鼠径ヘルニアの日帰り腹腔鏡手術、術前・術中・術後にかけての注意点まとめ

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腹部に小さな穴をあけておこなう「腹腔鏡手術」であれば、従来の切開手術と比べてキズが小さく痛みも軽く済みます。この手術を日帰りでも受けることは可能なのでしょうか。今回は「東京外科クリニック」の大橋先生に、鼠径ヘルニアで腹腔鏡手術を受ける際の流れについてお聞きしました。

監修医師:
大橋 直樹(東京外科クリニック 院長)

日本医科大学卒業。慶應義塾大学医学部外科学教室助教を務めた後、各医療機関でヘルニア修復術の日帰り・短期入院の普及に尽力する。2015年、「東京外科クリニック」院長に就任、2017年には「医療法人社団博施会」理事長に就任。2022年より「東京外科グループ」代表。複数院体制で専門医の執刀による安心・安全な日帰り手術に注力している。日本外科学会専門医。日本内視鏡外科学会、日本ヘルニア学会、日本臨床外科学会の各会員。

【術前】前日の夜から食事制限が必要

編集部

先生の医院では、腹腔鏡による鼠径ヘルニアの日帰り手術をおこなっているそうですね?

大橋先生

はい。現段階で約3300症例にわたる鼠径ヘルニアの腹腔鏡手術を扱いました。ただし、日帰り手術とはいえ事前の検査が必要で、心電図や採血に大きな異常がないか確認します。当院では、初回診察時に手術日を決めることが可能ですが、異常が後日判明した場合は連絡することもあります。なお、手術の準備期間を含めて2週間ほどお待ちいただいています。

編集部

鼠径ヘルニアの中身が腸だとしたら、手術前の食事制限はあるのですか?

大橋先生

お食事は、原則として「前日の夜9時」から控えていただきます。なお、飲み物についての時間制限はありませんが、お水かお茶にしてください。飲酒は前日・当日に限らずNGです。アルコールによって、麻酔の効果に影響してしまうからです。

編集部

服用している薬がある場合、術前に飲んでもいいのでしょうか?

大橋先生

初回の診察時に確認いたしますが、服用しても構わないケースの方が多いですね。例外は、糖尿病の薬です。手術当日の朝は食事を抜いているため、誤って服用すると過剰に血糖が低下してしまう恐れがあります。

編集部

手術日の前日までは、普通に仕事をしていてもいいのですよね?

大橋先生

はい。通常どおり、お仕事をしていただいて構いません。手術までのわずかな間にヘルニアが“極端に進行する”ことは考えられないからです。怖いのは飛び出した腸が戻らなくなる「嵌頓(かんとん)」という状態ですが、初診時に嵌頓の可能性が疑われたら、別途の指示をいたします。場合によっては、手術日程を早める可能性もあります。

【当日】麻酔の影響があるので、無理せず丸1日の休養を

編集部

手術日当日は、指定された時間に受診すればいいのですよね?

大橋先生

そうですね。術前に「体調の再確認」が必要なのですが、そのプロセスも含めてお時間を指定しています。院内に滞在いただくお時間の合計は、麻酔のリカバリーも入れて合計2~3時間くらいでしょうか。なお、手術そのものは1時間前後です。

編集部

麻酔の種類についても教えてください。

大橋先生

クリニックによって、局所麻酔なのか全身麻酔なのかは異なります。当院の腹腔鏡手術では、「気づいたら手術が終わっていた」と感じられるような全身麻酔で対応しています。なお、麻酔薬の量や濃度を調整して、平均すると「術後約1時間」でご帰宅いただけるような処置に努めています。

編集部

麻酔の影響を考えると、受診時の運転は避けた方がいいのですよね?

大橋先生

はい。自転車も含め、「運転」が必要な乗り物では来院しないでください。公共の交通機関を利用しましょう。また、術後に痛み止めを処方しますので、院内で服用していただきます。痛みや麻酔の効果について医療従事者が確認し、「帰宅可」と判断したらお帰りください。痛みに関しては、むしろ時間経過によって薬の効果が薄れて、“増す”場合もあります。その意味でも、帰宅できる楽なタイミングをお伝えしています。

編集部

もし、会社を休むとしたら「半休」でなんとかなりそうですか?

大橋先生

手術当日は丸1日、休んでいただきたいと思います。麻酔薬の質は良くなりましたが、それでも術後に影響が出ることはあります。ボーっとした状態が続くこともあるので、その日はゆっくり休んでほしいですね。翌日からご自身で「問題ないな」と思ったら、仕事に復帰しましょう。

【術後】痛みと折り合いがつくのであれば復帰を

編集部

術後は、何度か定期通院して予後観察をおこなうのですよね?

大橋先生

定期受診の間隔や有無についても、各医院で異なると思います。当院の場合、電話やオンラインなどで状態を伺っていますので、直接の来院は不要です。とくに最近は感染症の影響で、医療現場にも様々な効率化が起きているような印象があります。もちろん、受診を希望する人を拒むことはありませんし、再診をこちらからお願いすることもあります。

編集部

農作業や引っ越し業のような「力を入れる仕事」の場合、復帰の目安は?

大橋先生

「痛み」が1つの判断基準になると思います。術直後の痛みの感じ方には個人差がありますので、我慢できるようであれば、ご自身の判断で復帰していただいて結構です。

編集部

手術痕のケアは、どうすればいいでしょうか?

大橋先生

腹腔鏡の手術痕に保護テープを貼りますが、3日ほど経ったら剥がしていただいて構いません。簡単なシャワーであれば手術当日から可能ですが、入浴の解禁は保護テープを剥がしてからになります。なお、痛みが完全に無くなるには、数週間かかることもあります。

編集部

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

大橋先生

鼠径ヘルニアの治療は、日帰りでおこなう時代だと感じています。新型コロナウイルス流行の影響で、入院手術前提の医療機関は待機期間が非常に長くなり、問題となりました。一方で、当院は元々日帰り手術センターであったため、平時同様に活動を続けることができました。腹腔鏡でも日帰りで安全におこなうことができると証明されている今、患者さんの時間とお金の消費を最小限にして、早く元の生活に戻れるようにお手伝いしたいと思っています。

編集部まとめ

今回の話をまとめると、「術前は服用薬の確認」、「手術当日は麻酔の効き目」、「術後は痛みとの折り合い」が、それぞれカギになりそうです。なお、鼠径ヘルニアに限らず、手術の流れは医療機関ごとに違いがあります。キーポイントは同じですが、上記とは異なった指示が出るかもしれません。その場合は、担当医の言うことに従いましょう。

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