「最新の「チェキ」は、インスタントカメラとプリンターの“いいとこ取り”へと進化した:製品レヴュー」の写真・リンク付きの記事はこちら

否定派の論に反して、カメラ用フィルムはなかなか絶滅しようとしない。コダックは、同社のフィルムで最も人気の高かった製品のひとつである「EKTACHROME」を復活させたし、富士フイルムも好評だった黒白フィルムの復刻版「ネオパン100 ACROSII」を販売すると発表した。

しかし、「現像された写真」に飢えているのはプロや芸術家たちだけではない。インスタントカメラやプリンターもまた、次から次へと誕生しているのだ。

そこで富士フイルムは、「instax mini LiPlay(リプレイ)」でこの競争に打って出た。歴代の「instax<チェキ>」シリーズと同様に、クレジットカード大のインスタントフィルムが使えるポケットサイズのインスタントカメラだ。

レンズはガラス製で、ミニプリンターは単体でも機能する。アプリを使えば、スマートフォンで撮影した写真もプリントできるのだ。QRコードで写真に音声を埋め込める機能が訴求されているが、これはそこまですごいとは言えないだろう。この点については後述する。

ハイブリッドゆえのお得さ

LiPlayはハイブリッドインスタントカメラだ。大半のinstax(チェキ)とは違い、撮影した写真を液晶モニターで確認し、フィルムに“プリント”するかどうかを決められる。誰かが目を閉じてしまった写真をプリントして、フィルムを無駄にすることはもうない。この点だけでも、撮ったらすぐにプリントされる「“チェキ”instax mini 90」といったモデルに比べて、長期的にかなりお得になる。

とはいえ、液晶モニターの機能で最も気に入ったのは、写真を確認できることより、プリント中に表示されるアニメーションだ。カメラ本体から写真が出てくるのとほぼ同じ速さで、モニターに映された画像が印刷口の方向にスクロールされて消えていく。まるでデジタルから現実世界に移行するように感じられて楽しい。

LiPlayでプリントした写真の画質は驚くほど鮮明で、実際にinstax mini 90でプリントした画質よりも優れていたように感じた。ただし、LiPlayでは、ほかのinstaxに搭載されている追加機能のうち、欠けているものがいくつかある。例えば、二重露光モードや接写モードはない。

幸いにも、露出補正を設定する方法はある。instaxの写真は、黒つぶれやハイライト部分の白飛びが起きやすい。このため撮影シーンに応じて、露出補正を使って暗い部分を明るくしたり、明るい部分を暗くしたりと調整することになる。

LiPlayのボディは丸みを帯びていて手になじみやすく、ポケットにちょうど収まる大きさだ。カラーは、エレガントブラックとストーンホワイト、ブラッシュゴールドの3種類ある。

デザインはすっきりとしてシンプルだ。側面には電源ボタンがあり、その横にはフレームやフィルターを選ぶ際に使うショートカットボタンが3つ並んでいる。写真に重ねてプリントできるフレームは、ハートから鹿の角まで数十種類だ。

PHOTOGRAPH BY FUJIFILM

音も記録できる(が、面倒だ)

instax mini LiPlayは録音もできる。そう聞くとクールに思えるかもしれない。ハリー・ポッターに出てくるような魔法の写真が思い浮かぶ。しかし残念ながら、オーディオを活用するには、スマートフォンのアプリをダウンロードしたり、QRコードをスキャンしたりしなければならない。

写真を撮影するとともに、最大10秒間の音声を録音し、QRコード付きの写真をプリントアウトする。その写真をもらった人は、QRコードを自分のスマートフォンで読み込めばメッセージが聞けるという仕組みだ。機能には問題ないが、写真に音声をつける方法としては面倒といえる。

LiPlayのアプリは、QRコードの音声を追加できるだけではない。LiPlay自体のコントロールも可能だ。3つのショートカットボタンにフレームやフィルターを割り当てたり、「リモート機能」を使って離れたところからシャッターを切ったりできる。カメラのモニターに写っている被写体をアプリ上で見ることも可能だ。

