国内女子ツアー唯一となる熊本での戦い「KKT杯バンテリンレディス」は黄金世代10人目となる植竹希望の優勝で幕を閉じた。これまであと一歩届かなかったタイトルを、なぜ今大会ではつかむことができたのか。本大会では松森彩夏のキャディを務めたプロコーチの辻村明志氏が勝因を語る。
切り返しに注目!植竹希望のドライバースイングをスロー動画で見てみよう
■ベテラン勢ほど難しい今年のコンディション
舞台となる熊本空港カントリークラブといえば、総距離は長くないものの毎年スコアが出にくい戦いとなるコースの一つ。辻村氏はその特徴を「ツアーで一番フェアウェイキープが難しいコース」だという。
「ドッグレッグが多く、今年は例年ほどではなかったにしても硬いフェアウェイ。ただ、真っすぐ打てばいいというものではなくティショットから縦の距離感が求められます。飛ばしすぎれば突き抜けるし、方向を間違えればグリーンを狙えなくなる。ドライバーからボールを置くところを考えなければいけません」(辻村氏)
そして硬く締まったグリーンが熊本の名物となるが、今年はやや趣が違った。「いつもとは違うコンパクションでしたね。仕上がっていないわけではないのですが、今年はある程度止まりました。初日、2日目、3日目と徐々に締まっていく感じ。最終日はある程度の硬さが出ていましたが、初日はそこまでではなかった」。ここに黄金世代とプラチナ世代3人という若手4人のプレーオフとなった理由がある。
「このコースを何度も回ったことのある選手、特にベテランの選手になるほど難しかったのかなと思います。いわゆる、あそこに行ってはダメという、速いから絶対に行ってはいけないところがなかったんです。でも、過去の経験がある選手はそのイメージがあるから躊躇(ちゅうちょ)する。だから微妙なタッチはほとんどショート。だけど経験の浅い選手はそれを知らないから攻めていける。過去の経験が邪魔をした部分があるでしょうね」
■植竹は「ツアーきっての下半身リード」
そんな“若手”有利となった戦いを制したのが植竹。初シード入りしたばかりで、23歳と若手ながら昨季のパーオン率は5位、ドライバーのうまさを示すトータルドライビング(ドライビングディスタンス順位とフェアウェイキープ率順位を合算した値)、総合的なショット力を示すボールストライキング(トータルドライビング順位とパーオン率順位を合算した値)で3位に入るなどツアー屈指のショット力を持つ選手だ。
植竹のスイングといえばスピードの速さ、手元の低さが話題に挙がることが多いが、辻村氏は「ツアーきっての下半身リード」と切り返しに良さを感じている。
「切り返しからの下半身の使い方がツアーで誰よりも長けていますね。足と腰が切り返した時に手が一瞬止まる“間”があります。下半身がターゲットを向くときに上半身が逆を向くような感覚がありますよね。だから腕が体の近くを通ってくる」
下半身でリードできると何がいいのか。それはスピンの入りだ。「クラブのヘッドの刃がボールにしっかりと入っていく。だから捉えたあと、ボールの下を潜ってスピンを入れられる。球を捉えたあとが長くて押し込める。これが手打ちならボールとのコンタクトが点のインパクトになってしまいます」。しっかりとしたスピンが効いているから、ボールが着弾地点からランを出さずに止められる。
さらに今年は昨年から成長した部分も見えた。「去年までは力強さだけだったのが切り返しに柔らかさ、滑らかさが出てきてボールにガチンと行くだけではなくなりましたね。角のある切り返しから、ナチュラルな切り返しになりました」。さらにグレードアップしたショット力が熊本にピタッとハマった。
「ティショットにも駆け引きがあるコースで、スピン量を駆使してティショットからボールを置きたいところに置くことができました。アイアンは言わずもがなですね。飛んで曲がらず止められる。そして怖さもない。ゲーム性を持って臨めたと思いますし、すごく合っていたと思います」
とはいえ、まだまだ粗削りな部分もある。「勝負勘であったり、ショートゲームなど、もっと伸びしろはあると思います。それがついてきたときにすごく楽しみですね。一つ勝てたことで余裕もできました。熊本で上に行く人はほとんどのコースで上に行けると思いますよ」と期待を寄せた。
解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、松森彩夏、吉田優利などを指導。様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。
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