THE NOVEMBERSの小林祐介、2019年3月20日に名古屋CLUB QUATTROで撮影(Photo by 郡元菜摘)

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3年振り7作目のニューアルバム『ANGELS』を発表したTHE NOVEMBERSの4人、小林祐介(Gt、Vo)、ケンゴマツモト(Gt)、高松浩史(Ba)、吉木諒祐(Dr)にインタビュー。

THE NOVEMBERSの新作『ANGELS』が素晴らしい。ベストアルバム『Before Today』のリリース以降、初めてのフルアルバムということもあり、もともと期待値は高かったが、その予想を軽々と上回る、圧巻の仕上がりである。彼ららしいニューウェイブ、ゴス、インダストリアルの要素はもちろんそのままに、ここには近年のジャズやヒップホップにも通じる知的興奮があり、時代と向き合った作品と捉えることも可能だとは思う。しかし、スーサイド「Ghost Rider」のカバーが象徴するように、この作品はあくまで彼らの純粋なパンク精神/アート精神の発露なのだと言うべきだろう。そして、そういった作品こそが時代を捉え、塗り替える可能性を持つことを、僕たちはよく知っているはずだ。

―アルバム、素晴らしい仕上がりだと思います。まずはシンプルに、どんな青写真から制作がスタートしたのかをお伺いしたいです。

小林:青写真をあらかじめ持っていたわけではなく、6枚目の『Hallelujah』からの2年半の間に、DVD、ベスト、EP、ライブ盤、BORISとのスプリットを出しているので、とにかく常に何かを作り続けて、ライブをやり続けてきたので、その全てからのフィードバックが『ANGELS』に反映されている実感があります。リリースに至った経緯に関しては、チーム全体で、「そろそろアルバム作った方がいいんじゃない?」って話になったからで、締め切りを決めて、そこからおぼろげながら描いていたビジョンにみんなで向かって行った感じです。

―ベスト盤のリリースもあったわけで、バンドのあり方や自分自身の音楽との関わり方を改めて見つめ直すような2年半にもなったのかなと。

小林:僕は自分が今まで作ってきたものに対して、「いいものを作ってきたな」って改めて思えたんです。その上で、新しく芽生えた感情もあって、それは浅井健一さんやDIR EN GREYのDieさん、CHARAさん、LArc〜en〜Cielのyukihiroさん、いろんな人と仕事をする中で、結局「じゃあ、自分は何をするんだ?」っていうこと。僕は曲を作るし、フロントマンだから、同じ立場の人がたくさんの人を熱狂させているのを間近で見ると、やっぱり「じゃあ、自分は何をするんだ?」っていうところに立ち返るんですよね。

―なるほど。

小林:なので、今回は好きな音楽をできた順に並べて、「自分が楽しい」っていうこと以上に、「自分は世の中とこう関わっています」とか「自分はこんなものを作ってる人です」っていう視点は強かったかもしれない。実家で一人こそこそ作って、「いいものできた」みたいな満足度とは別のところでも、「いいものを作った」っていう実感がありますね。






上からケンゴマツモト、高松浩史、吉木諒祐(Photo by 郡元菜摘)

―小林くん以外のみなさんは、この2年半の間にどんなことを考えましたか?

吉木:もちろんずっと地続きではあるんですけど、昔はちょっと奇をてらって、「ああしてやろう、こうしてやろう」みたいなのがあった気がする。でも、もうそういうのはなくなったかなって。「何でもいい」ってわけじゃないけど、その都度、瞬間瞬間に自分がTHE NOVEMBERSに対してかっこよく関われたら、それでいいのかなって、そういう気持ちですね。

ケンゴ:僕も2人が言ったことと被るんですけど、止まってたわけじゃないし、メンバーの中から自然発生的に生まれたムードで新しいものが生まれたり、今までのものがよりブラッシュアップされたりして、作品やライブに反映されて、その先で今回のアルバムができたっていうのは、すごく自然なことかなって。「この4人でやる甲斐があるな」って、年々強く思うようになってきたので、今回の作品に対しても、「そうだよな、かっこいいよな」って思ってます。

高松:僕もそこまで何かを考えたってわけじゃないですけど、これまでずっと考えてきたことが着実に実を結んでる感じがあって、『Hallelujah』から『ANGELS』までの間は、純粋に楽しんでここまで来た感じがあります。いろんなタイミングがあったとは思うんですけど、小林くんが出してくる曲に対して、メンバーそれぞれのリアクションがあって、それが単純に面白かったり、そういうのの繰り返しでここまで来たなって。

―活動はずっと地続きで、その中でこれまでも変化を繰り返してきた。ただ、今回の『ANGELS』での飛躍は非常に大きいと感じていて、当然『Hallelujah』とも『TODAY』とも違う。この音楽的な進化にはどんな背景があるのでしょうか?

