ペイウォールから得られる収益の伸びがひと段落したニュースパブリッシャーが、あらゆる消費者を対象としたマーケティングにフォーカスしはじめている。ロイヤルティがきわめて高い読者以外の人たちに製品を売り込むためだ。

そのために行われている取り組みのひとつが、新しい人材の採用だ。たとえばコンデナスト(Condé Nast)は、パーソナルスタイリングサービスを提供するスティッチフィックス(Stitch Fix)でマーケターを務めていたディアドラ・フィンドレー氏を、新しい最高マーケティング責任者(CMO)として迎え入れた。また、マーケティング戦略の強化に乗り出しているパブリッシャーもある。自社製品のメリットを強調することで、人々をサブスクリプションの購入に誘導しようというのだ。

部署の壁を下げたワシントン・ポスト

「ペイウォールに達したり、我々が提供しているお得なオファーのことを知ったりする読者の数は、オーディエンス全体のごく一部でしかない」と、ワシントン・ポスト(The Washington Post)のCMOであるミキ・キング氏はいう。「また、ワシントン・ポストが有料のニュース製品であることはある程度知られていると思うが、ペイウォールに達することのない読者も大勢いる。そこで、押し付けがましくない形で我々の有料製品を紹介できる方法を見つけ出そうとしている」。

キング氏によれば、ワシントン・ポストはこの夏、定期購読者へのコンテンツの宣伝方法や提供方法を改善するため、12人から成るチームを編成したという。チームのメンバーは、ニュース編集室、マーケティング、オーディエンス、製品、技術など、さまざまな部門から集められた人たちで、「各部署で進められているあらゆることを、定期購読者にうまく伝えられるような形にまとめること」を目標にしているとキング氏は話す。メンバーは、元の部署に所属したままチームとして連携し、大型の特集記事をもっと多くの定期購読者に適切なタイミングで告知できるようにしている。

たとえば、ワシントン・ポストは最近、鎮痛剤のオピオイドが米国中で過剰に処方されている実態を暴いた特集記事「鎮痛剤はどこへ行った?(Where the Pain Pills Went)」を公開したが、先のチームはこの記事が公開される数日前に、この記事に関する定期購読者向けの宣伝メッセージを作成したという。

これまで、ワシントン・ポストの消費者マーケティングチームは、記事が公開されたあとにマーケティング活動を展開するしかなかったが、新しいチームが調整を行うことで、オピオイド関連の記事など2019年に話題となったいくつかの特集記事では、宣伝メッセージとなるいくつかのメールを作成できた。

キング氏によれば、ワシントン・ポストでは、ニュース編集室の担当者が、話題になりそうな記事やプロジェクトに関する情報をグループに常時伝えているという。それにより、マーケティングチームと製品チームが宣伝メッセージを作成し、適切なタイミングでプロモーションを展開することが可能になっている。

ニーズのバランスを取るガーディアン

ただし、ニュース編集室による取材活動は機密性が高いため、こうした連携には一定の限界がある。たとえば、ガーディアン(The Guardian)のケンブリッジ・アナリティカ(Cambridge Analytica)に関する特ダネ記事は、同紙の読者や有料購読者の増加に大きく貢献したが、この記事のことは編集室内でさえ秘密にされていたと、ガーディアンでメンバーシップエディターを務めるマーク・ライス=オクスリー氏はいう。そのため、チームは記事が公開されたあとに、宣伝メッセージを作成したり議論したりする必要があった。

「編集者のほぼ全員が、ケンブリッジ・アナリティカという存在さえ知らなかった」とライス=オクスリー氏は振り返る。

必要なことは、消費者収益の目標達成につながるようにメッセージを調整してほしいという新たなニーズと、さまざまな用途に使えるメッセージを作成してほしいというニーズのバランスを取ることだ。たとえば、ガーディアンでは、収益面での要望とメッセージに対する要望に大枠を設け、サブスクリプション関連については「巧みさよりもわかりやすさを優先」しようとしていると、ガーディアンでコントリビューション担当グローバルディレクターを務めるアマンダ・ミシェル氏はいう。

「このようなメッセージを、さまざまな母語の人がわかるように書く必要がある」とミシェル氏は語った。

最近見られる消費者マーケティングへのフォーカスは、多くのニュースパブリッシャーが設定している意欲的なサブスクリプション目標の達成を支援するよう考慮されている。ガーディアンは、直接寄付をしてくれる会員の数を2022年までに200万人に倍増させる計画だ。 ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)は、さまざまな製品の有料購読者を2025年までに1000万人に増やすと明言している。

「我々は自分たちの仕事についてメッセージで伝えているのだ」と、ミシェル氏は語った。

Max Willens(原文 / 訳:ガリレオ)