■『今こそ女子プロレス!』vol.5
まなせゆうな 前編

 2019年4月14日、王子Basement MON☆STARにて、とある女子プロレスの旗揚げ興行が行なわれた。一見、普通の女子プロレス。しかし登場するレスラーたちの体型を見ると、ふくよかな胸、ぼてっとしたお腹、肉づきのいい下半身......。豊満な体を武器に、明るく激しいプロレスを繰り広げる。興行の名前は「ぽっちゃり女子プロレス」。代表はぽっちゃり好きを公言する男子レスラー、今成夢人だ。


豪快なラリアットを見舞うまなせ photo by ガンバレ☆プロレス

 今成にはこの興行を通して、輝かせたい人物がいた。元グラビアアイドルのまなせゆうなだ。スターダムで"第二の愛川ゆず希"を期待され、アクトレスガールズでもエース候補だった。しかし突き抜けることができなかった。そんなまなせに、今成は「第三のエース路線」を敷こうとしたのだ。

 メインイベントは、今成とまなせのシングルマッチ。オープニングアクトで漂っていたエロティックな雰囲気は微塵もない。まなせにとって、初めてのミックスドマッチ。今成の厚い胸板にエルボーを仕掛けるも、ピクリとも動かない。「来いよ! もっと来いよ!」――今成の叫びに呼応して、まなせは猛反撃する。エルボー、蹴り、スリーパー、ブレーンバスター! しかし今成の見事なジャンピングニーで、まなせは敗れた。

 試合後、まなせは泣いた。「これからこの体型も、自分も、どう愛していけばいいんだろう......どうしていいかわかんない!」。今成もまた泣いた。「いいか、自分を愛するしかないんだよ! いま、その体型に悩んでるのかもしれないけど、そんなまなせさんを愛しているお客がこんなにいるんだ!」。溢れんばかりの拍手が沸き起こった。今成は観客に問いかける。

「まなせさん、このままでいいよね? 今が一番魅力的だよね?」

いつまでもいつまでも、拍手が鳴りやまなかった。

 まなせは当時を振り返って、こう話す。

「オファーが来た時は、『ハア?』という感じでした。今成さんに対して、最初はネガティブな気持ちが強くて、私のことを何だと思ってんだろうって、本当にムカつきました。マイクでカッコいいこと言ってたけど、私を使って自分が言いたいことを言ってるなって思った。でもあの試合で、初めてお客さんに応援されたんです。私は体が大きいから、やられている選手が可哀そうじゃないですか。だからそれまで、『まなせ、頑張れ!』ってならなかったんです。お客さんに『頑張れ!』って言われたことが、すっごい嬉しかった」

 彼女は今、ふくよかな体型を受け入れ、プラスサイズモデルとしても活躍している。まなせゆうなはいかにして、自己肯定感を取り戻していったのだろうか。

「ゆうなはデブだね」

 まなせは1987年、千葉県千葉市に生まれた。父、母、3つ下の弟がいる。

 5歳の時、新体操を始めた。幼稚園に新体操のクラブチームがあったのだ。

「長い廊下があって、体育館の窓の隙間からリボンが動いてるのが見えたんです。夕焼けの中、ひらひら動くリボンがすごく綺麗で、『私もやりたい!』って言ったのを覚えています」

 新体操には団体と個人があるが、まなせは個人で活躍。小学校1年生から6年生まで関東大会で優勝した。将来の夢は、新体操の先生だった。

「選手じゃなくて、先生になりたかったんです。新体操の先生が大好きだったんですよ。もちろん、まずは選手として活躍しなければいけないんですけど、最終的には教える人になりたかった。お姫様とかお花屋さんとかケーキ屋さんとか、そういう夢は一回も持ったことがないですね」

 小学校4年生の時、両親が離婚。引っ越した先の中学校に新体操部があった。加えて地元の稲毛海岸にイオンの世界チームがあり、そこにも所属することになった。世界チームは体重制限が厳しく、中学1年生で身長が164cmあったまなせは苦しめられることになる。

「体重を32kgくらいにしなきゃいけなかった。34kgだとヤバい。35kg以上は存在価値がない、みたいな......。身長は関係ないので、『ゆうなはデブだね』っていつも言われてました。新体操は芸術スポーツで、見た目が点数に反映される。30kg台をずっと維持してましたね。お菓子を食べたことなかったんですよ。食べていいのは素麺みたいなスルメだけ。誕生日のケーキもお寿司のケーキでした」

 16歳の時、国体の強化選手に選ばれたが、新体操は出場できる選手の数が少ない。争いごとも多く、いざこざから怪我をしてしまう。休んでまた国体を目指す道もあったが、エースだったまなせにとって休むということは耐えられなかった。新体操をやめる決断をする。

「ストイックでしたね。技が失敗したりすると、1位になっても泣いていた。今だと信じられないですけどね。なんでもいいじゃんって思う。生きてりゃいいじゃんって(笑)」

自分のことを応援してくれる人と握手がしたい

 新体操をやめてからは、中学校の新体操部で外部指導コーチをしながらバイトに明け暮れた。バイト先は吉野家で、賄いは牛丼。体重は45kgまで増えた。ファッションはセシルマクビー全盛期。千葉駅のそごうのセシルマクビーの更衣室でワンピースが入らず、号泣した。

