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新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が出て、初めての週末。東京都にとって4月11日は、小池百合子都知事による休業、時短要請の実施初日でもあった。

居酒屋が軒を連ね、清野とおるさんのマンガ『東京都北区赤羽』などで人気になった赤羽エリアの繁華街でも、多くの店が要請通り20時には営業を終えた。

しかし、その胸中は複雑だ。30代のある経営者はこう嘆く。

「夕方オープンの居酒屋に、どうやって午後8時までの営業で売上を立てろと。人通りがないから客は少ない。『ソーシャルディスタンス』取り放題ですよ」

飲食店の不安を聞いた。(編集部・園田昌也)

●飲み歩きでにぎわう街が閑散

「こんな赤羽見たことないよ」ーー。要請の詳細が発表された4月10日(金)の22時過ぎ、目抜き通りの「赤羽一番街商店街」でサラリーマン2人組の会話が聞こえてきた。

普段なら喧騒にかきけされ、気づかなかったかもしれない。しかし、この日は「華の金曜日」だというのに開いている店も、通行する人もほとんどいない。まるでゴーストタウンだ。

記者は現在、在宅勤務。運動不足解消のため、人通りが少ない夜に散歩がてら街の様子を観察することが日課になっている。

赤羽では4月4日(土)ごろから、休業が広まった。メディア露出の多い有名店があいついで営業を見合わせ、どんどん「観光客」が減った。

●居酒屋は本当に協力金をもらえるのか

要請の初日となった11日(土)、夜の明かりはさらに消えた。休業・時短要請になにを思うのか。冒頭の経営者は次のように話す。

「融資もあるといったって、結局は借金だし、コロナ問題がいつまで続くか分からない。テイクアウトやデリバリーで努力しても、利益はドリンクの部分が大きい。50万円の協力金じゃ、長くは持たないよ」

そもそも、この50万円がもらえるかどうか、半信半疑だという。

都は要請に応じれば、協力金を出すとしている。しかし、ほかの業界では休業が条件だ。同業者をみても、時短と休業の両方がある。時短でも本当に50万円をもらえるのか。

繁華街の外れに店を構える別の店主もLINEに次のようなメッセージをくれた。

「報道しか情報がない。同業者からは、もらえないんじゃないかという声も聞きます。日々、いろんな話が出てくるし、何が正解かわからない。周りをマネしてどうにかやっている状況です」

●都議は「もらえる」 正式発表は15日

問い合わせようにも、都の緊急事態措置相談センターは、何度かけてもつながらない。ネットなどでも「決定的な情報がない」と嘆く飲食店関係者の声をみかける。

実際、都によると同種の問い合わせは多いようだ。

こうした中、小池都知事と近い、都民ファーストの荒木千陽都議は、自身のフェイスブックで、居酒屋の時短も対象になると告知している。ただ、情報はまだ十分に届いていないようだ。

協力金の正式な給付条件は4月15日に発表される。それまでヤキモキする飲食店も多いだろう。

●一度休んだら、いつ再開できるか分からない

当面、時短は考えていないとして、午後8時以降も営業した店もあった。オーナーは次のように語る。

「休業や時短にしたら、今よりも状況が良くならないと再開できない道理ですよね。会社勤めの人は変わらずに通勤していますし、この1カ月でコロナが終息するとは思えないです。50万円もらえたとしても、固定費で消えます」

たとえば、日本よりも厳しく外出が制限されているイタリアでは、3月9日に全国規模のロックダウンがスタート。当初の予定は1カ月延長され、現在は5月3日までとなっている。

日本の緊急事態宣言は5月6日までの予定だが、もし延長になったら…。治療薬やワクチンがない以上、宣言が解除されても再流行するかもしれない。

国も経営者を支援するため、「持続化給付金」などの施策を発表しているが、コロナ禍の長期化が十分に想定されているわけではない。今後の見通しがつかない以上、国も経営者も難しい判断を迫られている。

●宣言の延長を懸念

同様の意見は、休業要請の対象になっているバー経営者からも聞かれた。

営業継続を検討しているマスターはこう話す。

「『非国民』と言われるかもしれないけど、その金額だと食べていけない。少なくとも、いつまでの50万円なのか、緊急事態宣言が延長されたときにどうなるのかが分からないと判断できない」

要請の前から休業していたマスターも、「うちは50万円でも今月はなんとかなる」としつつ、「延長となると話が違ってきます」と不安を打ち明ける。

特に飲食店は、リスクがあっても顔を出してくれるなじみ客や、開いている店があれば飲みに行ってしまう客のことを間近で見ている。

感染が広がっても良いという経営者はいない。しかし、政治からコロナ対策にかける本気度や、生活は守られるという安心を感じられなければ、リスクをとってでも従来通り営業せざるを得ないというジレンマがある。

コロナにかかる、あるいは店から感染者が出る可能性より、店がつぶれる可能性の方が高く感じられるのだ。

他人に対する信頼という点では、デマを信じた人は少ないのにトイレットペーパーが買い占められてしまったのと近い問題かもしれない。

●続けるのも、やめるのも怖い

カラオケスナックの関係者からはこんな声もあった。

「土曜まではやったけど、要請が出たから来週からはもうできないですよ(編注:日曜定休)。周りが20時で閉めているのに1店舗だけやっていたら浮いちゃう。写真撮ってさらす人もいるでしょ。袋叩きにされちゃう」

営業を続けるのであれば、今後はウイルスだけでなく、通行人や客もリスクになりえる。こうした中、一時的に予約・会員制にした店もある。

どういう制度にすれば、感染者と経済損失がもっとも少なくなるよう、人の行動を変えられるのかは難しい問題だ。

ただ、この状況が続くようであれば、誰もいない商店街は「緊急事態」ではなく、コロナが終息したあとの「日常」になりかねない。