ミドシップ・スポーツ比較試乗 ロータス・エミーラ x ポルシェ718ケイマン 精鋭を超えるか? 後編
エヴォーラから飛躍したインテリア
ロータス・エミーラの車内には、上質なレザーが張られたダッシュボードと、アルミニウムで飾られたセンターコンソールが備わる。大きなグローブボックスのほか、各所へ小物入れも用意され、カップホルダーすら付いている。
【画像】新世代ロータス エミーラ 競合のポルシェ718ケイマンと写真で比較 先代エヴォーラも 全89枚
エアコンの操作パネルでは、金属のノブがキラリと光る。プレミアム・オーディオと、10.3インチのタッチモニターによるインフォテインメント・システムも装備する。エミーラの車内は、ポルシェのように潤沢だ。
レッドのロータス・エミーラ V6 ファーストエディションと、グリーンのポルシェ718ケイマン GTS 4.0
また、これまでのエヴォーラと比べれば、遥かに乗りやすい印象も与えてくれる。快適に日常的な移動もこなせるだろう。ロータスで。
新時代のブランドを指し示すモデルとして、エミーラは遥かに文明化されている必要があった。ポルシェのテリトリーを脅かすために。試乗車は量産版の1つ手前といえる、最終版のプロトタイプだったが、それでも明らかに従来から飛躍している。
さて、走りの方へ話を戻そう。718ケイマン GTSには、標準でPSAMと呼ばれるアダプティブダンパー付きのサスペンションが付いてくる。長距離でも、至って快適にクルージングできる。
エミーラには通常のダンパーが組まれ、乗り心地は比べれば硬め。路面へ追従するが、凹凸の存在も感じ取れる。ノイズは小さい。しかし、よりソフトなツーリング・サスペンションと、公道用のグッドイヤー・タイヤを履いていれば、だいぶ優しい。
明確な二面性を与えられた音響体験
2台とも、優れた現代のスポーツカーとして、明確な二面性が与えられている。高めのギアで高速道路を淡々と走りたい時は、エグゾーストノートも静か。シフトダウンしてエンジンの回転数を高めれば、マフラーのバルブが開き、快音を奏でることもできる。
穏やかなハミングから、咆哮のような抜ける響きへ変化する718ケイマンの方が、振り幅が大きい。クルージング時も、より静かに保たれる。エミーラのV6エンジンは、本域でより甘美で厚みのあるサウンドを放つ。
ロータス・エミーラ V6 ファーストエディション(英国仕様)
ポルシェが、気持ちを高揚させるサックス・カルテットなら、ロータスは、心へ響くオペラ歌手といったところ。さらにスーパーチャージャーで過給され、機械的なノイズも大きい。どちらでも、スポーツカーとして不満なく豊かな音響体験が得られる。
ここまでのエミーラは順調。日常的に乗れるスポーツカーとして、見通しは良好だ。それでは、そのカナメといえる動的能力はどうだろう。ロータスらしいと感じる走りで、ポルシェに迫ることはできるだろうか。
世界の自動車産業でも、最も収益性に優れたドイツ・ブランドを凌駕することができるとすれば、それは驚くべき事実だ。大きなバックアップで、優れたモデル開発のために数年間尽力してきたとしても。
確かに、ドライバーに対する訴求力という点で、718ケイマンより優れているポイントがある。まず、ロータスが採用した油圧パワーステアリングは、繊細で魅力的な感触を手のひらへ伝えてくれる。
タイヤや路面の状態を伝えるステアリング
そして、ポルシェが車高の低いサスペンションのストロークを使い切り、姿勢制御に陰りが見え始めるような区間で、ロータスの無限に思える減衰特性が光り始める。見事な落ち着きを保ってくれる。
乗り心地以上に、路面の状態をステアリングホイールを通じて感じ取ることができる。適度にクイックなレシオと重み付け、フィードバックが相まって、ワインディングと素晴らしいマッチングを披露する。
レッドのロータス・エミーラ V6 ファーストエディションと、グリーンのポルシェ718ケイマン GTS 4.0
切り始めは穏やかで、タイヤのキャンバー角が変化する様子すら感じ取れる。感触が豊かだとしても、不安定に感じさせることはない。
コーナーへ飛び込んでいけば、タイヤのサイドウォールやサスペンションが縮んでいく様が伝わってくる。近年のクルマを俯瞰しても、ここまでのフィーリングをドライバーへ与えてくれるモデルは、極めて限定的だ。
他方、718ケイマンのストロングポイントは、よりキビキビとリニアに反応するシャシーとエンジン。エミーラよりひと回り小さいボディサイズと、高精度な操縦性を併せ持ち、やや薄い感覚的な部分を補っている。実際、操縦性のバランスは優れている。
6速MTのフィーリングも良い。回るほどに勢いを増していくような、自然吸気の水平対向6気筒エンジンも載っている。V6エンジンをスーパーチャージャーで過給するエミーラの方が、ギア比の特性もあって中間加速は鋭いけれど。
どちらのクルマも、意欲的に鋭く運転することが楽しいことは間違いない。そして、日常的に運転するのに不足なく快適でもある。
正のスパイラルを加速させるエミーラ
冷静に比較すると、ロータスの仕上りは非常に素晴らしい。だがポルシェの方が、僅かながら、より優れている。
エヴォーラから大幅な進化を遂げたエミーラは、評価するべき点が多い。だとしても、快適でマナーが良く、時々悪ふざけもできる718ケイマンは、スポーツカーの万能選手としての地位を譲ることはない。
ロータス・エミーラ V6 ファーストエディション(英国仕様)
10年前に平均的なスポーツカーの購買層へ、エヴォーラとケイマンを試乗してどちらを選ぶか聞いたとしたら、恐らく90%以上は後者を選んだはず。だが、今は違う。
2022年にエミーラと718ケイマンを乗り比べたら、10%から20%くらいは、前者を選択するだろう。ポルシェが選ばれる割合と比べれば、まだ小さな数でしかない。それでもこの変化によって、へセルの生産能力には2倍から3倍が求められることになる。
エミーラは、ロータスの正のスパイラルを一層加速させるに違いない。小さくも重要な一歩になる。数年後には、ポルシェとより対等に戦えるモデルが誕生するかもしれない。新しいブランドの、正しい未来への入り口だといえるだろう。
718ケイマンとエミーラ 2台のスペックポルシェ718ケイマン GTS 4.0(英国仕様)のスペック
価格:6万5390ポンド(約1092万円)
全長:4379mm
全幅:1801mm
全高:1295mm
最高速度:292km/h
0-100km/h加速:4.5秒
燃費:9.2km/L
CO2排出量:247g/km
乾燥重量:1405kg
パワートレイン:水平対抗6気筒3995cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:400ps/7000rpm
最大トルク:42.7kg-m/5000rpm
ギアボックス:6速マニュアル
ロータス・エミーラ V6 ファーストエディション(英国仕様)のスペック
英国価格:7万6415ポンド(約1245万円/試乗車)
全長:4412mm
全幅:1895mm
全高:1224mm
最高速度:289km/h
0-100km/h加速:4.3秒
燃費:8.9km/L
CO2排出量:−
車両重量:1440kg
パワートレイン:V型6気筒3456ccスーパーチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:405ps/6800rpm
最大トルク:42.7kg-m/2700rpm
ギアボックス:6速マニュアル