小林:もともと僕は飽き性で、「完成させる」っていうこと自体があんまり好きじゃないんです。さっき言った通り、今回も「締め切りを決めて作った」っていうのが正直なところで、日々スケッチとか断片を作り続けるのが好きなんですよね。日記みたいなものというか。ただ、ベスト盤やライブ盤をリリースした中で、「自分たちの持ってるこの部分ってホントにいいな」っていうのが改めて見えたので、自分の作りたいと思った曲とバンドがもともと持ってる良さが自然と結びついて、こういう音楽性に着地したのかなって。

―「改めて見えた自分たちの良さ」っていうのは、具体的に言語化できるものですか?

小林:メンバー各々がセンスを発揮してる部分を改めて垣間見たっていう感じですね。例えば、高松くんが他のベーシストと違うのは、メロディーセンスがあって、ベースっていう楽器に縛られてないところ。なので、今回はもともと彼が持ってるメロディーセンスを起点に曲を作ってみようっていう視点が生まれたり。「こいつのいいところを見つけよう」みたいな、精神論的な話ではなく、「方法論が増えた」みたいなことですね。ケンゴくんのサウンドメイクを起点にしてみたり、吉木くんが人前で思いっ切り叩いてる姿を思い浮かべると、「これで一曲書けるな」って思ったり。

―非常にバンドらしい発想ですよね。

小林:昔は良くも悪くももっと精神論的なところに縛られてた気がします。「遊んでるうちに曲ができた」とかよりも、何となく頭にパッと浮かんだ啓示みたいなものを捕まえるっていう、そういうスピリチュアルな方が偉いと思ってたんです。でも、今回は変なバイアスからは解き放たれて、今目の前にいる人、目の前で起こってることとちゃんと向き合うと、自ずと作るものが変わっていきました。「何かを待つ」っていう時間は減りましたね。メンバーそのものや、メンバーの最初のアクションがヒントになることが多かった。それが今までと違うところです。


小林祐介(Photo by 郡元菜摘)

―ただ、「メンバーの良さを生かす」っていう発想だと、プリミティブな作品というか、単純に「THE NOVEMBERSらしい作品」に帰着してしまう可能性もあったと思うんです。でも、『ANGELS』は決してそうではないですよね。プログラミングの割合も増えているし、これまで以上のスケール感があって、バンドの良さを生かしつつも、まったく新しいところにリーチしたような感触があるというか。

小林:「メンバーの良さを生かす」っていう視点に縛られ過ぎないっていうのも前提としてありました。そこに縛られ過ぎると、今目の前に見えている理想を実現できないジレンマに陥る可能性もある。そこに関しては、やっぱり両方なんですよね。メンバーの良さを生かすんだけど、「これどうやったらバンドで演奏できるのかわかんないけど、閃いちゃった」っていうのもやりたい。で、「このメンバーならきっとそれを曲にできる」っていう信頼感もある。ないものねだりをするわけじゃないけど、理想は絶対失わない。二つの視点が常にせめぎ合ってましたね。

―では、ここからはメンバーぞれぞれのインスピレーション源になったアーティストの名前を挙げていただきつつ、より具体的にアルバムの中身について聞いていければと思います。まずは高松さん、いかがでしょうか?

高松:ジャパンと初期のLArc〜en〜Cielはちょっと前からずっと聴いてたので、今回反映されてるかなって。音楽理論的に「ここがこう」っていうよりは、あの雰囲気、曲調、音像とか、感覚的なものですね。

―確かに、今回のアルバムではミック・カーンみたいなベースも出てきますね。

高松:お、ミック・カーンは結構ワードとして出てました。

小林:ミック・カーンのフレーズって、モーダルかコーダルかっていうとモーダルで、いろいろ話を聞いてみると、ミック・カーンはコードわからないらしくて。ボーカルのメロディーに対して、自分は曲を彩るんだっていう、感覚的な発想みたいなんです。高松くんも感覚的な人で、メロディーセンスがいいので、高松くんのフレーズを基に作ったのが「plastic」。「あのフレーズを一生聴いてられればいい」くらいの(笑)。

―高松さんはミック・カーンのどこがお好きですか?

高松:まずルックスが好きです。

小林:そう、正しい!

