「モテないキャラ」と言われていた南海キャンディーズの山里亮太さんが、女優の蒼井優さんとなぜ結婚できたのか?(写真:時事通信フォト)

6月5日、山里亮太さんと蒼井優さんの結婚が発表されたとき、日本中が祝福ムードに包まれました。何かと暗いニュースが続いていた中で、人気者2人の結婚は、誰もが待ちに待っていた明るいニュースだったと思います。

この結婚は多くの人に祝福されたのと同時に、多くの人を驚かせました。交際期間はわずか2カ月で、そのような噂もまったくなかったからです。

また、実力派女優の蒼井さんと「不細工キャラ」で知られる山里さんというのがあまりにも意外な組み合わせだったため、「美女と野獣」などと言う人もいました。そのような意見に対して「いや、山里さんは決して不細工ではない。そういう言い方は失礼だ」と反論する人もいます。

個人的には、山里さんが本当に不細工であるかどうかにはあまり興味がありません。山里さんの容姿ばかりに話題が集中するということ自体が、彼が「不細工キャラ」であることが世間に浸透していることの証しです。彼を「不細工だ」と言う人も「そうではない」と言う人も、山里さんが自ら選んだ「不細工キャラ」という土俵に乗っているという点で、それほど違いはありません。

「不細工キャラ」以外の持ち味

山里さんはテレビに出るとき、これでもかというくらいへりくだった態度を取っています。自分が仕切り役でも決して偉そうにせず、自虐ネタを連発してつねに自分を下に置いています。「不細工キャラ」もその一環です。わざと自分を下げていること自体が、彼が芸能界で生き延びるための基本戦略なのです。

私は過去に山里さんがMCを務めていた『ヒットの秘密!』(テレビ東京系)という番組で、コメントを求められてVTR出演したことがあります。お笑い評論家という立場から「山里亮太のヒットの秘密」について語ってほしい、という依頼でした。このとき、私は山里さんについてこう言いました。

「山里亮太は『努力の天才』である」

「努力の天才」というのは矛盾した表現だと感じられる人もいるかもしれません。一般には、努力なしで何でもできてしまう人のことを「天才」と呼ぶことが多いからです。

でも、私はそれを承知であえてこの言葉を使いました。それが山里さんという特異な芸人を表すのに最もふさわしい言葉だと思ったからです。

山里さんの芸人人生にはつねに「天才」という言葉がつきまとっています。彼が2005年に出版した自伝本のタイトルは『天才になりたい』(朝日新書)です。この本は、加筆修正のうえ、2018年に『天才はあきらめた』(朝日文庫)というタイトルで文庫化されました。天才に憧れ、天才を目指しながらも、天才を諦めてしまった。そんな彼の半生が赤裸々に描かれています。

一方、テレビ業界やお笑い業界では、山里さんの実力は広く知れ渡っています。多くの芸人や業界人が彼のことを「天才」と呼んでいます。周囲にどれだけ「天才」とおだてられても、本人はどこまでも謙虚な態度でそれを否定し続けています。山里さんは天才なのか、天才ではないのか。「努力の天才」という第三の選択肢を用意することで、この問題は解決できます。

努力とは、ただがむしゃらに何かをやり続けることではありません。その努力を成果につなげるためには正しい戦略が必要です。道順が間違っていれば、どんなに必死に走っても目的地にはたどり着きません。正しく努力するためには正しく戦略を立てることが欠かせないのです。

「南海キャンディーズ」結成の理由

実は、努力家として知られる山里さんの本当にすごいところは、この戦略を立てる能力なのです。自伝本などを読んでみるとわかることですが、山里さんの心には幼い頃から「自分は大した人間ではない」というコンプレックスが染み付いています。普通にやっているだけでは他人に勝つことができない。そこで、きちんと作戦を立てて、それに沿って努力を重ねる、というやり方を編み出したのです。

