回を追うごとに視聴率が上昇していく人気を見せたTBS日曜劇場「テセウスの船」(東洋経済オンライン編集部撮影)

最終回(3月22日放送)を前に注目度が沸騰している日曜劇場「テセウスの船」(TBS系 日曜よる9時〜)。その魅力のひとつが、幼き殺人者・みきお(柴崎楓雅)である。非力に思えた小学生が毒物を使って大量殺人を実行した理由とは……。みきおを演じる11歳の柴崎楓雅の魔少年ぷりに目が離せない。

ドラマの盛り上がりには子役の活躍が欠かせない。ただ、かわいい子役を出せばいいわけではなく、そこには仕掛けも必要である。「テセウスの船」の子役使い方の巧さはどこにあったのか。

「テセウスの船」は、2020年から31年前の1989年(平成元年)に起きた「音臼小無差別大量殺人事件」の謎を中心に進むヒューマンミステリー。善良な警察官・佐野文吾(鈴木亮平)が犯人とされ、文吾を父にもった息子・田村心(竹内涼真)は、31年もの間、日陰の身を余儀なくされてきた。あるとき、現代から過去にタイムスリップ、忌まわしい事件は父が起こしたものではないと知り、心は父を救うべく、事件を阻止しようと奔走する。また文吾も心に協力するようになり、時を超えた父子の奇妙であたたかいコンビプレーが発揮されていく。

緊迫感と予想できない展開で人気に

タイムスリップものの通例で、心がまだ生まれていない時代に心が行動すると、歴史が変わり、未来が変わっていく。良く変わることを願いながら、なかなかうまくいかず、暗い未来になってしまい焦る心。その緊迫感と予想できない展開で、視聴率も最初から悪いほうではなかったが、当初から微妙な怪しさを振りまいていた小学生のみきおが犯人であることがわかると、がぜん盛り上がってきた。

最初、容疑者だった文吾役の鈴木亮平にはじまって、ユースケ・サンタマリア、笹野武志、六平直政、霜降り明星のせいや、今野浩喜、小籔千豊、麻生祐未などなど、犯人候補になり得そうな怪優が次々出て来て、瞳の陰影や刻まれた顔のシワに、悪意を読み取りたくさせる演技合戦が繰り広げられるなかで、肌がつるっと白く、濁りのない瞳をした少年が悪の権化だったことのギャップ。また、みきおの未来の姿を演じる安藤政信の怪演もバックアップになり、その後の少年みきおのターンはストーリーも演出も演技も乗りに乗った。

美少年みきおのクールな目つきや口元にゾクゾクする凄みがあり、彼が目の悪い老人にクスリと偽り毒を飲ませる場面は震撼となったし、追い詰められて死んだふりして、「犯人じゃなかった?」と思わせてから、目をパチリと開けるところなんてホラー映画のような興奮を覚えた。

子供に翻弄されていく大人たち。みきおは軽やかに追求を交わし、またしても文吾に疑いがかけられていく(文吾がほんとうに可哀想)。最終回直前の第9回(3月15日放送)ではみきおに共犯者がいることがわかる。共犯者とは誰なのか……。登場人物のみならず、視聴者までもが最後までみきおに振り回されるのであった。

子役が魅力的だとドラマが盛り上がる例は枚挙に暇ない。キッズたちがテレビドラマの歴史を彩ってきた。昨今だと、朝ドラ「なつぞら」(2019 年、NHK)で広瀬すず演じるヒロインの子供時代を任された粟野咲莉。牧場で労働する彼女の健気な演技は視聴者を釘付けにした。現在放送中の「スカーレット」(2020年 NHK)では戸田恵梨香演じるヒロインの子供時代は川島夕空が演じ、その元気溌剌さがドラマを明るくした。後半、伊藤健太郎演じるヒロインの息子の幼少期を演じた中須翔真は澄んだ声が親思いの良い子にピッタリで視聴者の心を癒した。

朝ドラは子ども時代をもっと見たいという声も

高視聴率を獲得しスペシャルも制作されたドラマ「義母と娘のブルース」(2019年 TBS)の上白石萌歌演じる娘の子供時代を担当した横溝菜帆は、義母役の綾瀬はるかと血がつながっていないにもかかわらず強い母子愛を熱演、視聴者を大泣きさせた。大河ドラマ「麒麟がくる」(2020年 NHK)では徳川家康の子供時代・竹千代を演じる岩田琉聖が母を恋しく想いながら人質として忍耐している表情が堪らない。

一時期、朝ドラや大河は初期の子供時代がタイクツで成長した主人公のターンを早くはじめてほしいと言われていたことがあったが、最近は逆に子供時代をもっと見たいという声が出るようになってきているほどなのである。遡れば、社会現象になった「おしん」(1983年NHK)の子供編をしっかり演じ、国民に愛された小林綾子がいて、子供のターンがレジェンドになることだって起こり得るのである。