―(笑)。「plastic」のフレーズに関しては、どのように生まれたものなのでしょうか?

高松:「ミック・カーンってどういう特徴があるんだろう?」って思ったんですけど、考えて組み立てるより、夜に酔っ払ってペロペロって弾いてみたら、それがすごくよかったんです。それをそのままiPhoneで録って、送りつけました。

小林:メロディーって、コードやスケールを指定すればするほどつまらなくなってしまうんですよ。ミック・カーンについてスタジオの中で雑談してたときに、言い得てるなって思ったのが、「たまたまメロディーがあるリズム楽器」なんですよね。フレットレスベースだから、ドレミの区分も曖昧なので、たまたま持ってるメロディーで十分。ミック・カーンはドレミじゃなくて、リズムで遊んでるじゃん?

高松:休符が多いとかね。

小林:ジャパンって、シンセもいるから、ベースが存在しなくても、きちんとコードが存在していて、ミック・カーンは「ついでにメロディーで関わってる」くらいの感じなんだけど、でもそれが重要なんですよ。「plastic」は前半のメロディーを高松くんが作ってたり、ベースのフレーズは一緒なんですけど、転調してたり、いろいろチャレンジもしてるので、そういうのも面白かったですね。

―ケンゴさんは、どんなのを聴いてましたか?

ケンゴ:僕はそんなに深く掘る感じではないんですけど、KOHHは好きですね。あと話題になってたから、マリリン・マンソンの『メカニカル・アニマルズ』を高校生ぶりに聴きました(笑)。

―ケンゴさんはRolling Stone Japanの「2018年の年間ベスト」でもキッズ・シー・ゴースツやXXXテンタシオンを挙げられていましたし、最近はヒップホップをよく聴いているわけですか?

ケンゴ:目新しいことをやってるのはそういう人たちですよね。あとホントの不良が好きなんですけど、ホントの不良は最近ヒップホップばっかりなんで、そういう人たちを見るのは楽しいなって。

―トラップ以降のビート感もアルバムの一要素になっていますが、そこのインスピレーション源にもなっている?

小林:トラップってあんまり目新しく感じてなくて、僕にとっては普通にインダストリアルなんです。インダストリアルの楽器を、ラップの人たちがきちんと使い始めただけ。それをトレンドとして語るのは、僕からすると周回遅れくらいに古い。だから、「このサウンドが新しい」って言われても、「うーん」って思うけど、「このハイハット、もともと俺が好きなやつだ」っていう感じなので、「トラップ」っていう認識ではないんですよね。

―「インダストリアル」っていう意味では、マリリン・マンソンとも繋がってますね(笑)。

ケンゴ:KOHHとかも、カート・コバーンみたいな恰好をして、マリリン・マンソンみたいなギターリフの中で、ロックスターしてるみたいな感じが好みなんです。

―ギターの音作りに関してはいかがですか? 小林くんからも「サウンドメイクを起点にした」という話がありましたし、実際今回の作品はエンジニアの岩田純也さんとの共同作業もより密になって、音像も非常に広がりのあるものになった印象です。

ケンゴ:今回はもともと祐介が作ってきたネタを、いかにギターに置き換えるかっていうのが多かったですね。シンセとかノイジーなテクスチャーをいかにギターで表現するかっていう、そういう仕事が多かったです。

小林:すごく感心したのが「ANGELS」で、あの曲のケンゴくんは6分間ずっと即興で、ファーストテイクをほぼほぼ使ってるんです。まあ、破れかぶれではあったんですけど(笑)。「今ちゃんとコードを知った」くらいで、とりあえず雰囲気でってやったのがあのテイク。ほとんどさじを投げたような感じですけど、でもだからこそサウンドメイクもプレイも純粋なものが出て、それがすごくよかったんですよね。

ケンゴ:2テイク目はクソでしたけどね(笑)。

小林:慣れてきちゃったからね。もともとスペースメン3みたいなドローンをずっと入れようと思ってたんですけど、その欲が一瞬で断ち切れました。あり方として、ケンゴくんの方がよっぽどノイズだわって。まあ、もう再現はできないんですけど。

―吉木さんはどうでしょうか?

