「死因」で物件選び?事故物件住みます芸人・松原タニシのヤバすぎる体験談 - BLOGOS編集部
※この記事は2018年10月26日にBLOGOSで公開されたものです
不動産屋などで物件を探している時に、「事故物件」という言葉を耳にしたことがある人はいないだろうか。正式には「心理的瑕疵物件」と呼ばれる事故物件は、前の住人が亡くなった経歴を持つ建物のことで、多くの場合は家賃が通常よりも安く抑えられているという。
ただ、家賃が安いとはいえ自分の住む部屋で人が亡くなったと考えると不気味な気もする。こうした点について、著書『事故物件怪談 恐い間取り』(二見書房刊)が大ヒット中の、事故物件住みます芸人・松原タニシにリアルな体験談を伺った。【取材:島村優】
事故物件にも「新しい場所の思い出を」
--『恐い間取り』読ませていただきました。恐いエピソードが盛りだくさんで、知らない家に行くのが恐くなりました。
本当は恐くないエピソードもいっぱいあったんですけど、大したことないやつを削ぎ落として厳選しています。一軍のエピソードですね。
--事故物件に住み始めたきっかけはCSエンタメ~テレ「北野誠のおまえら行くな。」という番組だったと聞きました。最初のこの企画を聞いた時は、どんな感想を持ちましたか?
乗り気ではないですね。うーん、って。
--現在、住んでいる物件も事故物件ですか?
そう、関西と関東に一軒ずつ借りています。企画自体は1軒目だけで、そこでの生活は毎日撮影していたんですけど、2軒目以降は僕が勝手に事故物件を探して住んでいるだけなんです。ただ住んでいると「撮らせてほしい」っていう番組や企画が結構あって。
--事故物件に住み続けるのはどうしてなんでしょうか。
好奇心のみですね。安さも理由なんですけど、「何が起きるんだろう」「どんな歴史があるんだろう」といったことを知りたいっていう好奇心が一番強いです。
--物件を選ぶ時の基準はありますか?
もちろん恐そうな方がネタになりますけど、若手芸人はお金がないのでまずは家賃ですね。あとは、アルバイトもしないといけないので交通の便が良い方がいいです。
--家賃、立地と普通の物件選びと変わらないんですね。
…と、死因ですね。
--死因…。『恐い間取り』の中でも、2DK 26000円「殺人」、2DK 27000円「自殺」、3LDK 43000円「病死」で迷った話がありました。
あの時は、家賃の安さと立地が「殺人」の物件が一番良かったんですよね。
--死因でも何か雰囲気は変わりますか?
やっぱり殺人はあまりいいイメージがわかないですよね。
--確かに。全部恐いですけど。
なんか殺人って、その部屋で楽しみにくいなっていうのがあります、こっちの気分として。生きたいと思ってた人が殺されている場所で、自分が楽しんでもいいのかなっていう葛藤が少し生まれるんです。ただ、途中から「それは関係ないかな」って思うようになって、どうでもよくなってきました。
--そういう風に捉えていいと。
「不謹慎」って言われることもありますけど、それは間違いで決して不謹慎ではないんです。殺人事件があった物件も、また物件として残ります。その事件の過去は消えないけど、生活空間は残るわけです。だからと言って、事件があった場所を封印するよりも、新しい場所の思い出、新しい時間を作り上げていったほうがいいんじゃないか、という発想を持つようになりました。
--確かに、住める部屋には誰かが住んだほうがいいですよね。
ただ、殺人のあったマンションに住んでみたら、犯人が帰ってきたケースもあったのであまりオススメはしません。
事故物件の「ラップ音」はタイミングがいい
--いわゆる「霊感」と呼ばれるものはあるんですか?
僕は、全くないですね。関係ないと思います。
--今住んでいる家も不思議なことは起きますか?
いや、あんまり起きないですね。なんだろう、起きたとしても「はいはい、ラップ音でしょ」みたいな。もう恐いとも思わないですね。
--そう思えるのが流石です。
例えば体育会系の部活って入部してすぐにすごい走らされるじゃないですか。最初はめちゃくちゃきついですよね。でも一ヶ月くらいしたら慣れていく、っていうあの感覚ですね。「え、電気消える?」「うわラップ音、恐っ!」て最初は思うけど、段々と「まあ電気くらいは」みたいな気分になります。
あとラップ音はよくあるっていうか、どこでもあることだと思うんですけど、意識するから聞こえちゃうのかなと思うこともあって。でも、事故物件で聞こえるラップ音はタイミングがいいですね。静寂を縫って音が聞こえてくるというか、「アピールしてきてる」って言えばいいのか。
--他にはどんなことが起こることが多いですか?