山里さんはこの方針で受験勉強にも真剣に打ち込み、一浪の末に関西大学に合格しました。その後、お笑いの世界でも同じように本気で戦略を練って、人一倍の努力を重ねることに決めたのです。

南海キャンディーズを結成するとき、しずちゃんを相方に選んだのも、それが売れるための最短ルートだと思ったからです。


南海キャンディーズのしずちゃん(写真:時事通信フォト)

当時の若手お笑い界では今よりもさらに男女コンビが少なかったため、男女コンビというだけで目立つという計算がありました。

また、しずちゃんは前のコンビのときからその大柄な見た目とマイペースなキャラクターで異彩を放っていました。

下ネタをボソッと言って笑いが取れる稀有なタイプの女性芸人だったのです。

転機となった「ツッコミへの転向」

山里さんは前のコンビではボケを担当していたのですが、しずちゃんの強烈な個性を生かすため、自分は引き立て役のツッコミに回ることにしました。これが山里さんの芸人人生の転機になりました。

南海キャンディーズの漫才では、しずちゃんの放つボケで笑いが起こった後、山里さんの「感想ツッコミ」でさらにもう一度笑いが起こります。普通の漫才ではボケとツッコミが一体となって笑いを起こすものです。二種類の笑いが波状攻撃で襲いかかってくるこのシステムは画期的でした。

そして、これは山里さん自身にも手応えがありました。もともと自分に自信のない山里さんは、自ら前に出てボケたりツッコんだりすることがそれほど得意ではありませんでした。

でも、誰かが何かを言った後に、そこに言葉を付け足したり、反応したりすることで笑いを生むことは得意だったのです。その後、テレビに出てからも、山里さんは受け身に徹するスタイルで笑いを起こしていきました。

一歩引いている山里さんの姿勢は謙虚にも見えますが、実は矢面に立たずに生き延びるための戦略でもあったのです。テレビでMCを務めるときにも、山里さんは他人の話をよく聞いていて、その内容を踏まえて瞬時に言葉を返していきます。それは番組を仕切るMC向きの資質でもあったのです。

山里さんはどちらかと言うと計算高い人間です。でも、世間であまりそういうふうに思われていないのは、彼が計算高さを感じさせないほど圧倒的な努力もしているからでしょう。スタッフや共演者にもそういうところが信頼されているのだと思います。

蒼井さんとの結婚に関して、世間ではとにかく意外な組み合わせに驚いたという反応が多かったように思います。私自身も、まさか蒼井さんが相手だとは想像もしていなかったので、その意味で驚いたのは事実です。


結婚を発表したお笑いコンビ・南海キャンディーズの山里亮太さん(左)と女優の蒼井優さん(写真:時事通信フォト)

しかし、山里さんが一流の女優と結婚すること自体には、それほど意外性はありませんでした。山里さんぐらいの野心を持ったタレントならば、そのぐらいのことは当然やってくれるだろう、と思っていたからです。

山ちゃんが「教えてくれたこと」

「不細工キャラ」を隠れみのにしているので気づきにくいのですが、実は山里さんほど欲深い人はそうそういないと思います。「僕なんかちっとも天才じゃないんですよ」と言いながら、多くの人から「天才」と呼ばれ、数多くのレギュラー番組を抱えて、大物女優との結婚まで果たしてしまいました。

こうなるとさすがに、今までやってきた「モテないキャラ」「妬みキャラ」は続けられなくなるのではないかと思うのですが、山里さん本人は結婚会見で「これからもチャラチャラしたやつらに怒りを持たないかと言ったら、怒りを持つと思います」としれっと宣言していました。

大物女優の夫というポジションに収まっておきながら、妬みキャラも続けるつもりだというのですから、本当に欲深い人なのです。

どこまでいっても決して満足しない「努力の天才」の華々しい活躍ぶりを見ていると、人生において「正しい戦略」と「正しい努力」がいかに重要であるか、ということがわかるのではないでしょうか。