)が、新宿〜御殿場PO線をツアー形式で運行したのが最初です。御殿場はその後、東京駅、池袋、横浜など主要ターミナル駅からの路線とともに、日吉、たまプラーザ、立川、西船橋など郊外発の便を増やし、現在では東京都、神奈川県、千葉県の各地から、週末には合計で22往復も運行されています。

 他に、MOP木更津、神戸三田POなどの直行高速バスが特に充実しています。最近では、都心に比較的近く、鉄道でアクセスできるMOP横浜ベイサイドやジ・アウトレット北九州へさえ、直行バスが運行されています。


御殿場プレミアム・アウトレットの直行高速バス車両待機スペース(成定竜一撮影)。

 プレミアム・アウトレットを展開する三菱地所・サイモンの柿崎一則マーケティング部長は「直行高速バスで来店するお客様は、ショッピングそのものを目的としているので買上げ率(来店客のうち、実際に購買する人の比率)が高く、運営会社として期待が大きい」と話します。

 同社の施設への直行高速バス車内では、多くのテナントで使用できる割引クーポンが配布されるので、往復のバス運賃程度は簡単に「元」が取れそうです。

都心〜アウトレットの単独需要では収益性に難

 バス事業者の側にもメリットがあります。「地方の人の都市への足」として成長した高速バス業界は、大都市部での認知度が劣ります。大きな集客力を持ち、公式サイトの「アクセス」のページなどで積極的にバスを告知してくれるアウトレットは、大都市側の観光客を取り込む最適なパートナーといえます。

 これにはバス事業者側からの「お返し」もあります。アウトレット線の運行は大手私鉄系のバス事業者が中心ですが、大手私鉄のグループは、沿線での告知力が絶大です。電車の車内吊りや駅貼りのポスター、無料配布の広報誌など、沿線住民に訴求する多様な媒体で高速バスの情報を露出させることができます。そこには、バスだけでなく、セール(バーゲン)の情報なども掲載されますから、自ずと、アウトレット自体の情報発信にもつながるのです。

 ただ運用面では課題もあります。直行高速バスで来店する人のアウトレット滞在時間は、おおむね4〜5時間です。単純に、都心を朝に出発し夕方に戻るダイヤを組むと、1台の車両と1人の乗務員を、まる1日拘束することになります。しかしながら、都心からおおむね30〜40kmの郊外や、おおむね100km以下の近郊への距離では、片道運賃が数百円から千円台に留まるので、収益性に課題があります。


東急大井町線の車内吊り広告。新路線開設時やセール期間前などに掲出される(成定竜一撮影)。

 そこで、ダイヤ作りに工夫が見られます。たとえば千葉交通らの東京〜銚子線は、早朝の上り便の乗車率は高いものの、その折り返し便の需要は少ないので、朝の下り便の一部を、中間で酒々井IC近くにある酒々井POを経由させています。京王バスらの渋谷〜河口湖線はもともと東名〜東富士五湖道路周りでしたが、御殿場ICを降りた後、一部の便が御殿場POを経由するようになりました。

 今回開業する、東京駅・バスタ新宿からふかや花園POへの路線も、東京〜伊勢崎線の一部が花園ICで関越道をいったん降りて経由するものです。他方、MOP木更津や神戸三田PO行きの高速バスは、千葉県木更津市や兵庫県三田市の住宅地から都心への通勤を担う高速バスが、大勢の通勤客を乗せて都心に着いたあと、折り返しでアウトレット線に入っています。

単なるお買い物バスではない! 拠点になるアウトレット

 このようにアウトレット行き高速バスの運用は大きく2つに分けられます。近郊立地なら中距離路線が立ち寄るパターン、郊外立地なら通勤高速バスの折り返し車両をアウトレット行きに仕立てるパターンです。いずれも、「朝に都心へ着く需要が大きい一方、大都市側を朝出発する便の需要が小さい」という高速バスの特性と、10時の開店直後にアウトレットへ着きたいショッピング客のニーズをうまく噛みあわせています。

 コロナ禍で全国的に高速バスの輸送人員が落ち込んだ中、アウトレット線は、週末には続行便(2号車)も設定されるなど影響は小さく済みました。止まっていたインバウンド需要も、FIT(個人自由旅行)の解禁で本格的に復活しそうです。円安効果により、当面、インバウンドのショッピング消費が旺盛になると思われます。

 各地のアウトレットは、ショッピングモールに留まらない地域の拠点になりつつあります。ふかや花園POには、野菜の魅力を体験できる複合施設「深谷テラス ヤサイな仲間たちファーム」が隣接し、MOPジャズドリーム長島は、ホテルや遊園地とともに、巨大観光複合施設といえる長島温泉の一角を構成しています。そして、御殿場POは、首都圏と京阪神を結ぶ東名という大動脈と、箱根と富士山・富士五湖という二大観光地との十字路に位置し、2020年には敷地内にホテルや温浴施設も開業しました。

 さらに、御殿場PO〜富士急ハイランド・河口湖線や、MOP北陸小矢部〜高山線など、アウトレットと観光地を結ぶ高速バス路線も生まれています。


三井アウトレットパーク北陸小矢部を発車する、白川郷経由・高山行きの濃飛バス(成定竜一撮影)。

 三菱地所・サイモンの柿崎部長は「周辺の観光施設との相互送客に、さらに注力したい」と話しています。今後、多くのアウトレットは単なる商業施設に留まらず観光の「ハブ」の位置づけを目指すものと考えられ、周辺観光地へのバス路線や、現地集合の着地型バスツアーなどの充実が望まれます。