電気機器がおかしくなることが多いです。いろんな取材で家にロケにくるんですけど、カメラが止まったり、2時間もつはずの電池が10分でなくなったりすることが結構な頻度で起きます。何か理由はわからないけど、そういうことが起こるなって。それくらいですかね。
--生活に困るようなことはないんですか?
あんまり困ることはないかな…だから、そこまで嫌なことはしてこないんですよね。ルームシェアしていた後輩は、テレビを録画予約しておいたらハードディスクの残り時間いっぱいにカラーバーだけが映っていて「最悪やー!」「なんで撮れてないんやー!」って怒ってましたけど。
--あんまり嫌なことはしてこない、と。
いろいろなことが起きますけど、本当に霊的なことが理由かはわからないですよね。もっと痛風で苦しんでる中年男性とかもいると思うので、それに比べたらそれほどの問題じゃないのかなって。
「人が死んだから気分が悪い」は本当か
--とはいえ、4軒目に千葉で住んだ1K 27000円「薬の過剰摂取による死亡」の物件では、部屋に入った瞬間体の力が抜けて動けなくなった、という話もありました。
そうです、霊的なものかはわからないんですけど、入ってすぐに力が入らなくなってしまって。僕は科学者じゃないので、原因は解明できないんですけど、土地なのか、磁場的なことなのか、いろんな理由が重なってるのかなと思います。
その部屋に帰りたくなかった理由が一つあって、向かいの家に防犯センサーが設置されていて、それが鳴りっぱなしだったんです。だから部屋にいても、全然体が休まらない。センサーはうるさいわ、部屋は気持ち悪いわ、もしかすると前の住人もそれで死んだ可能性あるよなって。
--なるほど、誰かが亡くなったからではなくて、逆に考えることもできそうです。
卵が先か鶏が先かじゃないですけど。
--そう言われると、そんなに霊的なものばかり恐がらなくてもいいのかなという気もします。
そうですね。人が亡くなったから気分が悪くなるって考え方もあるんですけど、逆に気分が悪くなるから人が亡くなるって可能性もあるなと。住んでみて、そういう風に考えるようになりました。
--1軒目にワンルーム45000円「殺人」の部屋が今までで一番恐い曰くつきの部屋だったとか。謎の人影が見えたり、住んでいると事故にあったりといったことが起きたそうですが、他に恐いことはありましたか?
引っ越しの日、撮影を始める前に荷物を置いただけの状態で、お笑いライブがあって劇場に行かないといけなかったんです。コントで使う小道具を忘れて部屋に戻らないといけなくて、まだカメラ回ってないのに今何かが起きたらどうしようっていう恐さがありましたね。
--なるほど。そういう恐さが。
その時は一番恐かったですね。カメラが入ってるから平気でいられる、っていうのはあるかもしれません。
数日前、ジャンピングばばあを探しに行った
--家以外でも心霊スポットと呼ばれる場所に調査に行っているようですが、そういう場所でも何かが起こってますね。
ちょうど、数日前に「ジャンピングばばあ」っていう都市伝説を確かめに行って。ダッシュばばあっているじゃないですか。車で走ってたら、後ろからダッシュして追い抜くっていう。それのバージョン違いで、後ろから追いかけてきて、ジャンプして前に着地して走り抜けるのがジャンピングばばあなんです。
--そういうお化け?がいると。
愛知県に目撃談が多くて、今言ったのがジャンピングばばあαなんです。ジャンピングばばあβは、名古屋にある八事霊園という大きな墓地に出没する、墓と墓をジャンプして渡っていくっていうばばあです。
それを探しに行って、もちろん会わなかったんですけど、不思議なことがあって。お墓が広いのでエリアを動物で分けて、標識にパンダ、ウサギ、くじら、うし…とか書いてあるんです。
--ほうほう。
一個、カラスってのを通りすぎて、馬、豚…と同じ方向に進んでいくと、またカラスに戻ってきたんですよね。あれ?真っ直ぐ進んだのにまたカラスや!って。
それはすごい不思議でしたね。実際にその八事霊園ではジャンピングばばあ以外にもワープするって都市伝説もあるみたいで。
--面白いですね。「恐いな、危険だな」と思うことはあまり起こらないですか?
