「オミクロン株」対応ワクチン接種 9月に実施前倒しへ

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新型コロナウイルスの変異株のオミクロン株に対応した新しいワクチンについて、これまで10月半ばに想定していた接種開始を9月中に前倒しする方向で政府は調整に入りました。このニュースについて甲斐沼医師に伺いました。

監修医師:
甲斐沼 孟(医師)

2007年大阪市立大学医学部医学科卒業、2009年大阪急性期総合医療センター外科後期臨床研修医、2010年大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、2012年国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、2013年大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、2014年国家公務員共済組合連合会大手前病院救急科医員、2021年国家公務員共済組合連合会大手前病院救急科医長。
著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など多数。
日本外科学会専門医 日本病院総合診療医学会認定医など。

今回のニュースのポイントは?

今回のニュースのポイントについて教えてください。

甲斐沼先生

今回のニュースは、新型コロナウイルスの変異株であるオミクロン株に対応した新しいワクチンが「いつ接種開始されるのか」に関する内容です。これまで、政府は8月の段階でオミクロン株に対応したワクチンの接種を「10月中旬以降に開始し、接種対象を2回目までの接種を終えた全ての人とする」方針を定めていました。しかし、今回新たにわかったことは、政府が10月半ばと想定していた接種の開始時期を9月中に前倒しする方向で調整に入ったということです。

新たなワクチンが薬事承認された場合、9月に輸入をはじめて接種体制が整えられることになります。新しいワクチンは、ファイザー社とモデルナ社が開発中のワクチンを使用することが想定されています。従来株に由来する成分とオミクロン株の1つであるBA.1の2種類を組み合わせた2価ワクチンで、現在国内で流行しているBA.5に対してもウイルスの働きを抑える中和抗体の値が上昇することが見込まれています。

オミクロン株対応ワクチンとは?

オミクロン対応ワクチンについて教えてください。

甲斐沼先生

WHO(世界保健機関)によると、従来使用されてきたワクチンでもオミクロン株を含む全ての新型コロナウイルスに対して一定程度の重症化予防効果があるとされています。ただし、従来のワクチンはオミクロン株への感染防止や発症予防の効果が低い、あるいは「接種してから時間が経つと効果が弱まる懸念があるため、オミクロン株対応のワクチンの開発が進められてきました。

オミクロン株対応のワクチンは、2022年6月にファイザー社がFDA(アメリカ食品医薬品局)に臨床試験の結果を提出しました。臨床試験では、「56歳以上を対象にBA.1対応型ワクチンを4回目の接種で使用すると、従来型ワクチンを4回目に接種した人と比べてオミクロン株の派生型BA.1に対してウイルスの働きを抑える中和抗体の値が平均で1.56倍から1.97倍上昇した」ことが示されました。また、現在流行しているBA.5に対しては「BA.1には劣るものの、中和抗体の値の上昇がみられた」と報告しました。加えて、モデルナ社の臨床試験では、「従来のワクチンと比較してBA.1に対して平均で1.75倍上昇を示した」と報告しています。

接種開始時期の前倒しへの受け止めは?

オミクロン株対応ワクチンの接種開始時期が前倒しされたことについての受け止めを教えてください。

甲斐沼先生

今回、ファイザー社とモデルナ社は厚生労働省に対して、中国武漢などで流行した従来型ウイルス以外で流行しているオミクロン株の「BA.1」系統にも、感染・重症化予防効果が発揮できるように改良された新ワクチンの承認申請を実施しました。新たなワクチンは、2021年冬に流行したオミクロン株の系統の1つ「BA.1」、および初期の流行株の2つのウイルス株に対応した「2価ワクチン」であり、2022年夏時点で感染拡大している「BA.5」系統にも効果が期待されています。

新ワクチンが薬事的に承認されれば、9月に輸入を開始して、2回接種を終えた国民を対象にワクチン接種するための十分量を確保できる見通しが立っています。そして、日本政府は新ワクチンを用いた3回目以降接種に関して従来の10月半ばの予定を前倒しして、9月から開始できるように検討していることが判明しました。

近い内に厚生労働省の専門家分科会で接種対象を議論して、予防接種法上の臨時接種に位置づけて接種費用を公費負担で賄えるかどうかを決定する見込みです。2回目のワクチン接種が完了後、高齢者や基礎疾患を有する場合だけでなく全ての国民対象者に順調に接種できるように、各自治体などにおいて接種体制整備などを中心に適切に準備を進めていくことが今後は期待されます。

まとめ

政府が新型コロナウイルスの変異株のオミクロン株に対応した新しいワクチンについて、これまで10月半ばに想定していた接種開始を9月中に前倒しする方向で調整に入ったことが今回のニュースでわかりました。新しいワクチンの導入には、高齢者の重症化を防ぐとともに若い世代も含め社会全体の免疫を上げる狙いがあり、滞りなく接種できる体制作りにも注目が集まります。

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