年を経るにしたがって人間は動きが遅くなるものだが、メディア企業もそうだ。

オーサムネスTV(AwesomenessTV)などのデジタル動画ネットワークや個人の動画クリエイターによって、YouTubeは若いオーディエンスにとってのテレビとなろうとしている。そんななか、MTVはYouTubeのオーディエンスを自らのテレビネットワークへと誘導しようとしている。彼らはリニアテレビにおける番組のクリップをYouTube上に投稿しはじめた。さらに、YouTubeスターを起用してリニア用の番組を制作しはじめたのだ。この2年間、MTVはリニアテレビ用コンテンツから派生したデジタル限定コンテンツを制作しており、さらに最近ではオリジナルのデジタル番組にソーシャルメディアのインフルエンサーたちを出演させている。

7月には、MTVは自社制作のドキュメンタリーシリーズを自分たちのYouTubeチャンネルでプレミア配信した。ライフスタイル・インフルエンサーであるタナ・モンゴーにスポットを当てた、このドキュメンタリー「ノー・フィルター:タナ・ターンズ21(No Filter: Tana Turns 21)」では、配信開始から24時間以内に13万4000人の新規サブスクライバーを獲得した。MTVはビューティ・インフルエンサーであるブレットマン・ロックをフォーカスに据えた「ノー・フィルター」の新シーズン公開、そして12月23日に配信されたモンゴーが出演するホリデー・スペシャルにおいて、ファーストシーズンの成功を再び引き起こそうとしている。

Z世代にアピールできる企業

YouTubeチャンネルのためにインフルエンサーを起用してオリジナル番組を制作し、若いオーディエンスを獲得しようとするメディア企業は、MTVが最初ではない。この戦略はまったく新しいものではなくなったが、その効果がなくなったわけではなさそうだ。MTVのデジタル・ソーシャル部門責任者であるロリー・ブラウン氏によると、短期的にはMTVはYouTubeにおけるオーディエンスを成長させており、オリジナル番組から黒字を出している。MTVはバイアコムCBS(ViacomCBS)が所有しているネットワークだ。しかし、さらに重要なことに、MTVは長期的にもオリジナル番組の複数展開を開発しているという。新しいIPを加えることで、MTVはクラシック・ロック局がただテレビと動画に移っただけの存在になることを避け、現代の10代や20代前半にアピールできるコンテンツを生み出す場所となる助けとなるかもしれない。

「(MTVは)デジタルへのプッシュが遅れたことで埋もれてしまった、ほかの多くのレガシーブランドと同じだと感じてしまうような状態だ」と、ピュブリシス・メディア(Publicis Media)のグローバル・コンテンツ・パートナーシップス責任者でありバイスプレジデントであるジェレミー・コーエン氏は言う。

これまでの歴史を見ると、MTVはリニアテレビ向けに「ザ・リアル・ワールド(The Real World)」や「ザ・ヒルズ(The Hills)」といったヒット作を生み出してきており、若いオーディエンスを獲得し、結果として広告主を獲得している。MTVはこういったかつての人気シリーズを新しく制作することに取り組んでいる。今年は「ザ・ヒルズ」をリニアテレビ用に再制作し、Facebookでは「ザ・リアル・ワールド」の新しいバージョンを出した。と同時に、YouTubeで「ワイルド・アン・アウト(Wild 'N Out)」の新バージョンを配信し、デジタルでの存在も拡大しようとしている。しかし、MTVを見て育ったわけではなく、こういったMTVの人気コンテンツを知らない若いオーディエンスたちにもアピールできるような番組も生み出す必要がある。