それは、動物ですね。夜にそういうところに行くとイノシシがよく出没します。
--霊より野生動物が恐い。
霊的なものじゃないけど、丑の刻参りの人に会った時も恐かったですね。
--それはビックリします。
台湾で遭遇した一番恐い体験
あ!でも本に書いてない話では、台湾ですごく恐い体験がありました。台湾で火葬場を探索していたら、「移霊道」っていうご遺体を火葬場まで運ぶ通路があったんです。そこを歩いてたら耳鳴りがしてきて、一緒にいた後輩も「僕も耳鳴りがします」って言ってて。
行ったのは7月の暑い時期の夜中だったんですけど、急に鳥肌が立ってきて、それから後輩の携帯にわけのわからない文字が流れ出したんです。「リンカーンは何代目大統領…」とかバーって、「なんやこれ!」って。
--恐そうな話になってきました!
そうしてると、通路の奥からチリンチリンと鈴の音が聞こえてきて、それが遠くから段々と近づいてきて。最後にはすぐそばで、めちゃくちゃ大きな音が鳴って、恐くなってダッシュで逃げました。それで駐車場の端っこの方まで行って、もう大丈夫だろうって思ったら、まだ鈴の音が追いかけてくるんです。
どこに逃げようと思ってたら、向こうの方に明るいトンネルが見えたので、そっちに走っていって。そのトンネルは実はその火葬場で幽霊が一番出るメインのスポットだったんです。幽霊が出ないと言われる通路で鈴の音に追いかけられて、めちゃくちゃ幽霊が出ると言われるトンネルに避難したってことになりますね。
--すごい…よくできた話。
明け方に乗ったタクシーの運転手が「なんでトンネルの向こうにいたの?」「何時くらい?」って聞かれたので「1時から3時くらいかな」って教えると、「オーマイガー!」って言い出して。「その時間はウォーキングデッドが歩く時間なんだ」「本当は、通路があった火葬場がモアデンジャラスなんだ!」って言ってました。これは今までで一番恐かった経験です。
--ただ、松原さんの話し方が冷静なので、あまり恐がっているように聞こえないですけど。
え!今のはかなり恐がってますよ(笑)。動画残ってますけど、その時は本気で逃げてますね。後から聞いて、かなりつじつまが合うよなって。
--そうか、でも日本であまり恐い経験はあんまりないんですよね?
やっぱりイノシシと…
--そこはやはりイノシシ(笑)。
あと、お化け屋敷は恐いですね。
--霊は恐くないけどお化け屋敷は恐い。
あれは確実に襲いかかってきますからね。
でも一度、触ってはいけない石を触ったっていう恐い経験があります。これも「北野誠のおまえら行くな」の話なんですけど、廃村を登って行くと廃墟になった寺があって、その寺の前に何かを焼いた跡があったんです。
--不気味です。
それを隠すように屋根瓦が積み上げられていて、その一番上に漬物石が乗っかっていて。「これなんや!」「なんかわからんけど、何か封印してるよな!」なんて話してて、北野誠さんも「絶対触ったらアカンやつやん!」って言って。
「みんなで手を合わせておこう」ってことになったんですけど、その時に誠さんが僕のことを後ろから思いっきり押して、その石をちょっと触っちゃったんですよね。カメラが回ってたんで、0.1~2秒の間に、どうしよう、こける流れでちょっと当たった感じにしようって決めて「何するんですか!誠さん!」って。
そうしたら、一緒にロケに行ってた漫画家の女の子が「きゃー!」って誠さんにフライングクロスチョップをする感じで倒れかかってきたんですよ。
--フライングクロスチョップ!
