高級小売のアプリ導入相次ぐ:それは戦略として適切か?
カナダの高級小売業者のエスセンス(Ssense)は、ECを充実させることでカスタマーの呼び込みにつとめている。そんな同社が、モバイルアプリをリリースするという決断を下した。モバイルアプリは、いまや少し古臭い印象すらある。2000年代後半に全盛期を迎えたモバイルアプリだが、それ以降は小売業者やブランド、顧客からの支持は減少傾向だ。だが、ネッタポルテ(Net-a-Porter)やブラウンズ(Browns)など、高級小売業者のあいだではカスタマーにパーソナライズした体験を提供できるという理由から人気が高い。
CMOのクリシュナ・ニヒル氏は「アプリ市場は飽和状態だ。だからこそリリースにあたってユーザーにとって付加価値のある新しいものを盛り込む必要がある」と語る。「モバイルデバイスで多数の商品から探し出すのは大変だ。だからこそチームは高レベルなパーソナライズと商品発見のための機能を重視した」。
エスセンスのアプリにはおすすめ商品、検索フィルター、カタログの分類機能が用意されている。さらにアプリは使いこまれるほど、ユーザーのショッピングスタイルに合わせてパーソナライズされていく。
アプリリリースの是非
ブラウンズも10月にモバイルアプリをリリースしている。同社の代表によれば、このアプリはモバイルデバイスでの販売増を目指して開発されたという。過去12カ月でブラウンズのトラフィックの70%と、売上の45%がモバイルサイトを経由したものだった。まだリリースから間もないが、中国と日本でとりわけアプリのエンゲージメントが高いという。
とはいえ中国ではモバイルコマースが飽和状態で、高級ショッピングアプリの普及は容易ではない。ソーシャルプラットフォームとして独占的な地位を占めているWeChat(微信)もコマースプラットフォームの機能を有している。さらに中国で高級品を買う層はモバイルデバイスのヘビーユーザーとなっており、Tモール(天猫)やJD.com(京東商城)といった中国のサービス提供者であふれている。
かたや、米国内のコマースではモバイルアプリの影響力はそこまで高くないというのが専門家の見立てだ。コムスコア(Comscore)はショッピングアプリ間の格差も指摘している。Amazon、ウォルマート、eBayのアプリはそれぞれ毎月1億1100万人、4200万人、3000万人が使用している。だがそれ以外のアプリの利用者数は大幅に少なくなっており、高級ファッションも扱っているアプリでは、ノードストローム(Nordstrom)が100万人程度だ。
モバイルコマース企業のアテンティブ(Attentive)のCEO、ブライアン・ロング氏は「アプリのリリースを強く推すことはしていない」と語る。「これ以上アプリをダウンロードしたがらないカスタマーが多い。ソーシャルアプリはダウンロードするが、特定の購入アプリをダウンロードしたがらないのだ。Amazonといった例外もあるが、Amazonはモバイルサイトからの売上も極めて大きい」。
サイトとSNSがいまだ有力
モバイルコマースは大きな盛り上がりを見せている。eマーケター(eMarketer)は、2021年までにEC販売の70%以上をモバイルが占めると予測している。だが同時に、その大半はモバイルサイトとソーシャルプラットフォーム(米国のインスタグラムや中国のWeChatなど)になると考えられている。
「Apple Pay、Google Pay、ベンモー(Venmo)をモバイルサイトで利用できるようにする小売業者が増えている。これらのサービスによってモバイルアプリの利点がなくなっていく」とロング氏は指摘する。
Facebookやピンタレスト(Pinterest)などのソーシャルプラットフォームもEC分野への進出を狙っている。インスタグラムのチェックアウト機能に対する反応を見る限り、こうしたサービスも専用の高級小売アプリにとって手強いライバルになりそうだ。
それでもネッタポルテはモバイルアプリによって成功を収めているのは間違いない。同社が5月に再リリースしたアップグレード版には、ユークス・ネッタポルテ(Yoox Net-a-Porter)のエディトリアルコンテンツが盛り込まれている。モバイルの売上は全体の50%超を占めているという。
アプリだからこその体験
エスセンスは便利なモバイルサイトに対抗するには、アプリになんらかの特典が必要だと考えている。
ニヒル氏は「とりあえずアプリがほしいからリリースしたわけではない」と語る。「パーソナライズされた体験を提供するために、アプリが欠かせないからリリースしたのだ」。
DANNY PARISI(原文 / 訳:SI Japan)
