※この記事は2019年09月25日にBLOGOSで公開されたものです

消費税が現在の8%から10%へと引き上げられる10月1日の増税スタートまで、残り数日となった。駆け込み商戦が熱を帯びる一方、10月からの2%の増税によって家計への負担が懸念される。そんな中、増税自体よりも注目を集めているのが、初めて導入される「軽減税率」で、その仕組みがあまりにも複雑なために広く理解が進んでいるとは言いにくい。

軽減税率は、端的には“10月1日の新消費税率(10%)導入後も、特定の商品については税率を現行の8%のままにできるルール“で、増税に伴って負担が増す家計をわずかでも楽にするための制度だ。

ところが、水道水かミネラルウォーターかといった商品の種類によってさまざまな基準があり、同じ一つの商品を買うだけでも税率が異なるなど混乱を招く一因となっている。

例えば、ハンバーガーを食べる場合。購入した店内で食べれば“贅沢品”とみなされ10%の消費税がかかるものの、テイクアウトすれば税率は8%扱いとなる。「食べ残しを持ち帰る場合は税率10%」との説明もあり、消費者の側で判断することは難しい制度だ。

10月の軽減税率導入後、買い物のさまざまな場面で判断がつかないケースが目立ちそうだ。そうした疑問を国税庁にぶつけてみた。

税率は販売時に決定 購入後に追加徴収されることは無い

Q1. ハンバーガーを自宅で食べるため、大手ハンバーガー店でハンバーガーをテイクアウトで購入した。ところが、その直後に次の用事ができて、店内で着席して食べた。その場合の税率は?

A=商品の税率は基本的に販売時に決定する。購入後に、テイクアウトから店内での飲食に気が変わり、結果的に店内での飲食となったとしても8%のままで変わらない。

税率はあくまでも購入時に決定するため、購入後に追加で2%分の支払いを求められることは無いというのが回答だ。

しかし、ここで「ならば、毎回テイクアウトと言って店内で食べる人が出てくるのでは?」との疑問が出てくる。そうしたケースについては「国税庁としては対応しかねる」そうで、あくまでも店舗側の自助努力が求められるのだという。

飲食する場で税率に違い 店側は購入前に客に意思確認

Q2.ジュースやポップコーンが並ぶ映画館の売店。映画を見ながら座席で食べることを想定しているようだが、売店近くにスタンディングテーブルやベンチを見つけた。そこで味わった場合、軽減税率は適用されない?

A=映画館の場合は、館内の座席での飲食が8%となることが大前提で、売店近くのテーブルやベンチでの飲食は10%が適応される。

しかし、販売時に店舗側が消費者に対して、どこで飲食するのかを確認することを一般的な対応として示している。売店でのポップなどでの掲示もそうした意思確認に該当するため、消費者は意思確認で示した場所で食べることが原則だ。

Q3.秋祭りの季節。どこの神社にも屋台が出ていて、イカ焼きや焼きそば、バナナチョコなどどれもおいしそう。購入した人はみんな食べ歩きしているみたいだが、屋台近くにある公園などにもともとあったベンチで食べた場合は軽減税率に当てはまらない?

A=考え方は映画館のケースと同様。屋台の売り手側による意思確認に対して示した場所で食べることが原則となる。

食品と付録をセットで売る「一体資産」の扱いは?

軽減税率の複雑さに拍車をかけているのが、「一体資産」の存在だろう。一体資産とは、軽減税率の対象となる食品と、対象外の商品が一体となって販売されている商品だ。例えば、子供向けにおもちゃがセットになったお菓子、紅茶とティーパックの詰め合わせなどだ。

こうした商品は、軽減税率の対象とならないのが原則だ。ところが、以下の複雑な要件を満たせば8%の税率が適用される。税抜きの販売価格が1万円以下で、かつ、食品が占める売価や原価の割合が全体の3分の2以上――という二つの条件で、消費者の側にしてみれば税率の根拠は分かりにくい。

この条件に沿えば、高級ブランドのティーカップが入った紅茶セット、重箱が高い価値を持つおせち料理は軽減税率が適用されなさそうだ。そこで、次のような疑問が浮かんできた。

Q4.一体資産が軽減税率の適用対象となるのかどうか。食品の売価や原価が3分の2以上含まれているかどうかなどを踏まえて、軽減税率を適用するかどうかを決定するのはメーカー?

A=「事業者の販売する商品や販売実績等に応じ、事業者が合理的に計算した割合であればこれによって差し支えない」との取り決めだ。

少し分かりにくいかもしれない。例えば、コーヒー豆とカップをセット販売する場合。販売する事業者がコーヒー豆を450円、コーヒーカップを200円で仕入れた。仕入れ値のうち、食品にあたるコーヒー豆の価格が3分の2以上を占めるため、軽減税率の対象となる。

さらに、このセットの商品を1000円で売る場合、仕入れ値を参考に合理的な価格決定がなされていると判断され、8%の軽減税率が適用される。

つまりは、軽減税率を適用するか否かは、販売価格を決定する事業者の決定に基づくこととなる。

ミネラルウォーターは8%、水道水は10%のカラクリは

軽減税率をめぐっては、特殊な扱いとなったものがある。それが水道水と新聞だ。

水は、紛れもなく生きていく上で必要不可欠なものだ。「蛇口から出てくる水道水もミネラルウォーターも8%のはず」。ところが、そうも簡単にいかない点に軽減税率の複雑さが表れている。

結論から言えば、ペットボトルなどに入ったミネラルウォーターが8%、水道水が10%と、違いが出る。水道水より贅沢品ともいえるミネラルウォーターのほうが税率が低い点はなんだか不思議な気もする。

そのカラクリはこうだ。水の場合はその「用途」が税率の基準となっている。ミネラルウォーターは大半の人が飲用に使うが、水道水は飲用だけではなく、入浴や洗濯、トイレ、洗車などにも使われるため、「食料品ではない」という判断が影響した。

新聞も軽減税率の対象 ただし電子版新聞、駅売り購入は10%

また、ネット社会の中でも、新聞が軽減税率の対象となり消費税率が8%に据え置かれた点も賛否を呼んだ。

朝日新聞、読売新聞、スポーツニッポンなど、いわゆる“紙で自宅に届けられる新聞"は税率8%のままとなる。「定期購読契約が締結された週2回以上発行される新聞の譲渡」が要件だ。

ところが、この要件に照らせば、気になる野球の試合があった翌日に珍しく駅でスポーツ新聞を購入した場合や、週に1日発行される週刊誌を購入した場合の税率は10%で対象外となる。

紙の新聞ではなく、スマホやタブレットで見ることができる電子版の新聞を購読する人も増えている。ところが、「新聞の譲渡」に該当しないため対象外となり、NHKの受信料も10%となる。

新聞をめぐっては、日本新聞協会が「ニュースや知識を得るための負担を減らすため」と軽減税率の適用を主張し、「読者の負担を軽くすることは、活字文化の維持、普及にとって不可欠だ」としてきた。政権に対してこうした依頼を続けてきた経緯から、「政権に不都合なことを報道できなくなるのではないか」との批判も根強い。