「なんや!」って思ったら、女の子が見てた方向から「バキバキバキバキ!」って竹やぶの音なのか何かが割れるような音が周りを囲むように鳴りだして、ゴーって風が吹いたんです。
山の竹やぶが僕らの周りをぐわーって揺れて、撮影どころじゃないって全員で逃げました。あれはリアルに恐かったですね。山を降りて、ロケ車の前まで来て最後のコメントを取ろうとカメラ回したらまた風が吹き出して、それが終わった瞬間に風が止んで、空が急に雲が晴れて満天の星空が広がったんです。あれは恐かったなあ、恐かったし不思議なスゴい体験でしたね。
それでも事故物件に住み続ける
--読者からも「恐い」って反応が寄せられていると聞きました。
実は、自分でも読んだ人が何を恐がってくれているのかよくわかっていなくて。僕自身は、何が面白いのかもわからないんですけど。
--すごく面白いですよ。松原さんがなんでこんな普通にしていられるんだろうっていう、冷静な視点も面白いです。
ありがとうございます。書いている本人は自分中心というか、読んでる人のことまで考えてなくて「恐い」「面白い」って言ってもらえることに僕自身が驚いています。だから自由に読んでほしいですね。
--話を恐くするために、盛ったり嘘をついたりもしないんだろうなと思いました。
こう話したらもっと恐いよなってことはあるけど、それはやめようと。一個嘘ついたら、つき続けなきゃいけなくなりますからね。嘘でもいいから恐がらせようとかはできず、ストッパーがかかるんです。
--松原さんは霊感がなくても、霊が見える人に「その人を連れてこないで!」とか言われることがあるそうですね。
うーん、これは良くないことなんですけど…最初の頃は「マジで?何かツイてるのか」「本当にそうなのか…」っていう気持ちになったんですけど、それも慣れてきて今となっては「僕の情報を知ってて言ってるんちゃうん?」「喜ぶと思うと思ったんちゃうん?」って疑っちゃうんですよね。
あと嘘つく人を暴くのが好きなので、「ここに何か霊的なものが感じられます」とか言われたら、情報を与えずに本当かどうか確かめますね。
--なるほど。
でもすごいなと思ったのは、高知県にいざなぎ流っていう民間信仰があって、そこの太夫さんという神職の人が僕に何が憑いてるか見てくれたことがあって。
いざなぎ流には「祭文」っていう文言・呪言も読んで、数珠を眉間に当てて僕の首元でピャッ!てやるんです。それで数珠が奇数だったら「その通り」、偶数だったら「やり直し」っていう意味らしいんです。
--ほうほう。
モニャモニャモニャ…ピャッ!って何度もやってるんです。祭文っていうのは神様に対する質問で「この男性に憑いてるのは山の神なのか…地縛霊なのか…」って聞いて「いいえ」ってなると、消去法で「じゃあ別の何かかな?」って絞っていけますよね。
でも、いつまで経ってもそれが終わらないんです。「いいえ」が続くので太夫さんも匙を投げて「あんたの先祖で変な死に方をした人はいないか」って言われて「いないと思うんですけど」って答えたら「何か変な死に方してる人が憑いてるわ」って。
でも、僕は事故物件に住んでるから、変な死に方してる人がたくさん憑いてるじゃないですか。ただ太夫さんはその情報を持ってないので、すごいなあと思いましたね。
--すごい話です…。最後に事故物件に住みたい人にアドバイスをいただけますか?
そうですね、住みたい人はお好きにどうぞ、と。何を求めるかですよね。家賃の安さなのか、幽霊なのか。幽霊が見たいなら幽霊が出そうな物件に住んでもらえばいいと思いますし。
--松原さんは、これからも事故物件に住み続けるんですか?
そうですね、これからも住むと思います。事故物件も出会いなのでいろんな部屋に。
プロフィール
松原タニシ
1982年、兵庫県生まれ。松竹芸能所属のピン芸人。
30歳から事故物件に住み始め、”事故物件住みます芸人”として活動、これまでに7軒の事故物件に住む。2018年6月発売の初の著書でこれまで事故物件に住んで体験した話などをつづった「事故物件怪談 恐い間取り」(二見書房)が好評。
また10月より地元兵庫県のラジオ局・ラジオ関西で冠番組「松原タニシの生きる」(隔週日曜深夜25:00-25:30)がスタート。
他にも自身を題材にした漫画 Webマンガサイト・やわらかスピリッツ 「ゼロから始める事故物件生活」(小学館) 、本当にあった愉快な話 「ボクんち事故物件~タニシとユーレイのドキドキ生活~」(竹書房) 、あなたが体験した怖い話「事故物件芸人のお部屋いって視るんです!」(ぶんか社)が連載中です。
Twitter:@tanishisuki
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