「当選のためには意見言わない」 現役議員らが明かす政治家の本性 - 田野幸伸
※この記事は2018年10月17日にBLOGOSで公開されたものです
多種多様な社会課題の解決策を議論する「日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム2018」のプログラムの一環で、9月8日に行われたシンポジウム「何してるのよ政治家 不満の声をカタチにしよう」。NPO法人YouthCreate 代表理事・原田謙介氏によるコーディネートの下、株式会社VOTE FOR 代表取締役社長の市ノ澤充氏、東京都議のおときた駿氏、福井県高浜町議の児玉千明氏、BuzzFeed Japan 創刊編集長の古田大輔氏が登壇し、市民の政治参加を促すためのマニフェストをそれぞれ発表した。来場者が共感する政策に模擬投票する試みもあり、パネリストの意見を聞いて投票先を変えるなどしながら理想の政治家像を考えた。討論の模様をレポートする。【構成:岸慶太 撮影:田野幸伸】
ネット投票、付き添い議会… 4氏の公約
おときた:「ゼロ歳児から一票を」。18歳未満の子どもを持つ親権者が、子どもの分の投票権を代行できるドメイン制度を導入します。今の人口動態というのは非常に高齢者が多くて、投票率も高齢者が高い。別に悪いことではないですが、結果として高齢者の意見ばかりが通る世の中になりつつあります。これは民主主義のエラーなのです。このエラー、バグを直さなければいけない。1人1票ではなく、子どもを持っている人を2票とすることで、将来世代の発言権を高めていく。そうすれば、今、無関心になっている人もいずれは投票に行くようになる。こういった好循環をつくっていきたいと思います。
児玉:議会でよく「開かれた議会」とか、「議会の透明化」だとか皆さんは言うんですけれども、「Ustreamで中継しましょうよ」とか、「YouTubeに上げましょうよ」と言ったらみんな嫌がるんです。なぜかというと、町議会とかになると本会議しか中継されません。できあがったものを読むだけしか中継されないんですね。
そこで、実現可能というところで、小規模ですけれども付き添い議会の実施です。議員が無作為に町民の方を選びまして、隣に座って実際に議会に参加していただく。横で「あれは何?」って言ったら「あれは何々、こうなんだよ」っていうことができる議会がすごくオープンであると思います。「あ、議員さんってこういう感覚でやってるんだ、私たちもやってみたいな」って思えるような議会をつくりたい。
古田:「若者が発信したメッセージが社会に広がって社会風土につながるような世の中にしていきたい」。
日本は投票率が非常に低い。総選挙で投票率50%ぐらい。でも、ほかの国もそうなのです。何が違うのか。それは投票している人たちの違いだと思うんです。日本で投票する人の中で本当に政治に夢や期待を抱いている人ってどれくらいいるんだろう。アメリカは違う。投票している人は本当に世の中を変えたいと思って投票している人がすごく多い。
みんなが本当に世の中を変えようということを発信しあって、ネットというすごく便利なツールを通じて、みんなが議論して世の中を変えていこうとしている。そういう世の中にしていきたいと思っています。
市ノ澤:「いつまで」「何々」。この二つを明示するのがマニフェストだと思っていて、その約束を果たした政治家だったり、企業・団体はもう一度さらに踏み込むチャンスをもらえればいいし、そのトライを達成できなかった場合は、立場を変わられるか、出直すかってことをするべきで、僕は期限を提示しました。「2022年の参院選でインターネット投票を実現する」。僕は制度まで変えられると思っていて、仕組みから変えられると思っています。
理由は、投票機会の平等というところで言うと、今、在外邦人、国外に住んでいる日本人って、18歳以上が100万人いるんですけれども、2万人しか投票しないんですね。また、障害者の方であるとか、投票所に足を運べない人、自筆・自署ができない人、投票という行為にハードルを感じている人、そういう人たちに投票機会を提示できていないというところで、ネット投票を一つの選択肢にしたいと考えます。
潜在的関心層を掘り起こせ
おときた:登壇者の問題意識として共通しているのは、有権者の無関心。投票率が低いということに表れているように、政治に無関心だろうと。無関心はどこから生み出されるかというと、私は情報が足りないことだと思っていて、普段、政治家が何をしてるのかが分からない、議会でどんな議論してるかが分からない。分からないから無関心、無関心であるから投票に行かない、という負のスパイラルを断ち切ることが非常に重要です。市ノ澤:どういうふうに情報を見せるか、伝えるかというのと、その指標がどれだけ公正性を保てているか、ほかと比較するときにきちんと比較可能な数字になっているか、というところが大事かなと思っています。