なかには「同情するなら金をくれ」を流行語にした安達祐実(「家なき子」)、天才子役と爆発的人気を呼んだ芦田愛菜(「マルモのおきて」)など主役として堂々と全編やりきる子役もいる。最近では、米津玄師プロデュースの「パプリカ」を歌う5人のキッズユニット・Foorinも大活躍している。

みきお役の柴崎楓雅は2008年生まれの11歳(4月で12歳)で、デビューは2018年。ここまで大きな役は「テセウスの船」がはじめてながら、この後、映画出演などが控え、さらにこれから引っ張りだこになるだろう。

昨今の子役ブームのひねり技

「テセウスの船」のみきおが強烈な印象を残した理由にはもうひとつ考えられる。昨今の子役ブームのひねり技であったことである。昨今の子役ブームは、前述したように、いたいけで純粋な、天使のような善良さが好まれている。そういう役割を子役たちが、大人顔負けの演技で全うし、視聴者を感動させるのである。だが、「テセウスの船」のみきおは、大人顔負けの演技で、悪魔の顔を演じ、不意をついてきた。

現実の世界でも少年犯罪はある。昭和〜令和にかけてどこかで爆発的に増えたとか減ったとかいうデータは見受けられないようだが、時代、時代でエポックメーキングな事件が起こる。たとえば、沢木耕太郎が大宅壮一ノンフィクション賞をとった『テロルの決算』でも書かれた、1960年の浅沼稲次郎暗殺事件。17歳の右翼少年が、演説会場で社会党委員長浅沼を刺殺した事件。大江健三郎は山口をモデルにしたとされる「セヴンティーン」という小説を書いている。

また、1997年の神戸連続児童殺人事件(「酒鬼薔薇事件」)。猟奇的な殺人を犯した14歳の少年が自らを“透明な存在”と表す文学性にも注目が集まり、彼の生活や嗜好などから犯行の要因が様々に考察された。2015年には手記「絶歌」が発売され物議を醸し、犯人の全容は未だ解明されていない。

ちなみに、検察庁のサイトによると、少年犯罪はこのように定義されている。

“少年とは,20歳に満たない者を意味し,家庭裁判所の審判に付される非行のある少年は,(1)犯罪少年(14歳以上で罪を犯した少年),(2)触法少年(14歳未満で(1)に該当する行為を行った少年−14歳未満の少年については刑事責任を問わない),(3)ぐ犯少年(保護者の正当な監督に服しない性癖があるなど,その性格又は環境に照らして,将来,罪を犯し,又は刑罰法令に触れる行為をするおそれがあると認められる少年)に区別されます。”

時代を映す鏡としてドラマでも時おり少年犯罪が描かれる。「テセウスの船」と同じ、TBSは1994年に「人間・失格 〜たとえば僕が死んだら」という中学校のいじめ問題を描いたドラマを制作している。KinKi Kidsの堂本剛と光一の共演作で、快活だったひとりの少年が自殺に追いまれたり、加害者と被害者がいつの間にか逆転したり、未成熟で不安定な少年たちの心に迫ったかなりヘヴィーな内容であった。

「QUIZ」神木隆之介の再来にも映る柴崎楓雅

同じくTBS制作で、2000年の「QUIZ」は、大人の身勝手さに傷ついた子供があの手この手を使って大人に復讐を行うという大人と子供の対立を描くのみならず、子供が大人を操る展開も攻めていた。そこで犯人を演じたのは神木隆之介(当時7歳!)。その天才性が光った。「テセウスの船」の柴崎楓雅は当時の神木隆之介の再来のようにも映る。

2009年には、漫画原作の「アイシテル〜海容〜」(日本テレビ)が話題となった。犯人探しのドラマではなく、7歳の少年殺人事件の犯人が11歳の我が息子あったことを知った母親が息子の心を追い、そして被害者家族とも触れ合っていく物語である。殺人を犯してしまった息子の押し隠された想いには言葉も出ない。

いずれにしても、少年犯罪のドラマは、大人になった我々が思いもかけなかった、もしくは忘れていた少年期の心をあぶり出し、凝り固まった常識的ものの見方を破壊する。それらはいたまし過ぎるし、少年犯罪ものはコンプライアンスもあるのかさほど多くはない。どちらかといえば、大人にひどい目に合わされた子供への救済を描くドラマのほうが少なくないと感じる。とりわけ昨今は、「義母と娘のブルース」のようなファミリーで見ることができる心あたたまるヒューマンなドラマが求められ、そのなかで「テセウスの船」が少年犯罪にチャレンジしたことは興味深い。

みきおの共犯者は誰なのか。いったいなぜ、どういう目的で……結末を楽しみに見たい。