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7月31日、東京・Spotify O-EASTにて、黒崎真音のワンマンライブ“MAON KUROSAKI LIVE2022『-REBOOT-』”が開催された。およそ3年半ぶりとなる有観客でのワンマン、そして昨年に突如として彼女を襲った悲劇からの再起動となったこの日。そこにはあれから止まってしまった時を動かした彼女が、“黒崎真音のライブ”という本来の魅力をしっかりと見せつけながらも、そこに至るまでに抱える様々な感情を音楽で語るという、実に重厚かつ感動的なものとなった。この日彼女は音楽で、言葉で何を我々に語りかけたのか――。

再起動開始、その第一声は――。



この日の会場であるSpotify O-EASTの1Fフロアは、黒崎の復活を待ち望んだファンでパンパン。しかし開演を待つファンの多くは、コロナ禍で声が出せないということもあってか、会場BGMが鳴るなかでも独特の静けさがあるというか、何か緊張した空気感というものが、筆者たちがいる2階席まで届いてくるようだった。O-EAST特有の広いステージ上にはバンドセットが広く配置されている。そして何より目を引いたのは、ステージ後方にある巨大なスクリーンだ。会場が暗転すると、そのスクリーンにはヴァイタルサインのような信号が映し出され、心臓の鼓動のような音が鳴り響く。それが実際に何を意味するかはわからないが、まるで彼女が活動を停止せざるをえなくなったあのときからヴァイタルが回復していくその過程を示しているようにも感じられる。そして映像がアンティークなパソコンの再起動画面へと変わる頃には、会場に鳴る心音が早くなっていく。そして文字通りの再起動が完了したことを示す“REBOOT”というタイトルが映し出されるなか、黒崎がステージに登場、「LIMIT BREAK」のイントロダクションが鳴らされた。注目すべきは、その“第一声”である。深刻な病を乗り越えてのライブの開催が発表されたとき、それは当時喜びをもって迎えるべきではあった。しかしまた、どこかではわずかながら果たして本当に大丈夫なのか?という感情もまた、この日会場に詰めかけた多くの観客にはあったはずだ。しかし、「LIMIT BREAK」で聴かせたその“第一声”は確かに力強く、彼女が戻ってきたのだと確信させるのに何より雄弁に耳に飛び込んでくる。ステージ上の黒崎は時折からだをゆらゆらと揺らしながら爆音に乗って、突き抜けるようなパワフルな歌唱を響かせる。そうした力強さは続く「Gravitation」でも変わらず、スクリーンに映し出された鋭くギラギラとした眼光にはっとさせられる。これこそが、我々が待ち望んだ“黒崎真音のライブ”なのだ。











言葉ではなく、歌で伝える“これまで”のこと



まるで一瞬の出来事のような2曲を終え、最初のMCへ。そこで黒崎は「最後まで……ついてきてくれますか!」と何度も観客を煽っていく。久々のライブでありながらいつも通りの黒崎という印象のコンパクトなMCを挟んだあとにはスマートフォンゲーム「とある魔術の禁書目録 幻想収束」の主題歌「JUNCTION」へ。スクリーンには「とある魔術の禁書目録 幻想収束」の映像が大きく映し出される。続く、ダンスもクールにキマる「刹那の果実」では『グリザイアの果実』が、ヘビーな「SCARS」では『HELLSING』……と、この日の派手な映像演出もまた会場の盛り上がりに大きく貢献していた。そうしたアニメ作品とのコラボを経たあとは、2019年発表のアルバム『Beloved One』から「A.I.D」へ。この曲のモチーフでもあるゾンビになったように黒崎もステージに膝をついて妖しく歌い上げる。そこからダークな雰囲気のまま「“lily”」で、より自身の内面を抉っていくような物悲しい歌声を聴かせていく。そんなエモーショナルなパフォーマンスを聴かせたあと、背景のスクリーンに時を刻む時計が映し出される。そして鳴らされたのは――黒崎と神田沙也加とのユニット・ALICesの「Chocolate_Cosmos」だ。スクリーンには黒崎と神田のシルエットが映る。そのMVをバックに、黒崎は神田のボーカルトラックに声を重ねる。スタイリッシュで切ないサウンドのなかで刻まれるALICesのデュエットはあまりに美しく響き、観客の胸を打つ。そして歌い終わると、黒崎はしばしステージ上をうろうろと歩く。ステージ上の黒崎も、客席のファンたちもALICesの残した余韻にしばらく漂うような時間が過ぎ去っていった。そしてアコースティックギター1本で鳴らされた「Black Bird」へと続くのだが、これもまた彼女の生き様を示したアルバム『Beloved One』からの1曲だ。そこで語られる言葉たちはあまりに悲痛で、「”lily”」から始まったこの一連のブロックは、まるで彼女が昨年からの時間のなかで得た感情をそのまま、ダイレクトに客席に届けているようだった。MCで語ることではなく、音楽で雄弁に自身の感情を語る。それはまるで、彼女自身の喪失からの再生という過程を見せているようでもある。そうした重苦しいムードのなか、このブロック最後に鳴らされたのは、「体温-I’ll be by my side forever-」だ。ダークな雰囲気のステージには生命が脈打つような黄色いライトが照らされるなか、彼女の声はどこか掠れて震えているように聴こえる。この日、この瞬間でしか出すことのできない彼女の生身に触れるような歌声は美しく響き渡った。



