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エンガジェット日本語版が間もなく終了するとのことで、本連載も今回で最後を迎えることとなりました。約3年間にわたって連載を継続できたのも、読者の方々の支持と、エンガジェット日本語版スタッフの協力があったからこそです。改めて感謝を申し上げたいと思います。

そして改めて連載内容を振り返ると、最も多く取り上げていたのは携帯電話に関連する通信行政の話題ではなかったかと思います。官房長官時代から携帯電話料金引き下げに力を注いでいた菅義偉氏が首相となっていた2020年から2021年にかけては、総務省、そして携帯電話業界全体を巻き込んだ大騒動が起き、社会的にも通信行政に大きな関心が集まったことは記憶に新しい人も多いでしょう。

そうしたことから連載の最後に当たっては、菅前政権後の総務省有識者会議の動向などから、通信行政の抱える課題と今後について確認しておきたいと思います。

まずは多くの人が関心を寄せているであろう料金と競争に関する動向についてですが、一連の料金引き下げは菅前政権のプレッシャーによるところが非常に大きく、ある意味総務省が推し進めていた公正競争促進策の議論を乗り越えたかなり強引な形で実現してしまったことから、多くの歪みが出てしまった感は否めません。

その最たる例がMVNOの苦境です。以前は携帯大手は「質が高くて料金も高い」、MVNOは「質はやや落ちるが低価格」という形である意味市場での住み分けが図られていたのですが、菅前政権によるプレッシャーで携帯大手がMVNOの領域に容赦なく踏み込み、サブブランドやオンライン専用プランで「質が高くて料金も安い」サービスを提供し始めたことからMVNOが一気に厳しくなってしまいました。

▲NTTドコモの「ahamo」を皮切りとして携帯各社が安価な料金プランを導入したことは、MVNOの競争環境を一変させ危機をもたらすことにもなった

もちろん総務省も一連の携帯各社の動きを受け、データ通信の接続料や音声卸料金の引き下げを携帯各社に求めたり、SIMロックの原則禁止やメールアドレスの持ち運びを実現したりするなどしてMVNOの競争力を維持する施策を相次いで打っています。

ですが携帯大手が1000円を切るようなプランを相次いで投入したことで、MVNOの主力プランは今や月額数百円と、もはや小学生のお小遣いレベルにまで下がってしまっています。ビジネス環境が非常に厳しいことは理解できるのではないでしょうか。

▲日本通信のWebサイトより。同社が提供する「合理的シンプル290プラン」は、通信量1GBであれば月額290円で利用できるという安さだ

そこで総務省の有識者会議「接続料の算定等に関する研究会」では現在、携帯各社の料金プランが、接続料や音声卸料金などMVNOに貸し出す料金と比べ不当に安くなっていないかどうかを検証する「スタックテスト」の実施に向けた議論を進めています。ですがその結果、例えばKDDIの「povo 2.0」が月額0円で利用できなくなったとなれば消費者から反発を招く可能性もあるでしょうから、難しい判断が求められることにもなりそうです。

ただ携帯各社は料金だけでなく、端末販売でもMVNOに容赦しない姿勢を見せています。それがここ最近増えている「一括1円」「実質1円」などスマートフォンの低価格販売の復活です。

▲携帯各社のキャリアショップや家電量販店などでここ最近、一部のスマートフォンを大幅に値引いて販売する手法が復活してきているが、電気通信事業法の規制を回避するため以前とは異なる値引き方法が取られている

総務省は2019年の電気通信事業法改正で、通信料金と端末代の分離、そして通信契約に係る端末の値引き上限を規制するなどして端末の大幅値引きに頼った競争を「2年を目途に根絶する」としていました。ですが携帯各社はスマートフォン自体の値段を大幅に値引いて誰でも安く購入できるようにすることにより、その規制を回避して大幅値引きを実現しているのが現状です。

これは多くの消費者が「回線契約をせずにスマートフォンだけを購入してもいい」ということを知らないからこそ成り立っているもので、端末だけ購入する人が大挙して押し寄せると恐らく大赤字になるであろうリスクの高い手法でもあります。にもかかわらずこうした販売手法が生まれたのは、、契約の縛りでユーザーを留めることができなくなってしまった現状、端末値引きで他社からユーザーを奪うことが、携帯各社のビジネス上最もメリットがあるからこそなのでしょう。

こうした販売手法を企業体力の弱いMVNOが取ることができないというのは以前から言われていたことで、大幅値引きの復活でMVNOが一層厳しい立場に立たされていることは間違いありません。とはいえ通信契約に紐づかない値引きは電気通信事業法でも規制できないだけに、総務省がこの販売手法に動きを見せるかどうかは注目される所ですし、本格的な解決には消費者のリテラシー向上以外に道はないようにも思えます。