新しいアプリは飛躍的に進化している。ぎこちなさがつきまとう既存のアプリとは大違いだ。かなり見やすいデザインで、反応もいい。実際に使ってみてフリーズしたことは一度もない。ただし残念ながら、このアプリはLiPlay専用だ。

プリンターとしても優秀

LiPlayはミニプリンターにもなる。スマートフォンで撮影した写真をカメラ本体に直接送信して、インスタントフィルムにプリントできるのだ。instaxを長く使っている人なら、富士フイルムがLiPlay用に新しくアプリを開発したと知ってうれしくなるだろう。富士フイルムも、やる気になれば優れたアプリを開発できる証拠だ。

スマートフォンの写真をプリントできるこの機能は、「ダイレクトプリント機能」と呼ばれている。ただし、できるのはプリントだけだ。instax用プリンターのアプリでは写真を明るくしたり、切り抜いたり、コントラストを調整したりできる。これに対してLiPlayアプリのダイレクトプリント機能は、スマートフォンで撮影した写真をそのままプリントすることしかできない。あれこれ調整したければ、別のアプリで編集する必要がある。

とはいえ、最近では優れものの写真編集アプリがいくらでも手に入る。写真の編集機能が搭載されていないことは、大した問題ではない。

残念だったのは、プリント前のプレヴュー画面で画像を回転させられない点だ。指でタッチすれば回転させられるが、正確な調整は難しい。

とはいえ、カメラとプリンターのハイブリッドタイプであるため、購入時に迷っている人にとっては選択が楽になる。instaxのカメラ本体を買うべきか、専用プリンターを買ってスマートフォンと組み合わせるべきか悩まなくていい。LiPlayを買えばいいのだ。

あえてプリンターを別に欲しくなる理由があるとすれば、それは正方形でサイズが大きめのinstax SQUARE用フィルム(“チェキスクエア”用フィルム)でプリントしたいときだろう。それを除けば、LiPlayを買うほうが理にかなっている。カメラとプリンターの両方が小さくひとつにまとまったこのコンパクトさは、富士フイルムの歴代のinstaxには見当たらない。

PHOTOGRAPH BY SCOTT GILBERTSON

小さな魔法はいまも健在

LiPlayは、デジタルカメラとしてはごく普通だ。それなりに画質のいい写真を撮れるし、ポケットに入れて持ち運べる。それに、カメラとプリンターを別々に買うよりも安く済む。

ただし、(これはインスタントカメラ全般に言えることだが)大事なのはカメラの機能でも画質でもない。実際に触れられる現像された写真を、すぐに手に入れられるという“魔法”なのだ。

LiPlayは、デジタルカメラの画素数にこだわるスペック絶対主義者のためのカメラではない。それ自身が工芸品のような写真がほしい人向けだ。

子どもをもつ人にとってはなおさらだろう。撮ったばかりの写真が、目の前であっという間に現像されるのを見るのは特別な瞬間になる。子どもの目は釘付けになる。普通の写真ではまねできないことだ。

子どものころは、撮影した写真がプリントされ、徐々に浮かび上がってくるのを待つのが楽しみで仕方なかったものだ。いまは、目を見開いてその瞬間を見つめる自分の子どもを眺めるのが心から楽しい。

昔と比べると、カメラは変わったし、フィルムもちょっと違う。けれども、その体験は時代を超えても変わっていない。いまでも、まさに魔法のようだ。

◎「WIRED」な点

カメラとしても写真プリンターとしても機能する。プリント前に液晶画面に画像のプレヴューが表示される。ポケットサイズで、instaxのなかで最も持ち運びしやすい。ガラスレンズのおかげで、はっきりした写真を撮影できる。

△「TIRED」な点

instaxの画質は決して最上級とは言えない。マニュアル露出設定が設定できないのも弱点だ。ファインダーがなく、液晶画面の画質もよくないので、明るい太陽の下での撮影は難しい。