●「芝居は終わりがない」と感じている真っ最中

連続テレビ小説『ちむどんどん』(NHK総合 毎週月〜土曜8:00〜ほか)で、黒島結菜演じるヒロイン・比嘉暢子の幼なじみである砂川智役を好演している前田公輝。6歳で芸能界入りし、子役からキャリアを積み重ねてきた前田だが、「ずっと朝ドラ出演が夢でした」と言う。そんな前田を直撃し、本作に懸ける思いと共に、これまでの道のりを振り返ってもらった。



『ちむどんどん』は、本土復帰50年を迎えた沖縄を舞台に、沖縄料理に夢をかけるヒロイン・暢子ら4兄妹の奮闘を描く物語。暢子の病弱な妹・歌子(上白石萌歌)が智に恋心を抱く一方で、智は暢子に思いを寄せているが、暢子は鈍感でまったく彼の気持ちに気づいていない。

「沖縄のことばのイントネーションについては、やはり最初の頃よりは話せるようになってきて、今は日常会話なら、いつでもどんな台詞でも沖縄のイントネーションで言えます」とうれしそうに話す前田。

初めての朝ドラで、半年にわたって智役を演じることの醍醐味については「僕自身、2クール続けて同じ役に携わることの大きさを感じているので、半年間で役としての成長と共に、僕自身も成長できたらと」と目を輝かせる。

「やはり朝ドラという大きな舞台に立てたことで得られた経験値は大きいです。自分自身、6歳から芸能界でお仕事をさせてもらってきましたが、まだまだ知らないことがあるし、よく大御所の役者さんが『芝居は終わりがない』と言われますが、まさにそのことを今感じている真っ最中です。だから楽しいし、とにかく日々真新しいことばかりで刺激的です」

暢子役の黒島の印象については「新しい形の座長を見ている感じです」と表現。「僕は今までいろんな主演の方々を見てきましたが、結菜ちゃんはガジュマルみたい。ガジュマルの幹ってすごく太いのですが、結菜ちゃんも人生を何周したのかなというくらい頼もしい方です。何者にも当てはまらない真っ白な状態でいてくれるので、そういうフラットな性格の方が中心にいらっしゃると僕はとても安心できます」



智は暢子を追いかける形で、沖縄から鶴見まで出てきたわけだが、暢子のどこに惹かれたのか? と尋ねると前田は「いろいろありますが、一番は世界一幸せそうにご飯を食べるところに惹かれたのではないかと思います」と答えた。

「砂川家も貧乏で、父親を亡くし、母も体を壊すなど、環境として恵まれているわけではなかったです。これは僕の捉えたバックボーンですが、智は家業を継いで豆腐を作っていて、そうやって自分が必死に熱を注いでいるものを、とても幸せそうに食べてくれていた。智はその姿を見て、おそらくいろんなつらいことや苦しいことを忘れられるぐらい心が豊かになったんじゃないかと、僕は想像してきました。だから、力の根源になる女性は、恐らく暢子以外にいなかったのでは」と分析。

智は暢子が上京することになって、ようやく暢子への思いを確信したのではないかと前田は捉えている。「2人は幼なじみなので、暢子に対する思いに蓋をしていた部分があったのかなと。いなくなってから初めて気づく恋ってあると思いますが、おそらく智もそうなってから、ようやく暢子の大きさに気づいたのでしょう。和彦と恋愛談をするシーンもありますが、恋愛は理性でどうにかなるようなものではないんだと。暢子がいなくなったあと、自分自身のプライドやあの時代の生き方など、もはやどうでもよくなるぐらい、ぽっかり穴が開いたのだと思います」

また、前田は智が「いつも家族への感謝を念頭に置いて仕事をしていること」にとてもシンパシーを感じているそうだ。「僕に限らず芸能活動をしている人たちは、おそらく家族の支えがないと無理というか、家族が理解してないとどこかしらで壁が分厚くなって、悩みが大きくなってしまう時がくると思います。だから智にはとても共感できますし、仕事に対する向き合い方は、共感プラス憧れもあります」と智をリスペクトする。

●子役時代に味わった挫折「その悔しさをバネに」



ちなみに前田は2003年からNHK教育テレビ『天才てれびくんMAX』でてれび戦士を3年間務め、子役時代から順風満帆にキャリアを重ねてきたが、初めて子役としての洗礼を受けたのは、6歳のときに出演したCMでの現場だったという。前田は初めてオーディションを受けて合格し、同じホリプロの大御所である和田アキ子と共演した。

「自分が所属する事務所の看板を背負っている方と初めてお仕事をするということで、僕が緊張していたら、アッコさんが『前田、硬くなるな』と、6歳の僕に対してありえないぐらい目線を合わせてくださったんです。そこで僕の肩をぽんと叩いて入魂してくださいました。そのお仕事は本当に楽しくて、6歳ながらにして一気に天狗になるんです。その後、変なマインドになり、次のオーディションでとてつもなく鼻につくような感じで出向いたら、一次審査で落ちまして。そこで7歳ながらに挫折を感じ、その悔しさをバネに芸能界を続けていった感じです」

その後、俳優を志す転機になったのは、16歳の時に映画『ひぐらしのなく頃に』(08)で、主演に抜擢された頃だったと言う。「その時から、ずっとお芝居に魅了され続け、お芝居でご飯を食べていけたらいいなと思いまして、いつしかそれが仕事になっていたという感じです」

そして、今回の朝ドラ出演で夢が叶った前田は「僕にとって家族は大きな存在ですし、そんななか『ちむどんどん』を沖縄で撮るということにいろんな巡り合わせを感じています」としみじみ語る。

「『天才てれびくん』で初めて長期ロケに行ったのも沖縄で、僕の誕生日は“シーサーの日”と呼ばれる4月3日生まれですし、初めて買ったCDも(沖縄を拠点に活動する)ORANGERANGEです。だから朝ドラに出演できたことは本当に奇跡としか思ってないです。智役を経て、人としても、役者としてのアプローチ方法にしても、すべてが更新されている感覚がすでにあります。自分自身の未来が、こんなに楽しみになる役と出会えたことをすごくうれしく思います」

■前田公輝(まえだ・ごうき)

1991年4月3日生まれ、神奈川県出身。6歳で芸能界デビューし、2003年から2006年までNHK教育テレビ『天才てれびくんMAX』に出演。2008年、映画『ひぐらしのなく頃に』で初主演を務め、続編『ひぐらしのなく頃に 誓』(09)にも同役で主演。2010年に舞台『白虎隊・ザ・アイドル』で初舞台にして初の舞台主演を果たす。2016年より『HiGH&LOW』シリーズに出演し、最新作『HiGH&LOW THE WORST X』が9月9日より公開。ドラマ『赤ひげ』シリーズにも出演している。

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