吉木:さっき「地続き」って言っちゃったんですけど、去年わりとターニングポイントがあったのを思い出しました。僕メッツが大好きで、去年のツアー全部ついていったんですよ。ライブを観て撃ち抜かれたというか、俺はこういうことに興奮して、こういうことがやりたいんだよなって、クリアになったというか、再認識したんです。

で、その後にソニックマニアでナイン・インチ・ネイルズを観て、ドラマーとして、「こういうあり方もあるんだ」って思って。イラン・ルービンがトレント(・レズナー)が作ったものをあれだけシンプルにぶっ叩いて、それが人を高揚させることに感銘を受けたんですよね。その後にアルバムの制作が始まったので、俺もこういう関わり方でいいんだって思えたというか。

小林:ナイン・インチ・ネイルズのライブで、小手先のドラマーがチチチってやってたら興ざめだもんね。

吉木:そうそう、俺に求められてるのもそういう小手先の部分じゃないっていうのは頭では分かってたんだけど、去年改めて「そういうことじゃねえな」ってはっきりしました。

―「TOKYO」で途中から入ってくるリズムには一発でやられましたね。その一方では、打ち込みの細かなビートも鳴っていて、その対比も面白い。

小林:コントラストは大事だなって思いましたね。

吉木:細かいことを入れないからこそ、リズムが見えやすくなるっていうのは、メッツを観てても思いました。

―では、小林くんはいかがでしょうか?

小林:誤解されがちなんですけど、マジに答えると、エンヤなんです。ここ2〜3年くらいずっと聴いてるんですよ。「エンヤのビート想像してみて?」って言われても、「え?」ってなるじゃないですか?

―パッと思いつくのは、歌メロの印象だけですね。

小林:実際は歌にピチカートがちょっと入ってるくらいなんです。ついついよくある雛形に沿って曲を作っちゃうけど、エンヤを聴いて、「ピチカートと声だけでこんな表現できちゃうんだ」っていうのは発見で。あれって何十本も声を重ねてるんですけど、それぞれの再生レベルはものすごく小さいんです。それがフィル・スペクターじゃないけど、ウォール・オブ・サウンドになる。そういう発想で「TOKYO」や「BAD DREAM」を作ったし、大体の曲がエンヤから何かしらヒントを得てると言えると思います。

―レイヤー的な曲の作り方というか。

小林:そうですね。筆って何千本もの毛によってできてるわけじゃないですか?それでひとつの像を描くと、自由な発想が生まれやすいんです。タンジェリン・ドリームとかも聴いてましたね。

―エンヤとかタンジェリン・ドリームっていうと、「ニューエイジ」ですよね。

小林:その言葉ひさしぶりに聴きましたけど、確かにそうですね。

―今回のアルバムを聴くと、ライブがどうなるのかが気になります。再現する方向なのか、ライブはライブと考えるのか、それによってもかなり違ってきそうですが。

小林:どっちの要素もあると思います。今はまだ悪戦苦闘してるんですけど、「これライブでやったらいいぞ」っていう手応えはあるので、これまでのレコ発ツアーとは次元の違う、バンドとしてすごくいいものを見せられる感じはしてますね。

―楽しみにしています。最後に、『ANGELS』というタイトルの由来を教えてください。

小林:天使って、映画とか漫画の中でいろんな描かれ方をするじゃないですか?自分たちを癒してくれる、穏やかで、都合のいい天使もいれば、救済者だったり、子供だったりもする。比喩として、全曲が天使をモチーフにしているので、タイトルになっています。全体としては、いかに自分たちが愚かで、その愚かさすら捨て去ることができない、どうしようもない世の中ではあるんだけど、その中でも理想や夢を語らすにはいられない悲しさ、みたいなことがテーマになってます。ただ、それを悲観的に描くんじゃなくて、現実を見ながらも、理想は失わない。それがこの作品に通底する考え方なんです。




Photo by 郡元菜摘

〈リリース情報〉


『ANGELS』
THE NOVEMBERS
発売中

〈ライブ情報〉

ANGELS ONE MAN TOUR 2019
2019年3月20日(水)名古屋CLUB QUATTRO
2019年3月22日(金)梅田CLUB QUATTRO
2019年3月24日(日)岡山IMAGE
2019年3月26日(火)福岡The Voodoo Lounge
2019年3月31日(日)札幌SPiCE
2019年4月6日(土)マイナビBLITZ赤坂

La.mama 37th anniversary『PLAY VOL.74』
2019年5月8日(水)渋谷La.mama

TOMOE 2019(w/ tacica、People In The Box)
2019年5月25日(土)仙台CLUB JUNK BOX
2019年5月31日(金)福岡BEAT STATION
2019年6月2日(日)梅田CLUB QUATTRO
2019年6月9日(日)名古屋BOTTOM LINE
2019年6月14日(金)東京マイナビBLITZ赤坂

詳細:https://the-novembers.com/