UUUMを辞めて、大手芸能事務所の太田プロダクションに所属することを発表した、ヴァンゆん。マルチタレントとして活躍の場を増やすのが移籍の目的だ(画像:ヴァンゆんチャンネル)

言わずと知れたトップYouTuberヒカキンはじめしゃちょーなどが所属するUUUM 。YouTubeビジネスで圧倒的シェアを握る、そのYouTuberプロダクションに、実は異変が起きている。所属YouTuberの離脱が止まらないのだ。

UUUMを卒業させていただきます」

2月1日にUUUMからの離脱を発表した木下ゆうか。チャンネル登録者数が540万人を超える人気YouTuberだ。2019年9月には人気上昇中の2人組 YouTuberヴァンゆん(登録者数200万人)がUUUMから大手芸能事務所の太田プロダクションへ移籍すると発表。登録者数480万人のすしらーめん[りく]も辞めている。

その結果、UUUMの株価は暴落。2019年2月に6870円の最高値をつけたが、今年3月13日に1682円の年初来最安値を更新した。1000億円を超えていた時価総額は約380億円まで縮小している。株価下落は直近の決算発表を受けたもので、相次ぐYouTuberの離脱が直接的な原因ではない。しかし、YouTube業界を取材すると「次は、あのグループYouTuberUUUMを辞めるよ」と、うわさが次々と耳に入ってくる。

UUUMからYouTuberが離れていった?

はたして何が起こっているのか。そこで今回は、「打倒UUUM」を目指す新興勢を中心に、YouTuberビジネスの最前線を追ってみた。

【2020年4月14日10時00分追記】UUUMに関する初出時の記述を削除いたします。

「毎月3000万円の広告収入があったら、600万円も抜かれるわけですよ。お金に対してのリターンが見合っていない」

2019年10月、YouTubeチャンネルを運用する会社としてギルドを立ち上げた、高橋将一代表はそう断言する。高橋代表は人気YouTuberヒカルのマネジャーを務めるほか、今年1月からは芸人の宮迫博之のYouTubeチャンネルも運用している。ギルドは複数社に分散していたマネジメントやチャンネル運営事業を集約したことで、すでに年商は50億円規模に達する。主な収入源はマネジメント手数料よりも、企業とのタイアップ広告費だという。

UUUMを筆頭とする一般的なYouTuberプロダクションの場合、所属YouTuberとマネジメント契約を結び、手数料20%を徴収している。トップYouTuberの場合、月収3000万〜8000万円を稼ぐ力があるので収入は膨大だ。その対価として、企業とのタイアップ案件を営業担当者が獲得してくる以外に、撮影スタジオを貸したり、税務処理や賃貸契約といった雑務をサポートしている。

ヒカキンやフィッシャーズといったトップYouTuberのタイアップ費は2000万〜2500万円だが、それ以下のクラスとなると数十万〜数百万円と幅広い。プロダクションとYouTuberで分配して受け取ることになるが、配分比率は会社や個人によってまちまちのようだ。

「視聴回数が減って、広告収入が落ちてきたYouTuberにとって、事務所の手数料20%は負担。単発のタイアップ企画なら個人でも受注できるので、マネジメント契約というビジネスモデルは限界を迎えている。海外にはほぼなくて日本くらい」(高橋代表)。

ギルドではマネジメント手数料を、税務処理など案件ごとに価格を決め、ガラス張りにしているという。そのうえで「企業からタイアップとして500万円を受け取ったら、YouTuberと一緒に400万円を使い、品質の高い動画を制作するイメージ」(同)。打ち合わせには、企業とギルド、YouTuberが一堂に顔を合わせ、企画を練り上げていく。実際の撮影の手配や編集、ロケ場所やスタッフの手配は、ギルドが行う。

企業とYouTuber、互いに相反する思惑

これだと、再生回数が伸びれば広告収入も見込めるので、企業にとってもYouTuberにとっても万々歳。逆にYouTuberから企画を相談されたら、予算を確保するため、企業にタイアップを売り込むことも多い。社内には営業電話専門のスタッフが常駐しているほどだ。初対面の企業には協賛を持ちかけるケースも多いが、「動画の反響に喜んで、次はタイアップしてくれるようになる」(同)。

一般的にYouTubeでは、テレビのような広告手法は通用しない。YouTuberが新商品の飲料を飲んで「おいしい」と褒めると、視聴者はCMのような商業的な”匂い”を嗅ぎつけ、興ざめしてしまう。その反面、YouTuberが自由奔放に新製品を扱うだけでは、薄い内容となって、企業側の満足度が下がりがちだ。その隙間を企画力で埋めることをギルドは目指しており、「テレビ業界の電通、博報堂のような存在になりたい」と高橋代表は意気込む。

