※この記事は2018年09月30日にBLOGOSで公開されたものです

2018年9月11日、野田聖子総務大臣はふるさと納税制度で返礼品合戦が激化していることを問題視し、返礼品を寄付額の3割以下とする通知を受け入れない自治体を、制度から外せるような見直しを検討すると発表した。(*1)

それに対して同月28日。ふるさと納税制度での寄付額が全国トップの泉佐野市の副市長が会見を開き、総務省の条件を一方的であるとして、幅広い議論をして大多数が納得できる基準を作るべきだと表明した。(*2)

僕は個人的にふるさと納税を「ふるさと脱税」と呼んでいる。もちろん制度自体に賛同せず、即刻廃止を求める立場だ。

理由としては、「収入が多ければ多いほど有利な、逆進性が非常に強い制度」であること。そして「税負担の公平性」に反すること、さらに「返礼品の存在が、寄付金としての体をなしていない」ことが挙げられる。

1つずつ説明していこう。

まず、ふるさと納税は、収入が多ければ多いほど有利な制度である。

総務省が「全額控除されるふるさと納税額(年間上限)の目安」として、収入や家族構成別に全額控除されるふるさと納税額の表を出している。(*3)

これがいわゆる「実質負担2000円」で済む上限額である。

これで独身または共働きの収入300万円と、同じく独身または共働きの収入2500万円を比較してみると、300万円の人は28,000円分(収入の0.9%)の返礼品しか得られないのに対して、2500万円の人は849,000円分(収入の3.4%)の返礼品が得られるのである。

これが同じ2000円の自己負担で得られるメリットだというのだから、どう考えても不公平だ。

そもそも税金は各自の収入や資産に基づく「公平な負担」が前提であるはずだ。

たとえ税金として支払う額が100万円でも10万円でも0円でも、それが求められた支払額であれば同じ価値であるというのが前提である。ところがふるさと納税では、各自治体が寄付額に応じた返礼品を用意していることから、この原則が崩れている事が問題なのである。

200万円を納税する人が40万円のふるさと納税利用、つまり支払う税金のうちの20%を利用してテレビがもらえるとすれば、6万円を納税する人も同じく20%の利用である1.2万円で同じテレビがもらえなければ、税の公平性が崩れているということになる。

つまり、ふるさと納税の不公平性を解決するには「ふるさと納税額に関係なく、その人が支払うべき税額からの割合で同じ返礼品を渡す」ことが必要である。そしてそれは当然、住民税非課税の世帯に対しても同じである。0円の寄付に対して、高級牛肉や家電製品、商品券を渡す奇特な自治体はあるだろうか?

故に、税の公平性を考えれば、返礼品ありきのふるさと納税など、最初から成立していないのである。

そもそも、そんなにふるさとに寄付をしたければ、通常の寄付でいいではないか。そのうえで通常の寄付金控除を使えばいい。控除額だけの話であれば、それで問題ないはずだ。

ただし、通常の寄付金控除を利用する寄付の場合は、それに対する返礼品には制限があり、それが「直接の反対給付」とみなされるものは認められない。(*4)

すなわち金券などの換金価値が高いものや、お肉やお酒、家電製品などの、その寄付額に比して使用価値が高いものは、返礼品としては認められていないのである。実質的にはお礼の手紙とポケットティッシュや花の種パック、その団体の活動を記した冊子程度のものがせいぜいだろう。

それこそ環境保護NPO団体が「30万円の寄付金で、10万円分の無農薬野菜をプレゼントします!」というのは、寄付金控除ありの寄付を受け付ける条件として認められないと考えられ、事業収入として処理されるのが筋である。民間であれば認められない寄付の募り方が、ふるさと納税だけでは認められているのは、どう考えてもおかしいのである。

野田聖子総務相は通知に従わない自治体を制度から外すことを示唆しているが、そもそもふるさと納税制度などという特例を作らなければ、寄付金控除と同じ基準で良かったのである。無駄な特例をわざわざ作りながら、それを行き過ぎだと批判するというのは、安易なマッチポンプでしかない。

ふるさと納税に賛成する人の中には、地方交付税など中央行政の権力が強く作用する税制への懸念を示し、地方の努力で税収を増やすふるさと納税制度を必要であると考える人もいるが、結局こうやって暴走を理由にふるさと納税制度から外されるような制度に変えるという脅しが有効になるのだから、最初からふるさと納税制度は権力を乗り越える制度設計ではなかったのである。

あと、寄付の文化が云々と言う人もいるが、結局、ふるさと納税制度を利用している人の多くは、それを寄付などとは考えておらず、「税金を払ったポイントでお買い物」程度の認識でしかない。利用者のうち「その自治体に寄付をした理由」を返礼品の内容以外でハッキリ言える人は、どれだけいるだろうか?

返礼品目当ての寄付は、そもそも寄付の文化とは大きくかけ離れるものだ。

仮に制度がなくなったとしても、それで困るのは返礼品に目の色を変えて飛びつく納税者、返礼品でカネを呼び寄せようとした行政、行政に返礼品を卸して儲けている企業、地方票欲しさにふるさと納税を推進した政治家やそのバック、そして返礼品合戦を煽り立てるポータルサイトくらいなものだ。

本当に自分のふるさとや被災地に寄付をしたければ、寄附金控除でやればいいのだから、善意の寄付者はまったく困らないのである。

不公平で不健全。百害あって一利なし。ふるさと納税制度は即刻廃止するべきだ。

*1:通知守らぬ自治体は対象外=ふるさと納税見直しへ-野田総務相(時事ドットコム)https://www.jiji.com/jc/article?k=2018091100488
*2:ふるさと納税寄付額トップの泉佐野市が総務省に反論“大多数が納得できるルールを”(MBSニュース Yahoo!ニュース)https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180928-00024599-mbsnews-l27
*3:ふるさと納税のしくみ|税金の控除について(ふるさと納税ポータルサイト 総務省)http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/furusato/mechanism/deduction.html
*4:寄付に対して返礼品を提供する場合、受取寄付金として計上することができるでしょうか。(みんなで使おう!NPO法人会計基準)http://www.npokaikeikijun.jp/guideline/qa/q13-4/