もう1つ、通信行政における今後の課題として触れておきたいのが電波の割り当てです。総務省では現在「新たな携帯電話用周波数の割当方式に関する検討会」という有識者会議で周波数オークションの導入に向けた議論が進められており、その第6回会合では検討会の1次取りまとめ案が公開されています。

周波数オークションは行政側にとって、審査の手間を減らせる、国庫に収入が入るなど明確なメリットがありますが、事業者側には落札額の高騰でインフラ投資に回すお金がなくなる、お金を持つ企業が免許を買い占める可能性があるなど、デメリットも少なからずある仕組みです。それゆえ携帯各社の意見は割れており、最大手のNTTドコモは賛成の姿勢を示しましたが、新規参入である楽天モバイル代表取締役会長の三木谷浩史氏は「今でも反対」との姿勢を打ち出しています。

▲2022年2月25日の記者発表会に登壇した楽天モバイル会長の三木谷氏は、周波数オークションの導入に現在も反対の立場を崩していないと話していた

各国の周波数オークションの状況を見ると、料金が高騰し過ぎないようにする仕組みや、新規参入の事業者が有利になる仕組みなど、さまざまな仕組みを導入して事業者側に不利となる要素を減らす取り組みが進められてはいます。ですがその内容は国によってかなり違いがあるようで、その制度設計には携帯電話会社のネットワークや競争環境をどう整備するかという、国家戦略が大きく影響しているようです。

▲「新たな携帯電話用周波数の割当方式に関する検討会」第6回会合のマルチメディア振興センター飯塚留美氏提出資料より。既に周波数オークションを導入している4カ国の仕組みには、国の方針が大きく影響しているという

そうしたことから2022年7月を予定している2次とりまとめに向けた議論では、日本が国として携帯電話産業やインフラ、そして競争環境をどのような形にしていきたいかという、国としてのグランドデザインが大きく問われることになることになるでしょう。その結果打ち出された結論の内容によっては、立場が異なる携帯各社の有利・不利が生まれることにもなりそうです。

それと関連する形で今後注目されるのが、周波数の再割り当てです。現状空きがないとされるプラチナバンドの再割り当てを楽天モバイルが求めているというのは以前にも触れた通りですが、現状その再割り当てに関しては、2021年8月に公表された「デジタル変革時代の電波政策懇談会 報告書」で、プラチナバンドに限らずどの周波数帯にも適用する普遍的な再割り当て制度を整備すると結論付けられています。

▲「デジタル変革時代の電波政策懇談会 報告書(概要)」より。周波数再割り当ての制度整備に際しては、プラチナバンドを特別扱いせず普遍的な仕組みを作るとしている

その具体的な内容については、今後「携帯電話用周波数の再割当てに係る円滑な移行に関するタスクフォース」で議論が進められ、2022年7月頃に1次とりまとめが出される予定のようです。ただ楽天モバイルが再割り当ての絶好の機会と見ている、プラチナバンドを用いている大手3社の3Gサービス終了が近づいていることから、制度整備がどの程度のスピード感で進められるかが楽天モバイルの今後を大きく左右することになるかもしれません。

最後に、これまで総務省の有識者会議などを傍聴して通信行政を追い続けてきた筆者の視点から言いますと、やはり日本の通信行政は、国として携帯電話産業をいかに育てるかという戦略的視点が抜け落ちたまま、公正競争の追及に傾倒するあまり携帯電話会社にはめる足枷を増やし続け、それが国際競争力を落とすことにつながっている感が否めないというのが正直な所です。

その根幹にあり、現在に至るまで大きな影響を与え続けているのは、やはり菅氏が総務大臣だった2007年に実施された「モバイルビジネス研究会」ではないかと考えられます。ですが首相を退任後の菅氏は総務省に対する影響力が大きく落ちているようですし、その右腕とされ同研究会を主導していた総務省の元総務審議官である谷脇康彦氏も、東北新社や日本電信電話(NTT)らによる接待問題に揺れた末に総務省を離れています(ちなみに谷脇氏は2022年6月28日に、MVNO大手のインターネットイニシアティブの取締役副社長に就任予定と発表されています)。

携帯電話市場において携帯電話会社以外の世界的存在感がほとんどない日本において、5G、そして6Gに向けた研究開発を推し進める上では携帯電話事業者をどう生かすかが重要になってくるはずです。日本の携帯電話産業を再び盛り返し世界的存在感を高めるためにも、総務省にはモバイルビジネス研究会の呪縛から離れ、新しい通信行政のあり方を模索して欲しいと思っています。