さまざまな分野で多様性の推進が注目を集めているが、広告業界が多様性を実現するまでの道のりはまだまだ長そうだ。

米国のクライアントやエージェンシー幹部の多くは、人種について率直に語ることを嫌がり、声を上げる人たちに罰を与えてきた。そのためエージェンシー従業員たちは発言を控えるようになっている。そう語るのは、あるホールディングカンパニーのクリエイティブエージェンシーで、エージェンシープロデューサーを務める黒人女性だ。匿名を条件に本音を語ってもらう米DIGIDAYの告白シリーズ。今回はこのプロデューサーが、人種差別について意見してみて、声を上げないほうがいいと学んだ、という彼女自身の経験を話してくれた。

読みやすさを考慮し、会話の内容には編集を加えてある。

──このところの広告業界では、我々が目にする広告だけでなく、広告制作を担当する人たちにも多様性を持たせようという動きが広がっている。クライアントの反応や、キャスティングへの影響は?

やりづらい場合もある。いま私が担当しているクライアントは、広告にアフリカ系アメリカ人、アジア人、白人、ラテン系の人たちを出したいと希望している。しかし(キャスティングの段になると)「あの人はラテン系に見えない」などと言い出すので、こちらとしては「ラテン系っぽい見た目って?」という感じになってしまう。自分はこういう人種です、というアイデンティティを持っている人に対して、その人種には見えないなどとは言えない。だから、ではどんな人物を求めているのかと訊ねると、クライアントは黙ってしまう。ステレオタイプをほのめかそうとすると、その時点で、何を言っても人種差別主義者だと思われることがわかっているからだ。(大手消費財メーカーのクライアントに)「黒人黒人していない黒人が欲しい」と言われた、という話を聞いたこともある。

──エージェンシーは、そうした潜在的な問題の抑制に、どう取り組めばいいだろうか?

クライアントには、コミュニケーションを教えるクラスや、異文化を尊重する感受性を養うワークショップが必要だ。ビジネスの目標を語る際に、配慮に欠ける発言をせずに、きちんと話をするやり方をわかっていない人たちがいる。彼らは、人を不快にさせる発言をしておいて、後で「そんなつもりはなかった」というが、侮辱的なものは侮辱的なのだ。この問題は、社会全体にひろがっている。実際問題、エージェンシーで働く人には異文化への配慮を学ぶコースの受講を義務付けたら、とても役立つと思う。一般向けに公開するコンテンツを制作する環境で仕事をしているのだから、なおさらだ。相互のコミュニケーションだけでなく、広告の制作にも活かせるだろう。

──そう考えるようになったきっかけは? 勤めているエージェンシーで何かあった?

あるとき、クライアントと写真撮影の準備を進めていた。その最中にクライアントが、黒人女性モデル2人の見分けがつかないと言ってきたのだが、どう見ても似ていない。いかにも白人が言いそうなことだと感じたので、不愉快だったと社内チームに話したのだが、まともに聞いてもらえず、適当に茶化されてしまった。でも、笑いごとではないし、あってはならないことだ。不適切な行為をしておいて、あとで謝罪したいというのは、広告・メディア業界全体に広がる良くない風潮だ。この件についてクライアントに話をしたら、クライアントは人種差別主義者呼ばわりされたと怒ってしまった。私はただ、彼らに知識として知っておいてもらいたかっただけなのだが。

──人種に関する問題をクライアントに提起するのは難しそうだ

本当に難しい。そしてもうひとつの問題は、誰も共感してくれないし、チームのメンバーは気にも留めていないと感じたことだ。彼らは冗談にしたけれど、私にしてみれば、問題は余計にひどくなった。一般的に、白人は人種について話すことを嫌がる傾向があると思う。一部の白人にとって、気まずい問題なのだ。先ほどの話に出たクライアントも不快に感じていた。しかも、エージェンシーは味方になってくれなかった。私がクライアントに話をしたあと、エージェンシーは警告書を出して、私が職務を越権したと言ってきたのだ。

──そのことがあってから、あまり声を上げなくなった?

どんなふうに声を上げるか、いつ声を上げるか、気をつけるようになったのは間違いない。人種に関することで声を上げたい場合は、白人というフィルターを通す必要がある。直接言うと、攻撃的だと思われたり、黒人だからと思われたりするが、白人の同僚に「ミーティングでこの問題を取り上げるべきだと思う」と伝えれば、受け止められ方が変わってくる。私は黒人女性なのに、黒人女性を援護できない。白人女性を通して言わなければならないのだ。本当におかしいと思う。

──仕事もやりにくくなりそうだが

それはある。もし明日クライアントとのミーティングがあって、相手が黒人について無神経な発言をしたとしても、何か発言する気にはなれないだろう。何も言えないまま、ほかの人たちに、なんとかしてほしいと頼むしかない。会話のなかで私が積極的に発言したら、誰かが何か思うのではないか、とどうしても考えてしまう。しかし、こうした状況は広告業界に限らないはずだ。職場でそういうふうに感じている黒人は多いと思う。

──そのときの出来事以外に、声を上げるとひんしゅくを買うと感じたことはある?

こんなふうに感じたのは、あの時がはじめてだ。ほかのクライアントは異文化に対する感受性がもっと高かった。

──H&Mやドルチェ&ガッバーナ(Dolce & Gabbana)が炎上したこともあり、企業はフィードバックを歓迎し、エージェンシーも配慮を奨励しているのかと思ったが。

H&MやD&Gなど、いろいろと人種差別問題での炎上事件があったので、クリエイティブチームには、自分たちも意識を高め、配慮に欠けるものを作らないようにしなければならないと伝えてある。だから、配慮の足らない、あるいは間違った受け止め方をされる可能性がある表現を目にした場合は指摘してきた。

我々のクリエイティブチームのなかにもひとり、こんなのは侮辱的な表現ではないだろうなどと、ときどき言ってくる人がいるが、私は「白人男性であるあなたに何がわかるのか。このコミュニティに属していないのであれば、これが不快でないなどとは言えない」と返すことにしている。あなたはその問題についてコメントする立場にありませんよ、と説明しなくてはならないのだ。社内のチームとはそんなふうにやってきたが、(これまで仕事をした人のなかには)恐れから口をつぐみ「この広告が世に出て、クライアントが叩かれたとしたら、それはクライアントが悪い」と考えている人たちもいた。

──企業の人種差別が問題になるたび、なぜこんなことが起こるのかと不思議に思う人は多いが、いまの話がまさにその理由なのではないか?

私もかつては不思議に思っていた。人種差別的な広告を見るたびに「自分のチームだったら絶対にこんなことはさせないのに」と感じ、取り下げてほしいとすぐに声を上げていた。けれども、自分でもあんな出来事を経験して、なぜああした広告が世に出てしまうのかわかったような気がしている。意見を言いにくい環境が作られているので、仕事を失ってまで声を上げるべきだろうか? と思案に暮れてしまうのだ。

Kristina Monllos (原文 / 訳:ガリレオ)