ワンマン運転が始まったJR相模線の列車には「ワンマン」の表示も

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JR東日本の駅に定着している「発車メロディー」だが、人員削減などの合理化が進むことで、今後のあり方が変わるかもしれない。

2022年3月12日のダイヤ改正で、首都圏では列車運行のワンマン化がさらに進んだ。実はそれによって、駅での取り扱いがなくなり、聴くことができなくなったメロディーもある。

ワンマン化で加山雄三ゆかりの曲も終了

3月12日改正で、首都圏では相模線全線、八高・川越線(八王子〜川越)、宇都宮線(宇都宮〜黒磯)、日光線全線でのワンマン運転が始まった。

これらのワンマン線区では駅停車時に運転士がドアロックを解除し、乗客がドア開閉ボタンを操作して乗降する。発車予告のメロディーは車載スピーカーから流されるようになり、従来の車掌による駅ホームでの発車メロディー操作はなくなった。

ワンマン化で車載メロディーに切り替わり、操作がなくなったご当地発車メロディーも現れた。茅ヶ崎駅相模線ホームで採用されていた加山雄三さんの楽曲「海その愛」をアレンジしたメロディーはワンマン化に伴い使用停止になり、宇都宮駅では黒磯方面用に採用のジャズ奏者の渡辺貞夫さんの「カリフォルニア・シャワー」をアレンジしたメロディーを流す機会がなくなった。上りの上野・東京方面の列車発車時には扱いがあるが、下り用とはアレンジ部分が異なる。茅ヶ崎以外の相模線各駅のメロディーも相模線以外では現在使用例がないもので、惜しむ「音鉄」もいる。

ほかにも八王子駅では童謡の作詞家・中村雨紅(1897〜1972)が八王子市出身であることにちなんで各ホームで中村が作詞した「夕焼け小焼け」をメロディーに採用していたが、八高線の1番線ではワンマン化により扱われなくなった。

車載メロディーはJR東日本の各地で採用されている汎用的なものに切り替わり、方向別に使い分ける形態をとった。例えば相模線では茅ヶ崎方面で「Water Crown」、橋本方面で「Gota del vient」を使い、八高・川越線であれば八王子方面が「Gota del vient」、川越方面が「Water Crown」という具合だ。

2つのメロディーは首都圏の様々な駅・ホームで使われているもので、例えば横浜線と相模線が接続する橋本駅では相模線のワンマン化で横浜線八王子方面と相模線茅ヶ崎方面の発車メロディーが同じ「Water Crown」になった。

ただし記者が八高線で実際に乗車してみると、乗務員によっては上下逆のメロディーを使う場合もあった。従来は駅ホームのスピーカーから発車メロディーが流されていたが、ワンマン化で車両側からしか流れなくなったのも変更点だ。

メトロでは駅や時間帯で柔軟に対応

従来のように駅ごとにメロディーを変えること自体は可能である。鉄道ライターの枝久保達也さんは「技術的には車両の走行位置に応じてメロディーを変えることは可能ですが、今改正の導入線区は乗客も少なく、そこまでのコストをかける必要がないとなったのでしょう」と考える。一方で

「常磐線各駅停車では全駅で発車メロディーを流すことをやめ、乗務員の裁量に任せています。メロディーが駆け込み乗車や騒音の一因という考え方もありますので、JRも発車メロディーの在り方を考え直そうとしているかもしれません」

という背景も考えられる。

ワンマン化の推進はドライバレス運転実現を目指すJR東日本の既定路線で、都心部の通勤線区でも進む見込みだ。

今後2025年から30年にかけて山手線・京浜東北線・根岸線・横浜線・南武線・常磐線各駅停車などでワンマン化のための準備工事を進めると明らかにしている(2021年12月7日JR東日本発表より)。これらの線区にもJRオリジナルの汎用曲に加えてご当地メロディーが採用されている。川崎駅南武線ホームの「川崎市歌」アレンジ、横浜DeNAベイスターズにちなんだ関内駅の「熱き星たちよ」、蒲田駅の「蒲田行進曲」などが使われてきて、地域のシンボルにもなっている。

東京都心でワンマン化済の東京メトロ丸ノ内線・南北線は駅ごとにメロディーを変え、また時間帯や状況によって楽曲を変えている。「東京メトロでは車両と駅のシステムを連動させて、発車サイン音の扱いを柔軟に変えています」(枝久保さん)。ダイヤ乱れ時には駅ごとのメロディーを使わず、車載の乗降促進サイン音のみを操作して停車時間の節約も可能にしている。

駅メロの今後は?JRの見解

過密な都心線区でのワンマン化はホームドアとATO(自動列車運転装置)の完備とセットになると予想されるため、東京メトロのように駅ごとに違う曲を導入することも想定される。駅メロがどうなるかは、JR東日本の裁量にゆだねられている。

ワンマン化が進む過程で、利用者に親しまれているご当地メロディーも置き換えられていく可能性はあるのだろうか。今後、駅メロをどのようにしていくのかの方針をJR東日本に取材したところ、同社は

「一部の駅では、自治体等の地域の皆さまからのご要望がある場合、異なるメロディーを採用している箇所があります。駆け込み乗車の防止に対して、より安全にご利用いただけることを目的に、車両側面のスピーカーの使用を採用している線区もあります。今後、ご要望がある場合には、費用面などの諸課題を協議の上、判断してまいります」

と答えている。

(J-CASTニュース編集部 大宮高史)