「とるだけ育休」の実態が民間の調査で明らかになりました(写真:ocsa/PIXTA)

政府は、子どもが生まれた男性の国家公務員に1カ月以上の育児休業の取得を促す制度を2020年度から始める方針を打ち出しました。追い風を吹かせるかのように、小泉進次郎環境大臣が3カ月間で計2週間の育休取得を表明。男性の育児休業取得がにわかに注目される中、育児休業を取ってもそのうち3割の男性がほとんど育児をしない「とるだけ育休」の実態が民間調査で明らかになりました。

育休は夫婦の幸福度の分岐点

1人以上子どもがいる約4000人の母親を対象に行った民間企業などの調査(パパ・ママの育児への向き合い方と負担感や孤立感についての調査)によると、夫が育児休業を取得したという回答が約500人。そのうち、どのくらい育児や家事に費やしたか聞いたところ、8時間を超えると答えた人が20.1%だった一方、1時間以下が17.7%、1時間超2時間以下が14.6%もいたことが明らかになりました。


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つまり、3人に1人が育休を取っても家事や育児が1日2時間以下の、育休を取ったというある意味ポーズだけの「とるだけ育休」の実態が浮き彫りになりました。

調査回答の自由記載欄には、「育休を取っても家でだらだら。結局家のことは私がやっていた」「4日しかない育休を自分の都合で日にちを勝手に決めて、その内何日かは自分が遊びに行くことに使った」など、夫への不満を訴える回答が複数あったといいます。

「今後、夫(パートナー)に育休を取得してほしいと思いますか」との質問に対して、「あまりそう思わない」「まったくそう思わない」が予想に反して47.5%と約半数が育休取得を希望しないという結果に。収入面などの不安も考えられますが、「とるだけ育休」の実態が育休取得への期待値を低くしている可能性も否定できません。

一方、男性が育休の質を高められると、育休取得以後の妻の身体的・心理的負担や孤立感が低くなっていく結果となりました。そのためには、必要なスキルを習得したり、互いの役割を話し合ったりするなど、育休に向けて事前の準備を進めることが重要になります。

そもそも「育児休業」とは、子を養育するためにする休業を言い、法律上は原則として1歳未満の子のいる男女労働者の申し出により取得することができます。1歳まで取得を希望する女性が多い中、男性の取得日数は「5日未満」が36.3%と最も多く、次いで「5日以上2週間未満」が35.1%、2週間未満が7割を超えている状況です(2018年度「雇用均等基本調査」厚生労働省)。

近年、育児休業の取得率100%を表明する企業が増えていますが、わずか数日、しかもそれがもし「とるだけ育休」であるとするなら、かけ声ばかりで女性に偏っている家事・育児の解消にはつながりません。

男性が育休を取得しない理由1位は?

男性の育休取得率が6.16%(2018年度「雇用均等基本調査」)にとどまる中、職場において取得を促す動きは大きな意義があるといえます。

連合の「男性の家事・育児参加に関する実態調査2019」によると、男性に育児休業を取得しなかった理由で最も多かった回答は、「仕事の代替要員がいない」(47.3%)、「収入が減る(所得保障が少ない)」(36.6%)、「男性が取得できる雰囲気が職場にない」(32.2%)と、職場の理解やサポートがあれば改善できる余地があることがうかがえます。

一方、たとえわずかな期間であっても仕事にブランクができることで、昇進や昇給に悪影響が出ることを懸念する声もあります。

上司・同僚が育児休業を取らせないようにすること自体がパタニティ(父性)ハラスメント(以下、「パタハラ」)に当たりますが、育休を取ったことで昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行ったり、賞与などにおいて不利益な算定を行ったりすることや不利益な配置の変更を行うこともパタハラに該当します。

連合の同調査では、育休取得後に「復帰したら嫌味を言われた」(15.3%)、「責任ある仕事を任されなくなった」(8.3%)、「昇進・昇給できなかった」(6.9%)、「低い人事評価を受けた」(4.2%)という回答もあり、パタハラ行為が見られます。

育児・介護休業法では、事業主にパタハラを防止する措置を義務付けていますが、男性の育休取得に無理解な職場がいまだに少なくありません。人手不足で残業の多い職場では、特に風当たりが強くならぬように、十分な配慮をしていく必要があるでしょう。男性の育休取得を推進するには、パタハラに対する正しい理解とともに、上司のマネジメントがカギを握ります。

2020年度以降、国家公務員の男性職員が原則1カ月以上の育休取得を促す方針については、男性職員の意向に基づき上司が取得計画を作り、あらかじめ業務の分担を見直すほか、実効性を確保するため、幹部や管理職の取り組みが人事評価に反映されます。

わずか数日であれば、業務分担を見直すまでもなく、年次有給休暇を消化する感覚で育児休業の取得を上司が促すこともそれほど難しくなかったかもしれません。それが、「とるだけ育休」の実態へとつながっていた可能性もあります。

ところが、育休期間が1カ月以上となると、会社も本人も、それなりの事前準備が必要となります。それが上司の評価にも影響が出るとなると、取得できる方向へ進むことになるでしょう。国が率先して、男性のある程度まとまった期間の育休を後押しすれば、民間企業にも同様の動きが広まるであろうことを期待していることは明らかです。

9割ちかくの男性が育休を希望している

今後、長期の男性育休は広がっていくのでしょうか。エン・ジャパンが35歳以上のミドルに実施した「男性育休」に関する調査(2019年)では、男性の86%が「もしこれから子どもが生まれるとしたら育休を取得したい」と回答。また、男性の育休義務化については53%が賛成。男性育休の妥当な期間は「1カ月〜3カ月未満」が男女全体で23%と最多、次いで「2週間〜1カ月未満」(18%)という結果でした。

男性の育休義務化については、賛否意見がありますが、少なくとも、育休を取りたい人がパタハラ等を受けることなく、希望する期間を自由に取得できる環境が整えられることは早急に実現すべき課題といえます。

わが子の人生のスタートを、育児休業という形で夫婦ともに協力し合って過ごせる期間がある程度持てることは、今後の生活を考えても貴重な経験になると考えられます。ただ、育児休業期間が終わっても、子育てはずっと続きます。継続して男性が主体的に育児・家事にコミットしていくには、日常生活において時間が必要であることは言うまでもありません。

そう考えると、単に育児休業が取れればいいということではなく(もちろんそれも大切ですが)、恒常的な残業を減らし、自分の意思でメリハリのある働き方ができることに大きな意味があると言えるでしょう。