営業マンはこれからも必要なのだろうか。『営業はいらない』(SBクリエイティブ)を上梓した日本創生投資社長の三戸政和氏は「大量生産・大量消費のビジネスモデルを前提とした営業マンは不要になるだろう。アメリカでは営業活動を必要としない顧客戦略で成功した企業がある。その波は必ず日本にも来る」という--。
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■17年間で100万人の営業マンが消えた

日本の営業マンの数は2001年の968万人から、2018年には864万人にまで減少した。これはピーク時に比べて、約100万人の営業マンが消滅したことを意味している。

かつてフィンテックと呼ばれるITを金融の分野に持ち込んだ技術が、金融業界のあらゆる職種を侵食しつつあるように、いま営業の世界では、MA(マーケティングオートメーション)、SFA(セールスフォースオートメーション)、CRM(カスタマーリレーションシップマネジメント)に代表される「セールステック(営業自動化テック)ツール」が、日本の営業マンを如実に締め出しつつある。

だが、これから営業マンの頭数を如実に減らしていく要因は、実はそれだけではない。

現在アメリカでは、それまで多くの営業マンを必要としていたある業界において、「営業マン不要」を実現し、成功を収めつつある企業がある。そこでここでは、この企業がいかにして営業不要のビジネスモデルを成功させたかを考察したい。

■新たなビジネスモデルでGMに勝ったテスラ社

その企業とは創業からたった8年で、アメリカ自動車産業界で長らく首位に立ち続けたGMを抜き、時価総額で全米1位、全世界的には6位に躍り出た「テスラ・モーターズ」社だ。

テスラ・モーターズは、イーロン・マスク氏によって設立された、自動運転型電気自動車専門のベンチャー企業で、その時価総額は年により多少の上下はあるものの、2017年の時点ですでに日本の日産より上位にある。

テスラ社が並みいる自動車会社の中で突出しているのは、その「戦略」の独自性にある。もっと言えばテスラ社は、まったく新しい経営形態を実現した企業なのである。

テスラ社は自動車メーカーではあるが、通常の自動車メーカーとは大きな違いがある。ディーラーを通さず、自社が運営する直営の販売会社を通した直販体制を採っているのだ。

従来の自動車メーカーがディーラーと組むのは、「ディーラー自身が営業を代行してくれる」「メーカーが作った車をタイムロスなくディーラーが買い取ってくれる」というメリットがあるからだ。それによってメーカーは、営業マンを抱える必要がなく、資金の早急な回収ができるとともに、在庫を抱える必要がない。

■理由はコスト削減だけではない

消費者にとってはメーカーと消費者の間にディーラーが入るということは中間マージンを取られることを意味する。つまり、それだけ車の価格が上がるのだ。それを嫌ったテスラ社のイーロン・マスク氏は、ディーラーを通さず原則直営店のみで販売する直販システムを採用した。

これによりテスラ社の「モデル3」は500万円程度で販売されることとなり、一般的なサラリーマンにとっても車を買う際の選択肢の一つとなった。

マスク氏が自動車の低価格化を図るための徹底したコスト削減策は、実はこれだけではない。2019年3月、マスク氏は直営販売店さえも一部の店舗を除いて廃止し、インターネット販売に全面的にシフトすることを発表した。テスラ社の新車は今後、テスラ社のホームページ上でのみ買える形にするというのだ。

ここで重要なのは、テスラ社は車の販売会社でありながら「営業マンを必要としない会社になる」ということだ。なぜテスラ社にはこれが可能なのか。その答えは、これから以下で説明する「エクスペリエンス戦略」をテスラ社が採っていることにある。

■「エクスペリエンス思考」で戦略を組み立てる

この「エクスペリエンス戦略」をわかりやすく説明するには、スターバックスを世界最大のコーヒーショップチェーンにまで導いた、元CEOハワード・シュルツ氏の逸話を紹介するのが早いだろう。

シュルツ氏の考え方が旧来の喫茶店経営者と違ったのは、「スターバックスを訪れたお客さまに、どういう体験(エクスペリエンス)を提供したいか?」から逆算して、店作りを考えたという点にある。

普通、カフェをオープンしようと思ったら、「おいしいコーヒーを提供する」「それをなるべく低価格で提供する」、あるいは「雰囲気のいいおしゃれな内装にする」などといった方法論ばかりが先に立つ。しかしシュルツ氏は、「スターバックスをサードプレイス(第三の居場所)にする」というコンセプトを掲げることで、まったく新しい店作りに成功した。

より具体的には、ただ「コーヒーを提供する店」ではなく、「お客さまにとっての家や会社(や学校)とは違う、心地よく過ごしてもらう第三の居場所を体験する場」と再定義したのである。

このような戦略の定義付けができたからこそ、シュルツ氏は「どんなコーヒーを出すか?」「どんな内装にするか?」「どんな接客にするか?」といった戦術のすべてを「お客様の感動体験」を第一に据えて考えることができたのだ。

■iPodやiPhone、MacBook Airの開発にも生かされた発想

そこから逆算していけば、正しい答えはおのずと導き出される。正しい問いを立てれば、正しい答えが得られるというわけだ。その結果が、世界最大のコーヒーチェーンという、大きな成果につながった。

シュルツ氏同様「エクスペリエンス戦略」を採ることで大きな成功を収めたのが、Apple創設者の一人であるスティーブ・ジョブズ氏だ。

ジョブズ氏は、「自分はどんなものを生み出したいか?」「顧客はどんな製品を欲しがっているのか?」といった従来の製品開発の思考法の枠を超え、「どんな製品だったら顧客は“圧倒的に”感動するだろうか?」といった視点に立って、製品の開発を進めていた。そうして生み出された製品が、iPodやiPhone、MacBook Airなど、顧客に圧倒的熱狂を巻き起こした一連の製品群だった。