まるでドキュメンタリーのような彼女の生き様を観た、そんなエモーショナルなブロックのあとは、バンドインストを挟んでEDMゾーンへと一気にシフトチェンジする。衣装も身軽にキュートな猫耳をつけての「Love 〇 JETCOASTER」「Peko♡Peko♡Peach♡」を笑顔でプレイ。一気に華やかなムードのなか、バンドメンバーとの和気あいあいとしたトークを挟んで、今度は再びアグレッシブなパートへ。ストゥールに腰掛けて赤い布を振り回しながらの「Red Alert Carpet」、ステージ中央に置かれたシンバルを一心不乱に叩きながらアグレッシブに歌を乗せる「UNDER/SHAFT」、そして続く「X-encounter」でのデジタルサウンドに乗せて躍動感溢れる歌唱を聴かせるパフォーマンスは強烈の一言。MCでは有観客でのライブができなかった期間の苦悩を話しながら、「去年は皆さんにたくさんの心配をおかけしました。でもこの通り……MC噛んだりしますけど、元気に過ごしています。待っていてくれたみんなのおかげです、本当にありがとう」とファンに感謝を述べた。そして「私にとっての始まりの曲」を告げてから、デビューアルバム『H.O.T.D.』から「君と太陽が死んだ日」を鳴らす。ヘビーなサウンドのなかで歌われる激情。それは決して終わりではなく、また新たな始まりであることを告げているようだった。そして本編最後にはメロディアスなロックナンバー「VANISHING POINT」を鳴らし、最後までエネルギッシュに歌い上げてステージを去った。



絶望から生まれた新たな“作品”



そして観客の手拍子のあとにスタートしたアンコールでは、いきなりの新曲の披露となる。しかもそれは、彼女が原作・原案を手がけた音楽劇「ジェイド・バイン」主題歌「Singularity」だ。サウンドとしては実に黒崎真音らしい、ストレートなアニソン的と思わせるメロディアスな1曲。ライブ映えするそのサウンドに、初披露ながら客席も再び盛り上がりを見せる。そうした新曲披露のあと、黒崎は客席に背を向け、スクリーン上に映し出された「ジェイド・バイン」のキービジュアルを感慨深げに見つめていた。そのあと絞り出すように「……やっと発表できました」と口にした。そして「ちょっとゆっくり話していい?」と言って、観客に「ジェイド・バイン」が生まれた経緯を語り始めた。9月に倒れ、病院で意識を取り戻したあとの自身の姿を鏡で見たとき、「もう……終わらせよう」と思ったのだという。そうした絶望のなかで、彼女が自らを取り戻すように始めたのが、創作活動だった。昨年の彼女の感情を映し出したのがジェイド・バインというキャラクターであり、それがやがて「ジェイド・バイン」という作品へと繋がっていったのだ。いわばドキュメンタリー的な側面もある本作は、自身もリリー・ハリソン役としてこの11月に舞台化されることが発表された。止まっていた時間を言葉にし、それを作品にする。これもまた1つの絶望からの再生もあるのだ。そのあとは「やっと温かいお知らせができたから、温かい曲をお届けしようかな」と言って、「ずっとみんなに届けたいメッセージ」という「Wishful☆Garnet」を披露。サビで観客を指差すいつもの光景が見られたあとは、最後に「メモリーズ・ラスト」をプレイ。最後には“再起動”が完了したことを示すように、「本当にみんな、来てくれてありがとう!ここにいてくれてありがとう!気持ちをかけてくれてありがとう!忘れないでくれていてありがとう!祈ってくれていてありがとう!ただいまー!」と叫び、この日をステージを終えた。最後には「おかえり」のサインボードで客席が埋め尽くされるというサプライズもあって、ハッピーなムードでの終演となった。





誰しもが彼女の現在、そしてその先を案じる時間が過ぎ、そのあとに訪れた歓喜の瞬間。そこに至るまでの壮絶さというのは筆舌に尽くし難いものがあっただろう。しかし彼女はそこで折れることなく前を向き、そしてその絶望も抱えながら再生の道を歩んだ。そうした道程を観客に1つ1つ伝えるようなセットリストだったこの日――そこに見えたものは、未来へと続くひと筋の光だ。創作活動という彼女にとっての新たな軸とともに、黒崎真音というアーティストの表現はこの先さらなる広がりを見せていくだろう。そこで彼女はどんな歌を聴かせていくのか。今から楽しみでならない。

PHOTOGRAPHY BY 中村ユタカ

TEXT BY 澄川龍一

<セットリスト>

MAON KUROSAKI LIVE2022『-REBOOT-』

2022年7月31日(日)渋谷Spotify O-East

01. LIMIT BREAK

02. Gravitation

03. JUNCTION

04. 刹那の果実

05. SCARS

06. A.I.D

07. “lily”

08. Chocolate_Cosmos

09. Black bird

10. 体温-I’ll be by my side forever-

11. LOVE ○ JETCOASTER

12. Peko♡Peko♡Peach♡

13. Red Alert Carpet

14. UNDER/SHAFT

15. X-encounter

16. 君と太陽が死んだ日

17. VANISHING POINT

――ENCORE――

18. Singularity

19. Wishful☆Garnet

20. メモリーズ・ラスト

●上映情報

黒崎真音 原作・原案

音楽劇「ジェイド・バイン」

公開期間:2022年11月17日〜11月23日まで

会場:シアター1010(東京都足立区千住3-92 千住ミルディスI番館10F)

詳しくは「ジェイド・バイン」公式サイトをチェック

●関連リンク



黒崎真音 公式サイト

https://nbcuni-music.com/maon/

黒崎真音 公式Twitter

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黒崎真音 公式YouTube

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黒崎真音 公式ブログ

https://ameblo.jp/kurosakimaon/