ぐるなびサイト内では「楽天スーパーポイント」を活用したネット予約・来店キャンペーンを積極アピールしている(記者撮影)

「まずはトップラインを回復させることが最重要。両社(ぐるなびと楽天)の強みをどう成長に結びつけるかを考え、しっかりやっていかなければならない」。ぐるなびの社長に就任した杉原章郎氏は会見で意気込みを語った。

サービス開始から23年。飲食店検索・予約サイトで国内大手のぐるなびが転機を迎えている。同社の2019年3月期の業績は売上高327億円(前期比9.7%減)、営業利益12億円(同74.4%減)と、2期連続の減収減益に沈んだ。営業利益はピーク時(2017年3月期、67億円)の5分の1以下までしぼんでいる。

背景には消費者の飲食店探しのトレンド変化がある。かつては食べログ、ぐるなびといった飲食店専門サイトを使うのが一般的だったが、近年ではインスタグラムをはじめとするSNSを入り口にするなど検索手段が多様化。そんな中、同社の主力事業である飲食店向けの販促支援(ぐるなびサイトへの情報掲載や送客)では、受注の減額や解約が相次ぎ、反転への活路を見いだせていない。

楽天創業メンバーが社長就任

ここに手を差し伸べたのが楽天だ。楽天は昨年7月、ぐるなび創業者で筆頭株主だった滝久雄・ぐるなび会長が保有する同社株の一部を取得。経営やサービスでの協力関係を深め、10月には両社間のユーザーIDの連携も開始した。さらに今年5月末には楽天が滝会長からぐるなび株を追加取得したことで、出資比率は14.99%となり、筆頭株主に躍り出た。

そして今回、新たに社長に就任したのが、楽天の創業メンバーで同社の前常務執行役員である杉原氏だ。ECモール「楽天市場」をはじめ、さまざまな事業の立ち上げ・統括の経験を持つ。楽天は杉原氏の社長就任と同時に、2人の社外取締役も派遣、総力でぐるなび再建を図る。

むろん、楽天側にもぐるなびと協業を深めるメリットはある。ぐるなびと付き合いのある飲食店は全国15万店に上る。これらをベースに、楽天の独自ポイントプログラム「楽天スーパーポイント」が貯まる・使える場を拡大することができそうだ。

これまで手薄だった飲食店予約・来店に関するデータをうまく取り込めれば、楽天が育成している広告事業などに生かせる可能性もある。競争が激化するスマートフォン決済サービスにおいても、ぐるなびの営業網を活用すれば飲食店への「楽天ペイ」の導入提案を加速できるかもしれない。

モバイルシフトで立ち後れ

ぐるなびの目下の課題は、先に触れた販促支援の受注減だ。「集客することに必要な環境変化の把握だったり、モバイルシフトだったりが、一歩立ち後れたのがいちばんの問題」。杉原社長はぐるなび業績低迷の理由についてそう分析する。


杉原章郎新社長は楽天の創業メンバー。「楽天市場」などさまざまな事業の立ち上げに携わった(記者撮影)

そこでまず再建策として掲げるのが、ぐるなびを通じたネット予約数の拡大だ。宿泊予約などに比べ電話の比率が高い飲食店予約だが、直近ではネット予約のニーズが高まっている。

サイト運営側にとっても、送客数に応じ受け取る手数料で新しい収益源を確保できるメリットは大きい。競合の食べログやホットペッパーグルメ(運営:リクルートライフスタイル)でも、予約時のポイント付与や対象店舗の拡充をフックに、ユーザーを着々とネット予約に誘導している。

ぐるなびも2018年10月から、ネットでの予約時に楽天ポイントを付与する施策を展開。現在、約1億人に上る楽天ユーザーに訴求している。施策の認知が高まるにつれ、予約数は拡大。10月に前年同月比20%増、今年1月に同29%増、3月に同33%増と、効果も高まっているようだ。

楽天が筆頭株主になった後の6月からはポイント付与率を2倍、3倍にするキャンペーンも開始。「数年後にはネット予約ナンバーワンのプラットフォームとして確固たる地位を改めて、再び成長軌道に乗せていく」(杉原氏)。

ぐるなび再建におけるもう1つの焦点になるのが、全国21拠点に散らばる1000人の飲食店営業スタッフだ。ぐるなびはサービス開始以来、この基盤を武器に個々の飲食店に最適化した販促商品提案や業務サポートを行っており、この点を他社にない強みとしてアピールしてきた。

一方で、人件費負担が大きいのも事実。とくに業績悪化をたどったここ2年ほどは、機関投資家や業界アナリストから「体制の見直しをするべきでは?」という声も上がる。

だが、この営業体制について杉原社長は「サポートの体制はぐるなびが創業以来培ってきた重要な資源」と強調。店内業務のデジタル化サポートやコンサルなど、販促商品提案以外の面でスタッフのレベル底上げを図る必要があることを指摘しつつも、「願わくば、1000人よりさらに増やしたいくらい」(杉原氏)という。

「今の状況は楽天の10年前に重なる」

ぐるなびは今期、上場来初の営業赤字に沈む業績予想を発表している。ストック型の売上高が大半を占める販促支援においては、前年度の減額・解約の影響が大きく出てしまい、すぐに反転を目指すのは難しい。


加えて、ネット予約の宣伝・キャンペーン費用、業務効率を上げるためのシステム費用などは、要不要を精査しながらも高水準に推移するとみられる。

「楽天での日々にはたくさんの成功、いい経験があるが、同時にたくさんの失敗、苦々しい経験もある。ぐるなびの今の状況は、(失敗や苦々しい経験のあった)楽天の10年前にも重なるところがある。そういう点でも楽天の知見を生かし、いろいろな面からぐるなびの再成長を後押しできれば」(杉原氏)。これからが腕の見せどころだ。