【田中圭太郎】「教育より収入」山梨学院大学、学長の「経営私物化」あきれた実態 高級車にビジネスクラス…

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集団左遷、雇い止め、そして……

山梨学院大学が、上層部によるモラルの崩壊に揺れている。労働基準監督署から指導と是正勧告を受けたにもかかわらず、違法な定年切り下げを改めないことをはじめ、非常勤講師の雇い止めや、一部の運動部に所属する学生に不正に単位を与えた問題などを前回伝えた(『山梨学院大学で異常事態…「非常勤講師切り捨て」とモラルの崩壊』)。

取材を進めてみると、山梨学院大学で起きていることはこれだけではなかった。2018年4月に父親の跡を継ぐ形で着任した理事長兼学長が、大学に関連する複数の事業を、妻が経営する会社に発注していることがわかった。

さらには気に入らない職員を「集団左遷」し、20人を超える非常勤講師を雇い止めするなど、理事長兼学長による大学の私物化が急速に進んでいるという情報が、筆者に次々と寄せられている。

この異常事態に、8月末には労働組合の「山梨学院ユニオン」が結成された。現場の教職員も、理事長兼学長の暴走に対して声を上げはじめたのだ。教育・研究機関とは思えない問題が噴出している山梨学院大学の現状を、再び取材した。

まるでベンチャー経営者

「理事長兼学長は、完全にベンチャー経営者にでもなった気分で大学をもてあそんでいます。不透明な財政支出も少なくありません。税金を原資とした公的資金が投入されている学校法人を、自らの個人経営の商店であるかのように勘違いしているのではないでしょうか」

この発言は、山梨学院大学に長年勤務している教授が、憤りながら打ち明けたものだ。大学をはじめ、付属の幼稚園、小・中学校、高校、短大に至るまで、学校法人山梨学院で働く多くの教職員が、古屋光司理事長兼学長による経営方針に大きな疑念を抱いている。

古屋理事長兼学長は2018年4月、父親である古谷忠彦前学長の跡を継ぎ、39歳の若さで理事長兼学長に就任した。大学の学長としては、全国最年少とみられる。

就任してまもなく、労働基準法で定められた手続きを取らずに、非常勤講師の定年引き下げなどを盛り込んだ就業規則を作成。山梨学院は2019年1月に甲府労働基準監督署から指導と是正勧告を受けた。ちなみに、古屋理事長兼学長は、弁護士の資格を持っている。

指導と是正勧告を受けて今年3月に手続きをやり直したものの、就業規則の内容に変更はなく、その手続きも、労働者の過半数代表者が書いた意見を2度書き直させるなど、適法とはいえない手法だった。

この就業規則の強行導入が関係しているのか、2019年3月には多くの非常勤講師が雇い止めされている。山梨学院は人数を明らかにしなかったが、関係者によると、65歳以下の講師も含めて、少なくとも20人以上が不当に雇い止めされたとみられる。多くの非常勤講師が、生活の糧を失ってしまったのだ。

ところが、苦しめられていたのは非常勤講師だけではなかった。山梨学院は専任教員や職員の待遇にも手をつけていたのだ。2019年4月には何の説明もないまま、専任教員や職員の期末手当を年間5・1ヵ月分から、評価によって3・0ヵ月〜4・6ヶ月分に変更。平均的なB評価の場合は3・8ヶ月分の支給なので、大半の教職員が大幅ダウンを強いられることになる。しかも、客観的な評価基準自体が存在していない。

減給はそれだけではなかった。山梨学院は大学から幼稚園まで各部門別に収支を見て、赤字の部門は期末手当を年間2・0ヵ月にすると、教職員約500人に対して一方的に通告したという。

山梨学院で黒字の部門は、高校と短大しかない。幼稚園は、無関係の工事費用を被せられて赤字になる見通しだという。同学院に勤務する大半の教職員が、2020年度は期末手当を年間2・0ヵ月に下げられる可能性があり、「これでは生活できなくなる」と不安の声が上がっている。

「質の高い教育より収入」

古屋理事長兼学長は教職員の待遇を改悪する一方で、就任以来、自分に近い人物を要職に登用してきた。2018年度には腹心と言われる30代の准教授を、2019年度には准教授でもある実の妹を副学長に据えた。

さらに、民間企業からの転職者を2019年度から各事務部門の管理職として任用している。この転職者のことを、古屋理事長兼学長は「7人の侍」と呼んでいるという。

現在の幹部の意に沿わない教職員は短大に集団で左遷され、退職に追い込まれたベテラン職員もいると、ある職員は証言する。これは人事権を濫用したパワハラではないだろうか。

こうした乱暴な人事施策の背景には、古屋理事長兼学長が掲げる新たな経営方針がある。2019年4月1日に教職員を集めたキックオフセレモニーで、次のような資料が示された。


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この資料では、質の高い教育サービスの提供は給料が上がることにはつながらず、収入が増えることだけが給料が上がる要因になると主張。その上で「収入や給料は、マーケット環境に影響される」と書かれている。

質の高い教育よりも利益を追求し、利益が出ない部門の教職員の給料を下げることは、学校法人として正しい姿と言えるのだろうか。

山梨学院の教員には、前学長の教育理念に共鳴して、他大学や他校から移ってきた人も少なくないという。それだけに、古屋理事長兼学長のこの説明に、激しい憤りを感じている教員は多い。ある教員は、当時の思いをこう語る。

「理事長の話を聞いた時、涙が出るほど悔しい思いをしました。私たちは教育の質を上げていくことを考えて、研究にも打ち込んできました。収入増を考える人だけが認められるという話はごもっともかもしれませんが、私たち教育者に言うセリフではありません。発言を撤回してほしいといまでも思っています」