 高校2年生の時、千葉駅で芸能事務所にスカウトされる。新体操をやめてから、バイトをしながら年上の彼氏ができて、友だちと海で遊ぶ日々。楽しくも、どこか刺激が足りないと感じていたまなせは、スカウトの話を受ける。

「役者の事務所だったんですけど、『あなたはなにがやりたい?』と聞かれて、やりたいことなんてないじゃないですか。なにができるかわからないけど、『自分のことを応援してくれる人と握手がしたい』って言ったんです。そうしたら『グラビアが一番近いかもね』ということで、グラビアをやることになりました」


インタビューに答えるまなせ

 当時の体重は52kg。芸能界では、またもや「デブ」と言われることになる。

「ゆうこりん(小倉優子)全盛期だったので、背が低くて、胸はなく、ロリ系が正義。コリン星がブームで、『どこの星からやって来たの?』みたいな女の子ばっかりでした。わたしは千葉出身なので、『落花星から来ました』って言ってましたね(笑)」

 そんな中、アクション女優になりたいという夢ができた。映画『チャーリーズ・エンジェル』のキャメロン・ディアスになりたかった。アクトレスガールズ(女優とプロレスを掛け合わせた団体)のプロデューサー坂口敬二に「プロレスが題材の映画を作るんだけど、出ない?」と声を掛けられ、役作りでスターダムに練習に行くことになった。

 グラレスラー愛川ゆず希が引退する直前で、「第二のグラレスラーとして売り出したい」と言われた。プロレスをやる気はなかったが、坂口に「プロレスをやったらハリウッドに出られるんだよ」と言われ、心が動いた。まなせが大好きな映画『ワイルドスピード』に、元プロレスラーの"ロック様"ことドウェイン・ジョンソンが出演していると知ったのだ。

「『わたしも出るー!』って言いました(笑)。それに、わたしは露出して体を使うよりも、プロレスで使うほうが好きだなと思ったんですよね。同じ体を使うんだったら、こっちでやってみようという感じでした」

私は誰にも幸せを与えられてない

 2013年2月、スターダムに入門。初めて、ご飯を食べて褒められた。「身長の割にひょろっとしているのがよくない」と言われ、デビュー戦に向けてプロテインとご飯を食べまくった。体重は58kgから62kgまで増やした。

 2014年1月12日、新木場1stRINGにて宝城カイリ戦でデビュー。まなせ曰く「ボロボロだった」が、試合を観たロッシー小川は記者にこう言ったという。「こうやってスターは生まれるんだよ」――。

しかしその後、怪我で欠場が続く。2015年3月にスターダム退団を発表。同年、アクトレスガールズの旗揚げに参加するも、1年あまりで離脱。しかし、プロレスをやめようと思ったことはなかった。

「悔しかったんですよね。いままで大体のことができてたんですよ。でも、プロレスだけなにもできなかったんです。気持ちよく技が決まってたらやめてたかもしれないですけど、プロレスだけが一筋縄ではいかなかった」

 2016年12月、ミス東スポ2017特別賞を受賞する。そんなまなせが知人の紹介で新天地としてたどり着いたのは東京女子プロレスだった。とんとん拍子に話が進み、2017年3月よりレギュラー参戦する。

SNSが普及し、体型について叩くファンの声がダイレクトに届くようになった。新体操時代の食事制限で、2か月で80kgから65kgまで減量した。

「15kg落としたのに、一発目に来た仕事が(男性客限定大会の)野郎Zで、今成さんがぽっちゃり好きだからぽっちゃり同士を闘わせたいっていう仕事だったんですよ。わたし、15kg痩せてもぽっちゃりなら、もういいやと思って。ショックだったのを覚えてます」

 そんな今成が主催したのが、冒頭の「ぽっちゃり女子プロレス」。今成との出会いが、まなせを大きく変えた。彼女に今成は、「ありのままのまなせさんが素晴らしい」と言ってきた。観客も、他のだれでもない、"私"を応援してくれる。

「今成さんが言ったんですよね。『自分が主人公だから、自分のやりたいことをやる』って。今ならすごくわかります。人生は自分で動かすものだなって思います」

(後編:「ぽっちゃりは、脇役じゃない。センターだ!」>>)

【プロフィール】
■まなせゆうな
1987年11月11日、千葉県生まれ。170cm、75kg。5歳の時に新体操を始め、小学校1年生から6年生まで関東大会で優勝。高校2年生の時、芸能事務所にスカウトされ、グラビア活動を始める。2013年2月、スターダムに入門。2014年1月12日、新木場1stRING大会にて宝城カイリ戦でデビュー。2015年3月、スターダムを退団し、5月「アクトレスガールズBeginning〜プロローグ〜」でプロレス復帰。2016年12月、ミス東スポ2017特別賞を受賞。2017年3月より東京女子プロレスにレギュラー参戦。2019年7月26日、ガンバレ☆プロレスへの入団を発表。プラスサイズモデルとしても活躍している。