2020年11月、東京・恵比寿の会員制高級ラウンジで、同店の従業員A子さん(20)が亡くなった。警視庁渋谷署は事故として処理したが、彼女の死にはあるゲームが関わっている、とネット上で話題に。そのゲームとは「15分以内に750mlのテキーラボトルを飲み干したら挑戦者に10万円を渡す」というもの。テキーラチャレンジと呼ばれるこのゲームを考案し、現場にも居合わせた起業家・光本勇介氏が後にSNSで特定されて大炎上した。

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 夜の街に馴染みがない人々にとってテキーラ事件の衝撃は大きかったはずだ。しかし、今回話題になった会員制高級ラウンジ(以下、ラウンジ)をはじめ、女性キャストが接客をするキャバクラでは客から無理難題を課せられるのは日常茶飯事だという。(取材・文=真島加代/清談社)

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 後藤美加さん(仮名・30歳・会社員)は、大学生時代から六本木のキャバクラで働き、社会に出たあとも生活費の足しにするため時折キャバクラやラウンジで働いていた女性だ。この事件をネットで知ったとき、光本氏の遊び方に“古臭さ”を感じたという。


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「2010年代後半頃には、お酒をムリに飲ませる客は減っていた印象があるので、今回の事件は、まだそんなことやってるのか、という驚きがありましたね。10年くらい前は、お客さんにお酒をたくさん飲まされて潰れるキャストの女の子をたくさん見ました。さすがに身近で亡くなった子はいませんが、『シャンパン入れてやったんだからちゃんと飲め』と言われたり、『テキーラ一気したら、チップで1万円あげる』という提案もよくされました」

お酒の飲ませ方については黙認している店

 とくにVIPルームのような閉鎖空間では、スタッフの目が届かないので好き勝手に振る舞う人が多い、と後藤さん。一方で、店側が黙認しているケースも多いという。

「黒服(男性スタッフ)がお客さんに注意をするのは、女性キャストに触る“おさわり”などのセクハラ行為で、お酒の飲ませ方について進言することはありませんでした。また、テキーラのようにアルコール度数が高いお酒を飲むと女の子にドリンクバック(通称ドリバ)がつくので、女の子にとっても悪い話ではないんです。キャバクラとラウンジは接客方法などのこまごまとした違いはありますが、ラウンジもだいたい同じだと思います」

“高い金を払ってるから何をしてもいい”

 ラウンジもキャバクラも時給制の仕事。収入は個人の成績によって変動するが、後藤さんは給与から源泉やヘアメイク代などが控除され、手取りは約25万円ほどだったという。

「給料はそこそこもらってましたが、売れっ子というわけではないし、テキーラ一気飲みのチップはお店を通さず全額受け取れるのが魅力でした。店も黙認していたので、みんなやっていたと思います。なので、キャバクラの女の子たちが酔っ払ってバックヤードでぶっ倒れている光景は珍しくありません。お酒が弱い子には、ウーロンハイといって烏龍茶を出してくれるお店もありますが、お酒ではないと気づいて怒るお客さんもいるので、諸刃の剣ですね」

 バックヤードは死屍累々。想像していたよりもハードな仕事だった、と後藤さん。

「しかも、接客中は『お前ブスだな』とか『お酒飲めないのになんでキャバやってんの? 帰れよ』とか、暴言を吐かれることも多いです。私個人の見解ですが、キャストに対して“高い金を払ってるから何をしてもいい”と思っているお客さんほど、暴言を吐いたり、お酒を強要したりする傾向がありました」

 面と向かって「お前も男を金づるだと思ってんだろ」と凄まれた経験もあるという。仕事と割り切るまでは大変だった、と振り返る。

身も心もボロボロ

「場数を踏んで流せるようになりましたが、普通に考えたら暴言なんて吐かれないほうがいいですよね。お客さんもストレスを発散しに来ているのはわかりますが、さすがに100%の悪意を向けられるとかなりこたえます」

 後藤さんは現在、現役を退き、昼の事務職をしている。収入は減ったものの、精神的なストレスはかなり軽くなったそう。

「優しいお客さんもたくさんいましたが、身も心もボロボロになったので、稼いだ金額よりもマイナス面のほうが多かったような気がします。それに、当時稼いだお金を何に使っていたのか、あんまり覚えてないんですよ。悪銭身につかず、ですね」

ゲームを断れないのは「いじめと同じ構造」

 今回のテキーラ事件が明るみになったとき「なぜ断れなかったのか」と疑問視する声もあったが、後藤さんは「キャストがお酒を断るのはかなり勇気がいる行為だ」と話す。

「私はそのVIPルームの状況を想像することしかできませんが、金払いのいい有名な常連で場を支配している客からの提案なら、私も断れないです。もしも自分がゲームを断って先方が怒って帰ってしまったら、お店のスタッフから『お前のせいで今日の売上げ下がったわ』と詰られるかもしれない、と思うとチャレンジするしかない。周りの女の子も怖くて止められないし、ほかの客も『みんなやってるよ』と言いながら焚きつけている光景が目に浮かびます。いじめと同じ構造ですよね……。酒席の場数を踏んだ女性なら断れるかもしれませんが、20歳の子がこの場所でゲームを断るのはムリだと思います」

 お金云々よりもシラケさせたくない、という気持ちが先立ってしまったのでは、と後藤さんは考察する。

 一方、渦中の光本氏は12月12日に公開した文書で「ゲーム自体は女性のご希望で行うことになった」と綴っている。

テキーラチャレンジは悪魔のゲーム

「客が強要していなかったとしても、店側から『こういうゲームがあるから志願して』と頼まれていた可能性もあります。キャストの女の子は、黒服から客の情報を伝えられてから席につくので、そんなに有名な常連なら、なおさらなにか言われているはず。そういった店側のプレッシャーもあったのではないでしょうか」

 場の空気と、店からのプレッシャー……テキーラ事件はパワハラ問題とも深い関わりがあるのかもしれない。また、テキーラチャレンジは参加者の心理をついた“悪魔のゲーム”だと感じたそう。

「テキーラを制限時間内に750ml飲みきったら10万円という条件は、お酒が飲める人にとっては『できそうかも』と期待を抱かせる内容です。しかも、成功すれば10万円はまるごと受け取れる。でも、実際は命を賭けたゲームなんですよね。

 お酒を飲み慣れていない20歳の子が自ら志願したというのは違和感しかないです」

 テキーラ事件を通じて「令和になっても、女の子を酒で潰して喜ぶダサい飲み方をする人がいるんだと絶望した」と、後藤さん。同じ悲劇が繰り返されないことを祈るばかりだ。

(清談社)