世界最大級を誇る「SEP船」と呼ばれる作業船が公開されました。建造したのはゼネコン大手の清水建設。この船で、5兆円規模に上るという「洋上風力発電所」の市場に切り込んでいきます。

でけえ… 2万8000総トンの大型作業船

 異例の大きさの「作業船」がついにお披露目です。清水建設は2022年10月5日、世界最大級の自航式SEP船(自己昇降式作業台船)「BLUE WIND」を報道関係者に公開しました。


清水建設のSEP船「BLUE WIND」(深水千翔撮影)。

 SEP船とは、クレーンなどが設置されているプラットフォーム(船台) と、洋上に留まるための昇降式の脚で構成された作業用の船舶です。その主な目的は、陸地から遠く離れた洋上風力発電所の建設にあります。洋上風力の需要拡大と大型化に備え、清水建設が造船大手のジャパンマリンユナイテッド(JMU)に発注していたもので、2023年から稼働を開始する予定。清水建設エンジニアリング事業本部の清水優本部長は「このSEP船を有効に活用し、洋上風発建設工事のトップランナーを目指していきたい」と述べました。

「BLUE WIND」は、JMUが建造を手掛け、同社子会社JMUアムテックで艤装工事が行われました。投資金額は約500億円。船体の全幅は50m、全長は142m、総トン数は2万8000総トンで、搭載されたクレーンの最大揚重能力(吊り上げ能力)は2500トン、最高揚重高さは158mと世界有数の性能を誇っています。

 作業時には4本の脚を海底に着床させ、船体をジャッキアップさせることで海面から切り離し、波浪に左右されない作業条件を確保。水深10mから65mの海域での作業に対応しており、海が荒れて波が高い時でも、安定した姿勢で工事ができることが強みです。

 同船は推進システムとしてスラスターを6基備えており、拠点港と作業海域を自力で往復できる能力を持っています。そのため非自航式のSEP船と違い、曳航を行うタグボートを必要としません。DPS(位置保持システム)も搭載しているため、同じ位置に留まったまま、洋上風発の設置工事の準備に取り掛かれます。

洋上風力発電所の“作り方” SEP船は強い味方!

 SEP船による洋上風車の建設手順は、はじめに風車の基礎を施工。続いて、風車のタワー、ナセル(駆動部)、ブレード(羽)をSEP船に搭載・運搬し、基礎上に据え付けます。

「BLUE WIND」は、8MW(メガワット)風車なら7基、12MW風車なら3基分の部材すべてを一度に搭載でき、予備日をみても8MW風車の場合は7基を10日、12MWの場合は3基を5日で据え付け可能です。気象や海象条件が非常に厳しい日本周辺海域での使用を想定した性能を持っており、太平洋側の特徴である10秒程度の長周期波浪(うねり)においても船体のジャッキアップ・ダウンができ、既存のSEP船に比べて高い稼働率を発揮することが期待されています。

 同船は10月下旬から瀬戸内海でジャッキアップ・ダウンやクレーン操作といった習熟訓練を約4か月行った後、2023年3月から実際に洋上風発施設の建設現場へ投入。ウェンティ・ジャパンが計画している富山県入善町沖で、3MW風車3基の施工を実施します。

 その後、北海道の石狩湾へと移動し、グリーンパワーインベストメントが開発を進める日本初の8MW大型風車を採用した国内最大級の商用洋上風発「石狩湾新港洋上風力発電施設」を施工する予定。6月中に室蘭港で艤装を整え、7月から始まる建設工事に備えます。


BLUE WINDのブリッジ(深水千翔撮影)。

 洋上風発は「今後、拡大が期待されているエネルギー源」(資源エネルギー庁)として期待されています。同庁は、2030年に温室効果ガス46%削減(2013年度比)とする目標を達成するためには、風力発電の導入を拡大し、陸上風力で17.9GW、洋上風力で5.7GWという水準を目指す必要があるとしています。

清水建設は、風車本体の調達から設置工事までを含む洋上風発施設建設工事の市場規模を5兆円超と試算。日本政府による2050年カーボンニュートラル宣言などで、再生可能エネルギー市場に注目が集まる中、自航式SEP船を活用し洋上風発の需要を取り込んでいく考えです。