個人的な話をすると、私はマンションの理事会の理事なのですけれど、実はAEDを設置していて、利用説明会にみんな来てくれというんですが、誰も来ないんです。でも、このAEDに5,000円を払ってますって説明をしてから案内をすると、6人くらいが参加するんです。あまりいい例ではないですが、自分たちの税金がどう使われているか、一票がどう影響を見せてるのかを実感できる機会があれば、また、その情報を提供することができれば一歩踏み込むきっかけになるのかなと思います。
原田:日本人、特に企業に勤めてる方は年間どれくらい、どこに税金を払っているのかいまいちピンときていない。国なのか、地域・地方なのか、よく分かっていないからあんまり関心を持たないのではないか、みたいな話も聞くことがあります。無関心の問題はいかがでしょうか。
古田:無関心だから投票しないというわけでもないです。かつて朝日新聞時代に連載企画をやって、選挙に関心がある・ない、投票に行く・行かないで、グラフをつくって、四象限マップをつくって聞いたら、政治に関心があるけど投票に行かない人って結構いるんです。
政治には関心があるけれども、自分が参加するものと思っていない人もたくさんいるんだよっていうところをまず意識しておかないと、「選挙に行かないやつは悪だ」みたいな議論になってしまって、そうするとますます選挙に行かなくなると思うんです。
二つ目ですが、情報が足りないから情報をどんどん発信しよう、それは大賛成です。同時に、情報発信をしていていつも感じるのが、関心がある人は最初から見にくるんですよ。でも、問題は関心がない人に届けないといけないんです。よく自分で使う言葉があるんですけれども、「潜在的な関心層」。本当は関心を持っているはずなんだけれども、たまたま積極的に自分の関心を出すきっかけがなかった人たちに、最初に「これはあなたが関心のある情報でしょう」と届けてあげないといけない。そのときに、いきなり最初に「政治家は」みたいに渡しちゃうともうそこでシャットダウンしちゃうんですね。
原田:潜在的な関心層はすごく大事だと思っていて、中学・高校に授業に行くことで潜在的な関心に出会います。事前のアンケートでは「政治に関心がない」が8割だったけれども、僕の授業にハマれば「まあ、関心はあるかな」が増えていくみたいな。そういう学校の授業の中で無理やり出会っちゃうというのも一つはありだと思います。
「政治家はつまらない」イメージの払拭が肝
おときた:政治家に対するイメージを払しょくする秘策があります。卒業式とか運動会に、区長とか、衆議院議員とかが来てあいさつしますよね。あれはとてもつまらないじゃないですか。みんな、「帰れよ」と思ってると思うんですよ。胸元とかから紙を出して読むだけとか。あれを一切やめさせて、自分の言葉でこの地区の人に語りたいことを絶対に語ってくださいと言って。本当にいいことを言えば、「政治家って結構かっこいいじゃん」とか、「やるじゃん」とかになると思うんです。政治家の話がつまらないというのは結構、民主主義を棄損するダメージの一つになっているということがまず一点です。
児玉:すごくいい人で、勉強ができて、スポーツができて、学級委員長を昔やってて、いろいろな賞とかをもらった人でないとできないっていうような漠然とした政治家像が、政治に対してイメージを逆に悪くしてるのではないかと。
私なんかは本当に大したことなくて、別に高校とかでも、商業科で数学なんか最下位とかを取ってましたし、大学中退だし。でも、そんな人でも議員になれるんです。政治家というのは、日本国に住んでいて25歳以上、その場所に3カ月以上住んでいたらなれるんです。それが私の出馬したきっかけだったんです。政治家が何をしているか分かんないから、やってみようってやったんです。政治家はこうあるべきだとか難しいことを考えちゃうから、政治家に求めるハードルがどんどん高くなって、興味をなくしてしまうのではないかと思います。
原田:政治家とか議員に何を求めるかであったり、国の制度の中で定義をどうするかというのがあまりにもあいまいかなっていうのはすごく思っていたりもするので、何かその辺りをもう一回とらえ直したほうがいいのではないかと思います。
思い無きメッセージは当選のため?