学長の妻が経営する会社

山梨学院がいま経営難の状態にあり、人件費削減をしなければ存続できないというのであれば、まだ教職員も納得するだろう。しかし、山梨学院の資産総額から負債総額を引いた正味財産は、2018年度末には400億円あるなど、経営は順調だ。教育研究機関であるという社会的任務をないがしろにして、利益だけを求める方針に、教職員は反発しているのだ。

さらに、多くの教職員が疑念を持っている問題がある。それは、古屋理事長兼学長の妻が経営する会社に、法人から様々な事業が発注されていることだ。妻が経営する会社の名前はVALEM。甲府市内に住所がある。

判明している発注がいくつかある。まずは、2018年に変更された大学のロゴマーク。山梨学院から妻の会社に、ロゴのデザインなど関連事業に関する発注が行われていた。2016年11月には、ロゴデザインを受注したことを、妻が自らのインスタグラムで明らかにしている(現在は削除)。

次に、大学広報のウェブマガジン「BLUE STAR WEB」も山梨学院からVALEMに発注されている。以前は広報誌「BLUE STAR MAGAZINE」の形態で山梨学院が発行していたものだ。

もっと不可解なものもある。先述のキックオフセレモニーの時に、民間から転職してきた「7人の侍」を紹介する動画が会場に映し出された。この動画を、VALEMに発注しているのだ。それぞれの発注金額は明らかになっていない。

VALEMへの発注以外にも、巨費を投じて本部事務室を改修する、公用車に高級車を導入する、理事長や役員の海外出張時の飛行機はビジネスクラスを使用するなど、教育とは直接関係がない支出も目立つという。古屋理事長兼学長がやっていることは、学校法人の私物化と言われてもしようがないのではないか。

山梨学院大学の複数の教授からは、古屋理事長兼学長が独裁体制を作ることを隠さない発言をした、という情報も寄せられた。例えば、中国の習近平国家主席や、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長を「私の理想」と述べ、「理事会での協議や教授会での議論は必要ない」「もっと独裁的に進めていきたい」などと物事を独断で決めていく考えを示したという。

他にも、「文句があるならやめてもらって構わない」といった趣旨の発言もあったようだ。古屋理事長兼学長は、2018年秋から2019年春にかけて、複数の場でこうした発言をしたとみられている。

知と教育を司る学校法人のトップが独裁体制を目指し、同時に私物化を図ることが、適切なのかどうかは言うまでもないだろう。そのしわ寄せとして、多くの教職員が犠牲になっているのだ。

団体交渉には姿を見せず

理事長兼学長による横暴に、教職員も黙っていられなくなった。2019年8月31日には、甲府市内で「山梨学院ユニオン」の発足会が開かれた。山梨学院にできた初めての労働組合だ。多くの教職員が参加し、教授や職員の管理職クラスからも賛同の声が寄せられているという。

甲府市内で8月31日に開催された山梨学院ユニオンの発足式

ユニオンでは、待遇の不利益変更の撤回や、労働基準監督署の指導や勧告に従うこと、経営実態を明確にすることなどを山梨学院に求めて、団体交渉を申し入れた。

申し入れを受けて9月5日には、初めての団体交渉が開かれた。しかし、古屋理事長兼学長は「外遊中」として不在。出席した山梨学院側は、団体交渉の出席者としては職責が重いとは言えない職員ばかりで、明確な回答が一切できなかった。

団体交渉の場でユニオン側は、古屋理事長兼学長の報酬の開示と、VALEMに対する発注の実態を明らかにすることも求めた。すると、山梨学院側はVALEMへの発注を否定せず、親族企業への発注状況はリストがあると説明した。そのリストを開示するようユニオンが求めると、検討すると答えたという。

その回答書は、9月12日にユニオンに届いた。しかし、理事の基本給は明らかにされていない。

〈私立学校法の改正により、学校法人における役員報酬については、その支給基準を定めて公表することが求められます。本法人においても、法改正に対応するべく必要な準備を行なっております。(中略)

一方、個々の理事の基本給に関しては、個々の理事のプライバシーにかかる問題でもあり、一般的に公表する性質の情報ではないと考えております〉(山梨学院からユニオンへの回答書より)

さらに、9月20日にも山梨学院から回答があった。その内容は、家族や親族の運営する会社への支払いは「存在の有無も含め開示できない」というものだった。

〈役員報酬等の開示に関連して提供を求められました情報について確認を行いました。結果、役員等が使用できる公用車が用意されていること、役員等への住居の提供は行われていないことをご連絡いたします。

また、役員等の家族・親族の運営する会社への支払いに関しては、先方会社の承諾なしに契約内容等を開示することはできないことから、その存在の有無も含め、貴組合に開示することができません。当法人においては、会計監査人の監査も受けた上、適切な財務処理を行っております〉

このまま見過ごしていいのか

筆者も山梨学院に対し、法人からVALEMへの発注について質問した。山梨学院は次のように回答している。

「親族への発注禁止の学内規定はなく、物品の調達・発注にあたっては、会計規程や調達規程といった学内規程に基づき執行しております。なお、個別の発注先・発注額については、公表いたしません」

山梨学院大学のワンマン経営による混乱は、個人経営の私立大学ではどこでも起こりうることかもしれない。しかし、同大学には2018年度、3億6000万円あまりの私学助成金が投入されている。

大学の本務というべき教育と研究をないがしろにし、労働基準監督署の指導と勧告も無視するなど、学校法人としての矩を超えた経営を、監督官庁はこのまま見過ごすのだろうか。大学経営が、そして日本の大学教育が、ルール無用の「なんでもあり」になってしまわないためにも、山梨学院の今後の動向を注視する必要がある。