MTVにおけるYouTube戦略

MTVがYouTubeチャンネル用にインフルエンサーを器用したオリジナル番組を展開したことは、彼らのYouTube戦略が転換期を迎えたことを示している。バイアコム(Viacom)はYouTubeに対して著作権関連の訴訟を起こしており、それは2014年に示談で解決を見た。それ以降、MTVによるYouTubeへの取り組みは緩やかなものだった。昨年、「ワイルド・アン・アウト」といったリニア向け番組の独立チャンネルをYouTubeに作ったことでYouTube戦略には変更が見られた。この戦略は継続している。番組「リディキュラスネス(Ridiculousness)」のためのYouTube向けチャンネルは今年7月にローンチしている。しかしこういった番組ごとのチャンネルを成長させるなかで、インフルエンサーを起用したオリジナル番組を配信して、メインのYouTubeチャンネルも成長させようと投資を行っている。「新しいフェーズに来たと思う」と、ブラウン氏は言う。

インフルエンサーを多用したYouTube番組は、MTVにとって新しいフェーズを意味する一方で、この戦略自体は決して新しいものではない。「4年前の戦略を行っていると、私は思う」と、ユーニス・シン氏は言う。シン氏はディズニー(Disney)、ワーナーブラザーズ(Warner Bros.)、NBCユニバーサル(NBCUniversal)といった企業にコンサルタントとして起用された経験があり、現在、コンサルティング企業プロフェット(Prophet)のパートナーだ。

10代20代のオーディエンスがすでにフォローするインフルエンサーたちが出演する番組を制作し、それを彼らがフォローするプラットフォームで配信する。それによって若いオーディエンスたちへ自分たちの存在をアピールする。この試みは多くのパブリッシャーやデジタル動画ネットワークたちが取り組んできた。YouTubeやFacebookといったプラットフォームですら、自分たちのオリジナル制作ビジネスを開発するに当たってこの戦略を使っている。

オーディエンスを増やす能力

これは古い戦略かもしれないが、まだ有効であることをMTVは示した。11月、彼らのYouTubeチャンネルは8070万回の再生回数を獲得した。これは2018年11月の2950万回からの大幅増加だ。そしてこの1年のあいだ、チュブラーラボ(Tubular Labs)によると、MTVのYouTubeチャンネルは月平均で19万2000万人の新規登録者を獲得している。MTVのリニアテレビにおけるターゲットオーディエンス層は25歳から34歳だが、YouTubeでは18歳から24歳だと、広報担当者は述べた。

「デジタル事業を切り替え、オーディエンス数を増やす能力があることを彼らは示した。当然、広告主たちはオーディエンスがいるところにやって来る」とコーエン氏は言う。

YouTubeチャンネルのオリジナル番組から最小限の取り組みで、収益を生み出すことにMTVは成功している。YouTubeチャンネルにおいて広告を販売しているものの、「ノー・フィルター:タナ・ターンズ21」独自のスポンサー権や広告は売っていない。しかしブラウン氏によると、この番組からは利益が出ているとのことだ。「シーズン1のマネタイズはあえてしなかった。コンセプトとして有効であることを示したかった」と、彼は言う。今後のシーズンからどのように収益を生むか、まだ計画は決定されていないとのことだ。

マネタイズを伸ばす助けにも

MTVがデジタル番組の開発で成功できるということで、ネットワーク自体、そして親会社が、MTVのYouTubeチャンネルを超えて、収益を生む助けにもなり得る。デジタル番組をリニアテレビやバイアコムCBSの広告対応ストリーミングサービスであるプルートTV(PluteTV)で放映することもできる。ブラウン氏はまた、若いサブスクライバーを欲しているストリーミングサービスなどの他企業に、番組をライセンス貸し出しをする可能性についても言及した。

しかしまず、ロイヤルなオーディエンスを生み出せることを、MTVはまず証明する必要がある。独自にファンのコミュニティを形成しているインフルエンサーたちを起用する理由のひとつはここにある。「一度コミュニティを築けば、ただの番組ではなくなる。コンテンツのライセンス貸し出しができ、ほかのマネタイズ手法が生まれ、ブランド関連の機会も生まれる。ただ番組を作るのとは違う」と、ブラウン氏は言う。

Tim Peterson(原文 / 訳:塚本 紺)