Appleが「エクスペリエンス戦略」を採っていることを証明するかのように、Appleの現CEOティム・クック氏は、ジョブズ氏の言葉を借りながら、次のように述べている。

「我々のテクノロジーは、素晴らしくなければならない、あるいは彼(筆者注:ジョブズ氏)の言葉を借りれば「とてつもなく素晴らしく」なければならない。なぜならば、これこそが未来をコントロールし、品質やユーザーエクスペリエンスをコントロールできる唯一の方法だからだ」(「iPhone Mania」2017年6月16日より)

■テスラ社は単純な「製品」を売る会社ではない

競争の激しい自動車業界の中で、この「エクスペリエンス戦略」を採り急成長を遂げているのが、テスラ・モーターズ社である。多くの人がそんなテスラ社を、「エネルギー効率がよく、CO2排出のない、環境にやさしい自動運転の電気自動車を提供している会社」であると思っているだろう。

ただテスラ社は、そういった単純な「製品」を売っている会社ではない。テスラ社は、創業当時から「圧倒的な顧客体験」を売っている会社なのだ。テスラ社の車が他の追随を許さない確固たるポジションを築いているのは、次の二つの機能を持っているからだ。

・永遠に進化し続けるソフトウエア
・他の追随を許さないビッグデータの蓄積

テスラ社のすべての電気自動車には、ソフトウエアが搭載されている。これは、みなさんお持ちのスマホアプリのシステムに似たものである。あなたのスマホにダウンロードされているさまざまなアプリも、数カ月に一度といった頻度でアップデートされ、どんどん使いやすくなっているだろう。テスラ社は、それと同じことを自動車でも実現しているのだ。

■商品は「圧倒的な顧客体験」

この戦略によってテスラ社の車は、旧型のモデルであっても、常に最新のシステムを使うことができるようになっている。直近のアップデートではこれまで機能として有していなかった、駐車場や私道において車から200フィート(約61メートル)以内にいる場合に、スマートフォンのアプリ操作によって、自動運転で車を呼び寄せられる機能が追加された。

この機能が作動しているところを見れば、誰もが近い将来、運転手が完全に不要になる未来がくることを確信するだろう。これは未来を垣間見ているような、そんな圧倒的な感動体験をもたらしてくれる。

もっと直近の話で言えば、2019年11月に発売された「サイバートラック」も話題となった。私の周りでも何人かが発表直後にネットで直接予約していたが、このサイバートラックはマスク氏のTwitterによると、予約注文が発売3日で20万台に到達したという。

■テスラ型企業が営業マンを消滅させる

このような最高の「エクスペリエンス」を提供できる会社が行き着く先は、「営業をする必要すらない世界」である。思えばテスラ社が属する自動車産業の世界は、保険や証券と並ぶ、「伝説の営業マン」が誕生するような業界であった。しかしそれは裏を返せば、天才的な営業マンがいなければ成り立たない世界であったとも言える。

テスラ社はこれまで顧客に与えてきた「圧倒的な感動体験」を通して、熱心なファンを生み出してきた。そしてこのファンにとってはもはや、テスラ社の車をセールスされる必要がまったくないのである。テスラ社の感動体験を経験した顧客は、押し売りなどされずとも、自らテスラ社の製品情報を取りにいく。そしてこの顧客が口コミを拡散する。だから彼らは、営業など不要という新たな地平を切り拓くことができたのだ。

2019年3月には、テスラ社が店舗閉鎖の計画を一部撤回したというニュースも流れたが、同時にテスラ社は「世界中のすべての販売は今後もオンラインで行われるということを明確にしておきたい」と発表している。マスク氏の全面オンライン販売化への意欲は、決して消えていないのである。

■最先端テック企業が「営業マンの絶滅」を加速させる

三戸政和『営業はいらない』(SBクリエイティブ)

かくしてテスラ社が、まったく営業マンを必要としない会社になるのは、そう遠くない未来だろう。そして今後は、自動車産業以外の業界においても、テスラ社のようにエクスペリエンス戦略を駆使することで、営業などすることなく業績を上げる企業が勃興していくのは目に見えている。

こういった「営業が不要な世界」を生み出す最先端テック企業の動向が、今後ますます「営業マンの絶滅」を加速させる大きな要因になるだろう。

現在、新型コロナウイルスが猛威を振るい、営業がままならない営業マンも多いと思う。しかし500万円の車がワンクリックで買われる時代に、新規顧客獲得を飛び込み営業やテレアポに頼っていてもいいものだろうか。ちなみにテレアポの成功率は1%以下。あなたの職場もイノベーションを起こすべき時ではないか。

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三戸 政和(みと・まさかず)
株式会社日本創生投資代表取締役CEO
1978年兵庫県生まれ。同志社大学卒業後、2005年ソフトバンク・インベストメント(現SBIインベストメント)入社。ベンチャーキャピタリストとして日本やシンガポール、インドのファンドを担当し、ベンチャー投資や投資先にてM&A戦略、株式公開支援などを行う。2011年兵庫県議会議員に当選し、行政改革を推進。2014年地元の加古川市長選挙に出馬するも落選。2016年日本創生投資を投資予算30億円で創設し、中小企業に対する事業再生・事業承継に関するバイアウト投資を行っている。また、事業再生支援を行う株式会社中小事業活性の代表取締役副社長を務め、コンサルティング業務も行っている。
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(株式会社日本創生投資代表取締役CEO 三戸 政和)