古田:僕はアメリカの大学の卒業式の最後の言葉、いろいろな人のあの演説を聞くのが大好きです。一番好きなのは、皆さんもよく知ってると思うんですけれども、スティーブ・ジョブズの「ステイ・ハングリー、ステイ・フーリッシュ」っていう言葉です。「ハングリーであれ、バカであれ」という最後のメッセージがすごく感動的なんですが、あの人は演説がすごくヘタなんです。ぼくとつに紙を見ながらしゃべるんですけれども、ただ、めちゃくちゃ伝えたいメッセージがクリアなのです。「ハングリーであれ、バカであれ」というところだけは相手をちゃんと見ながら話すんです。そういう伝えたいメッセージをみんなが常に持って、人に対して伝えているかっていうところなのです。
政治家の人たちが演説とか、式典であいさつしてるのを聞いて、この人は言いたいことがないんだろうなって思うんです。いろいろな政策とかを話してるけれども、コアにこの人が今、目の前にいる人たちに伝えたいものがないからこんなに面白くないんだろうなって感じてしまう。
おときた:結構Facebookは(政治家の)若い人はやりますけれども、「今日、視察行きました」っていう人がいて、「大変参考になりました。終わり」って。あなたは何をしたいのかとか、これはどう生かしていきたいのかってことを言わないっていうのは、多分、二つの理由があります。まず、政党観が理解できていない。自分の意見が方向性に合致してるかどうかが分かるまでは言えないから、結局、単なる事象で留まってしまうって人は結構多いと思います。
もう1個は、「それは高齢者の切り捨てだ」とか、「予算の偏重だ」ということになるときに、中道を採るほうが一番選挙に受かりやすいので、どちらにもいい顔できるようなフワッとしたものを書いておいて、後で「これはどういうことですか」という問い合わせが来たら、「あなたはどうなのですか」って聞いて、「私はこうなのです」と言われたら、「私もなんですよ」とか言うのを両方にやるのが、選挙において最高に合理的な、最合理システムなわけです。
政党のほうも根深いんですが、合理的にやっている政治家が一番たちが悪いというか、難しいかなというのは思っています。
原田:合理的に自分の意見を言わない政治家も、どこかでは意見を言わなきゃいけないタイミングが来るのではないですか。
おときた:そこが結構難しくて、要は、選挙で結局、政策を言わないということにつながっていて、握手をしにいったりとか、遊びに来てくれたりっていうところで票を入れる人が多いので、政策は結構、みんなが総賛成みたいなことが書いてあるけれども、各論では絶対、是々非々です。
そこまではみんな、ホームページとかに書いてないし、個別に聞きに行けば、結局、「あなたはどうですか?」、「私もですよ」って、そういう技術だけはすごく政治家って長けているので。でも、よくよく調べてみると、違う人には別のことを言っちゃうとか、そういう人たちがすごくいっぱいいるんです。そういうのをどう認知していくかっていうのって、すごい課題なのかなって思っています。
「上書き投票」で増す1票の重み
市ノ澤:つくば市でマイナンバーカードとブロックチェーンを使ったネット投票システムの実証実験をやったんです。これは120人ぐらいしか投票しない小規模なものだったんですけれども。今後そういった取り組みはほかの議会、自治体でもやっていきたいと思っていて、実際に公職選挙法には1人1票って書いてるんですけれども、1回とは書いてないのです。なので、法制の改正じゃなくても、実は今、皆さんにやっていただいてる上書き投票は実は可能で、それだけでも結構、緊張感を持ってもらえるんじゃないかなと思っています。
原田:1人1回ではなくて何回も上書き投票できる良さをどうとらえられていますか。
市ノ澤:一番はリアルタイムで1人1票っていうところが、投票先を変えることによって2票分の重みの感じに見えるっていうことがある。何か変な発言をするとひっくり返ることが出てくるわけですね。そういう緊張感を持つっていうのが一つ。
あと、選挙期間中に候補者の方が死亡すると、その方々に期日前に投票した票は無効になるんです。それって本当に1人1票を大事にすることになってるんですかというのも疑問だし、あとは、前の都知事選のように、選挙期間中に候補者のスキャンダルが発覚しましたというのがあったときに、投票した後にそういう事実が発覚したりとかしたときに、それこそ去年の希望の党の急速な失速のように、実際にこの人に投票しちゃったけれども、もう変えられないんだっていうのがさらにこの政治離れ、選挙離れにつながる可能性もあるのではないかと思っていて、「ちょっと待った」というのを言いたい。
原田:論戦であるとか出来事によって、投票先を変えたいということが出てきたときにどう対応すればいいのかということですね。
是々非々の視点で政治をシンプルに
