武尊の胸に残る夢、総合格闘技への思い。「総合でも結果を残せたら、K-1 の強さを証明できる」
武尊インタビュー 後編
(前編:「那須川天心のほうが強い」と言われ続けた悔しさ>>)
6月19日の『THE MATCH 2022』で、那須川天心との世紀の一戦に臨む"ナチュラル・ボーン・クラッシャー"武尊。長らくK-1の看板、ファンの思いも背負って走り抜けてきた。そんな武尊の格闘家としての覚悟、強さへの渇望の源はどこにあるのか。その答えから、那須川天心戦を終えた先の展開も見えてきた。
K-1で3階級制覇を成し遂げた武尊。那須川天心戦の先に見据えるのは?
――武尊選手は、「自分は天才ではない」とおっしゃっていますが、K-1 で3階級制覇を成し遂げて、記憶に残るKO劇を何度も見せてきました。それを可能にした要因はどこあると思いますか?
「試合をそのまま"試合"と思っているか、"命の取り合い"と思っているか。そういうメンタルの部分が一番大きいと思います。僕は『敗け=死』だと思っていて、死にたくないから相手のパンチが効いても耐えて前に出る。自分が倒れてもレフェリーが止めてくれるとは思っていません。命をかけた闘いだったら、止める人はいないわけですから。
だから僕も、相手の息の根を止めるつもりでいくんです。骨が1本、2本くらい折れても、相手を戦闘不能にしたら勝ち。そういう覚悟ができているかどうかの差が、ここまで僕が勝てている要因のひとつだと思います」
――武尊選手は、相手のパンチをもらって顔が上がるような場面でも前に出て打ち返しています。そういった時のダメージはどうなんですか?
「そういう時は『パンチをもらってもいい』と思ってパンチを受けています。もらってもいいと思っている攻撃は、傷や腫れのような表面のダメージはありますが、致命傷にはならない。自分にもダメ―ジはあるけど、相手を倒せるなら少しくらいパンチをもらってもかまわない、という感じです。だから僕は"命を削るファイトスタイル"って言われることがあるんでしょうね」
――武尊選手は打ち合いの中で笑う瞬間がありますが、その時はどんな心境なんですか?
「笑っている時は、本当に試合を楽しんでいるんだと思います。無意識なので、自分が笑っていることには気づいていないですけど」
――減量で食事もストイックに管理されていると思いますが、"勝負メシ"などはあるんですか?
「今は減量で食べられませんが、計量が終わったあとはウナギを食べます。決まったお店はないですけど、デビュー戦からずっと変わらない習慣なんです」
――武尊選手は3階級で王者となりましたが、どのように体作りをしてきたんですか?
「減量や食事については、自分で勉強しながらやってきて、フィジカルトレーニングも取り入れて体を作るようになりました。トレーナーさんに教えてもらうこともあるんですが、試しにやってみたことが体にどう影響するかを自分で確かめながら研究して、いいか悪いかを判断してきました」
――そういった体作りの面も含めて、格闘家としてすでに完成されたようにも感じますが、ご自身ではいかがですか?
「完成されたとは思ってないし、まだまだ自分は弱いと思っています。ボクシングのトレーニングでも新たな技術を学んでいますし、勉強しないといけないことばかり。まだ伸びしろもあると感じてます」
――8歳から空手を習い始めた武尊選手が、小学校の卒業文集に書いた将来の夢は「総合格闘家になりたい」だったそうですね。そこからキックボクシングの道に進んだのはなぜですか?
「どっちもやりたかったんですけど、アンディ・フグ選手(1996年のK-1グランプリで優勝)に憧れていて、『K-1 のチャンピオンになりたい』という思いを抱いたからそちらに進んだ感じです。でも、総合格闘技は"なんでもあり"という究極の格闘技だとも思います。K-1 王者として総合でも結果を残せたら、K-1 の強さを証明できるのかなとも思っています」
――試合を"命のやり取り"と考えている武尊選手にとっては、総合格闘技のダウン後の追撃や「極め」は、自らが求める強さに通ずる部分がある?
「そうですね。もちろんレフェリーがいてストップもしますが、総合格闘技のほうがより先の展開がありますし。空手をやっていた時も、実戦向けの空手だったので倒れた後も攻撃されていました。倒れた後の攻撃も習っていたので、それが染みついているのかもしれません」
――今は那須川天心選手との試合に全集中していると思いますが、その後、総合格闘技で強さを表現したいという思いはありますか?
「理想としてはあります。現時点では、6月19日の後のことは何も考えてないですけど」
――小学校の卒業文集で書いた夢は、まだ武尊選手の中にあるということですね。
「もちろん、意識はありますよ」
――武尊選手は自分をとことん追い込んで、プレッシャーとも向き合って、それを乗り越えて勝ち続けてきました。その原動力は何でしょうか?
「負けず嫌いなことは大きいです。試合に敗けたあとは、本当に生きている心地がしないほど毎日がつらい。それをもう経験したくないし、敗けは自分だけの敗けじゃない。団体や支えている人たちの思いも背負っているので、プレッシャーや恐怖と毎日戦うことになります。ただ、そういったプレッシャーがあるからこそ練習に気合が入るし、自分の強さの源になっています」
――41戦40勝でわずか1敗。デビュー6戦目(京谷祐希戦)、プロキャリア唯一の敗戦の悔しさがずっと残っている?
「その敗戦もそうですが、アマチュア時代や空手をやっていた時もたくさん負けを経験してきましたから。その負けがあったから、『もっと練習して強くならないと』というマインドが生まれた。反骨心や負けず嫌い、それが自分の強さの秘訣だと思います」
――あらためて、6月19日の那須川天心戦で武尊選手が見せたいこと、証明したいことはなんですか?
「これまでやってきたことや強さを証明して、自分についてきてくれた人たち、応援してくれた人たちに恩返しがしたい。僕やK-1 が誹謗中傷されても、いつか対戦が実現して勝ってくれると信じ続けてくれた人たちもたくさんいるので。ただ、勝つだけです」
最後の質問に移る前、武尊は次の仕事のために移動しなければならなかった。インタビューを切り上げてもいいタイミングだったが、武尊は「僕の携帯で(リモートを)つなぎます」と言って、車での移動中に丁寧に質問に答えてくれた。そしてインタビューが終わると、「ありがとうございました」とニコッと笑顔を見せた。これもK-1の象徴として闘ってきた男の責任感なのであろう。
6.19東京ドームに向け、武尊は残りの時間ですべてを研ぎ澄ませていく。勝って武尊という「存在証明」をするために。
【プロフィール】
■武尊(たける)
1991年7月29日生まれ、鳥取県出身。2011年9月24日、「Krush.12」でプロデビュー。2015年4月に初代K-1スーパー・バンタム級王座決定トーナメント、2016年11月に初代K-1フェザー級王座決定トーナメントを制して2階級制覇を達成。2018年3月の「K'FESTA.1」では第4代K-1スーパー・フェザー級王座決定トーナメントで優勝し、前人未到・K-1史上初の3階級制覇を成し遂げる。2021年12月、2022年6月に中立のリングで那須川天心と対戦することを発表した。プロ戦績41戦40勝(24KO)1敗