ティーン雑誌「ポップティーン」のモデルも務めるねお(18)は、自身の職業を「動画クリエイター兼モデル」と名乗る(動画:ねおチャンネル

「マネジメントと企業への営業だけでは、事務所を辞めたくなるYouTuberの気持ちもわかる」

こう語るのは、YouTuber事務所VAZの森泰輝社長。2015年の設立から、多くのYouTuberやインフルエンサーと新たなビジネスを立ち上げて成長してきたが、多くの離脱も経験した。今、目指しているのは、「ネットのハイブリッドタレントを作ること」(森社長)。


ねお(18)のSNSの総フォロワー数は430万人を超える

VAZに所属するねおは、ティーン雑誌『ポップティーン』の専属モデルを務めるなど、若者から絶大な人気を誇る。チャンネル登録81万人の中堅YouTuberだが、TikTokのフォロワー数190万人などを含めると、SNSの総フォロワー数は430万人を超えている。テレビ番組やAbemaTVでも幅広く活躍する18歳だ。

「ねおを編集長とした、小さな編集部という体制を築いている。具体的にはSNSやYouTube投稿の戦略や、企画の相談、データ分析をサポートしている。ネットからテレビまで、複数メディアを横断した年間計画で進めている」(森社長)。

YouTubeの広告収入に頼らず、他に稼げるポイントを一緒に開拓しているという。「個人プロデュースでは難しい領域を、チームで進めることで勝ちにいく。ねおの成功事例が未来のプロダクションのあり方になるのでは」と森社長は語る。

実際にYouTuber専業で生きていくのは至難の業だ。ボーダーラインは「チャンネル登録数10万人」と言われるが、平均再生単価0.1〜0.3円で月間25本の動画をアップすると、月収は25万〜75万円程度。そこから撮影や編集にかかる必要経費を差し引くと生活はギリギリなのだ。


株式投資チャンネルを運営するZeppyの井村俊哉CEOは元芸人。貧乏生活から株式投資を始めて”億り人”となった経験を生かし、2019年に起業した(撮影:梅谷秀司)

もっとも、登録者数が10万人以下でも、黒字で運営しているチャンネルもある。Zeppyは投資家に特化したYouTuberプロダクションとして、2019年6月に設立し、投資チャンネルを運営している。チャンネル登録者数は7万人弱、動画の再生回数も1万〜18万回と波が大きい。しかし井村俊哉CEOは「会社として単月黒字化している」と説明する。

株式=投資家向けなら、単価も上がりやすい

「Zeppyの場合、視聴者は30〜40代が多く、再生単価は0.6〜0.8円。企業からのタイアップでIR(投資家向け広報)の動画制作も行っている」(井村CEO)。株式投資という分野では視聴回数の大幅な伸びこそ期待できないが、購買力のある視聴者層が見込めるので再生単価が上がりやすい。企業にとって個人投資家に対するPRの場となれば、タイアップの広告費も出しやすい。

今年1月にはテレビ東京から追加出資を受けたほか、投資家YouTuberもふもふ不動産を引き受け先として第三者割当増資を実施した。もふもふ不動産は登録者数15万人を超える人気チャンネルで、再生単価は2円に達したことがあるほどだ。「いずれはファンドを作って、個人投資家に向けた投資商品を売っていきたい」(井村CEO)。良質な視聴者を囲い込むことで、再生回数に頼らない新たなビジネスを見据えている。

実は今、YouTubeで進んでいるのが、こうした大人向けコンテンツの充実化だ。25歳以上を対象にした動画ではターゲティング広告の単価が上がりやすい。対照的に18歳以下はターゲティングできないようグーグルは決めており、若者を対象とした動画は再生単価が上がりづらくなっている。

これまでYouTubeは、ヒカキンやはじめしゃちょー、フィッシャーズの人気が象徴するように、10代の若者に支持されるチャンネルが存在感を放ってきた。その構図は今も変わらないものの、芸能人を筆頭とするYouTuberの参入が増えたことで視聴者が分散し、再生回数や再生単価を従来通りに稼ぐことが難しくなってきている。

視聴者の「変調」を最も敏感に察知するのは、ほかならぬYouTuber本人だ。ピークアウトに伴う収入減に備えて独立の道を選ぶのか、YouTube以外の稼ぎ口を求めて企業とのタイアップを増やすのか、それとも別メディアへ活躍の場を広げるのか――。その選択肢は全方位へと広がりつつある。YouTube関連ビジネスの市場拡大は、まさにこれからなのだ。