古田:これはアメリカの社会研究とかで、この10年で自分のことを民主党だ、共和党だってはっきりと認識する人、保守・リベラルだとはっきり認識する人がすごく増えた。その中間で、是々非々だよねって言う人がすごく減ったっていう社会研究の調査とかがあって。別に自分のポジションを、「私はそうだ」ってアイデンティファイするのは別に構わないんですけれども、問題は相手は敵だと思ってしまうことなのです。党派性に基づいて見る人がすごく増えている。政治に関心を持つのはいいけれども、関心の持ち方が、「赤勝て、白勝て」みたいな感じになっちゃうと、世の中にとって良くない。
原田:何か政治的な発言とかに対して、「おまえは勉強してないんだからそう思うんだ」っていうコメントは最悪だと思っていて、勉強したら同じところに行きつくわけじゃないじゃないですか。特に若い人が上の世代の人とかにそういう話をしちゃうと、「若いんだから分からないんだろう」みたいなもので言論を止めてしまうことをよく見るので、すごく嫌だなと思っていたりもしました。
児玉:私はいろいろな人に議員になってほしい、当事者になってほしいっていう気持ちがあって。次(の町議選)も1人落ちるか無投票になる確率が非常に高くて、気軽な気持ちで私はいいと思うんです。電柱にチラシを貼るのは違法なんですけれども、電柱に「急募、町会議員」でもいいと思うんですよ。
難しくとらえるのではなくて、シンプルに政治をとらえてください。わかりづらいんですけれども、結局、政治はすべて皆さんの生活、人生に直結しています。例えば、何かを買ったら税金がかかりますし、そこに住んでいるだけで納税は義務ですから税金になります。ですから、無関係ではなくて、皆さんに当事者になっていただきたいというアクションを今後もしていきたいと思います。
政策方針の転換は十分な説明でカバー
おときた:大前提としてマニフェストが達成できないとか、変わるっていうことはあり得ると思います。あり得たときに政治家がやらなきゃいけないのは説明責任をしっかり果たすことで、もともとはこうだったけど、私はこう変えましたということに説明を尽くすことです。それをやらないで、みんながコロって変えるから不信感につながると思うんです。その大前提として大事なのは記録を残しておくことで、かつて僕はこう言ってたっていうことを検索可能な形で残すということが一番大事だと思ってるんです。僕は高齢多選批判をすごく昔からしてきたんです。ただ、一昨年の区長選挙で、やむにやまれぬ事情があって、75歳の多選の区長を応援して、ぼろくそにたたかれました。でも、僕は前のやつも消さなかったし、「こういうことで、今回、私は彼を応援しました」ってことはすごく長いブログを書いて説明する。その繰り返しで、おときたは信用できないってなっちゃう人もいると思うし、説明してくれたんだったらいいよっていう人もいたと思うんです。
それがすごく大事で、ちゃんと検証可能な記録を残すこと。それに基づいて、なぜ今回、自分が変わったかをまず言葉を尽くして説明すること、この二つがセットになって初めてマニフェストは変更してもよいっていうことになるんだと私は思っています。
児玉:包み隠さず、自分から、こういうことをしました、変わりましたと説明を付けて発信することが大事だと思います。できなかったことに関しても、「そのことはなかったことに」ではなくて、これを掲げてましたが私はできませんでしたと、その説明責任を果たすのが政治家の務めかと思います。発信するのが大前提とするならば、それが結局反映されるのは、1期目だったら2期目の選挙、2期目だったら3期目の選挙というふうに次の選挙に生かされるのが民主主義ではないかと思います。
ネットで広がる投票の多様性
市ノ澤:ネット投票を実現すると、実はお三方のマニフェストの実現が容易にと言うか、加速度的に実現できるということになります。ドメイン投票に関しては、誰が1.5票を持っていて、誰が2.5票を持っていて、この人は両親がそろっていないので片方だけとかっていう集計って実は今の紙の選挙のネックになります。ネット投票になると、瞬間的に誰が何票だというのが分けられるので、それこそ親子の意見が分かれたら、お母さんは自分の票の1票をAさんに投票して、0.5票をBさんに投票するとやってもいいと思ってるんです。
児玉さんの傍聴に関しても、今だと議会に来れる人しか連れていけないけれども、児玉さんが在宅の方のところに行って、オンラインを使ったりして一緒に議会に参加するとかっていうこともできるだろうし、オンラインで議決権を行使するのを横で体験してもらえればいいし、それこそ出張議会みたいなことを個人でもできるようになる。
古田さんの意見だって、こういったネット投票の仕掛けを、声を上げていく一つのツールに使ってもらえれば、もっと大きなうねりになるし、もっと早く社会を変えていけるかもしれないと思っていて、その第一歩ということで皆さんにご評価いただいたんだと思っていますので、ぜひ実現したい。
最後に1点。僕は選挙に出ません。選挙に出ない人間がこれをやらなきゃいけないと思っていて、絶対にこの立場が混ざると、それはいくら説明責任を果たしても信用してもらえることはないと思います。なので、そういった立場を明確にして、役割をきちんと担っていくということをあらためて皆さんに約束して、締めのコメントとさせていただきます。