「最大7球団」の報道に驚いていると、2日前には「最大9球団」と報じる記事まであった。本日17時から始まるドラフト会議での根尾昂(大阪桐蔭)の1位指名の可能性の話だ。

 大学、社会人に絶対的な即戦力候補が乏しいこともあるだろうが、本番が近づくにつれ”根尾人気”が日増しに高まっている。


大阪桐蔭の主軸として春夏連覇に貢献した根尾昂

 現時点でのプレーヤーとしての能力なら、同じ高校の藤原恭大(大阪桐蔭)や小園海斗(報徳学園)と大差はないだろう。しかし、目に見えるもの以外でのところに根尾人気の秘密がある。傑出した意識の高さ、思考力、継続力、理解力、向上心……。

 福井国体終了後、希望する球団の担当スカウトや編成担当者が根尾と面談を行なったのだが、わずか10分という限られた時間のなかでも、只者ではない雰囲気を感じとったはずだ。この男なら間違いない──この面談が決め手となった球団もあったのではないか。

「高校生といっても、まだまだ子どもですので、毎日の決め事でもできる子、できない子とわかれます。根尾みたいに雨が降ろうが、ケガをしようが、できる子はなかなかいません。この先、プロの世界に進み、どういう環境に身を置いてもブレることは絶対にないと思います。やるべきことをやる。野球で成功するかしないかはわかりませんが、根尾自身がブレることはない。でも、そこまで思わせることがすごいことで、高校生としての意識の高さ、野球や日常生活への取り組み、すべてにおいてずば抜けています」

 大阪桐蔭の西谷浩一監督はそう根尾を評する。そして何よりも絶賛するのが、根尾の内面である。

「意識的なところでいえば、今のプロ選手に交じってもかなり上位に入るのでは……と僕の勝手な想像ですけど、そんな風に思うところはあります。技術的にはまだまだ足りませんが、取り組み方、考え方でいえば、本当に高校生レベルではないものを持っています」

 大阪桐蔭入学前から”飛騨のスーパー中学生”と大きな注目を集め、そこから約2年半、周囲の期待と根尾の成長は必ずしも合致していたわけではない。過去に大阪桐蔭では、”二刀流”というなら中田翔(日本ハム)がいたし、”剛腕”というなら辻内崇伸(元巨人)や藤浪晋太郎(阪神)もいた。また、打者として見ても、中田や中村剛也(西武)のスケール、森友哉、浅村栄斗(ともに西武)の技術など、すごい打者はいくらでもいた。

「『森(友哉)と比べてどうですか』と聞かれても、正直、そこは比べたらあかんでしょうという気持ちになります。森は高校生のレベルをはるかに超えていましたから。もちろん、根尾もいい選手ですし、この夏の甲子園でのバッティングをあらためてビデオで見ると、やっぱりすごいなと思いましたけど、みんなが思う根尾にまでは達していない……そういう表現が的確かもしれないですね」

 しかし、成長の余地を残すバッティングだけでなく、根尾にはショートというポジション、意識の高さ、メンタルの強さもある。ストイックなまでに取り組む姿勢には、憧れのイチローの姿も思い起こせるが、根尾の意識の高さは己だけでなく周囲にも波及する。西谷監督が言う。

「練習が終わり、寮でご飯を食べたあと何をしているのかといえば、ずっとストレッチをしています。その姿を毎日見ていたら、周りの選手たちも『自分もやらなきゃ』とやり始めます。藤原はストレッチじゃなく、ひとりで黙々と素振りをしたりするんですけど、下級生たちは『根尾さんでもこんなにするんだ』となる。僕は選手たちに『寮で練習しろ』と言ったことはないんですけど、そういう空気が勝手にできている。根尾効果は大きいです」

 言葉でグイグイと引っ張るタイプではないが、行動で見て、しかもそこに説得力があるから周りの選手も巻き込まれていく。チームでは副キャプテンを務めていたが、そこにはこんな背景もあった。

 昨年のセンバツあとから、春夏連覇へ向かうチームのなかで当時2年生の根尾と中川卓也が3年生のキャプテン、副キャプテンに混じり、ミーティングやノートの回覧に加わるようになった。夏までのチーム力アップや、翌年のチームづくりを考えてのことだったが、夏の甲子園で仙台育英に敗れると、西谷監督は選手たちと面談した。

 その時、根尾に意思を確認したという。本人がキャプテンをしたいと思っているのかどうかを聞きたかったからだ。すると根尾は「キャプテンは中川で、自分は副キャプテンをやらせてほしい。中川ができないことを動き回ってやります」と言ったという。

 あくまでチームのことを第一に考える。ふたりの力がより発揮され、チームとして機能するための並びを考え、そう希望を伝えたのだ。西谷監督が振り返る。

「根尾がキャプテンでも悪くなかったと思いますが、目配り、フットワークの軽さで言うなら、たしかに根尾が副キャプテンとして動き回る方がよかったと思います。本当に目が行き届きますし、自分から動きますから。たとえば、バスを降りて根尾が一番に走っていけば、ほかの選手もつられて走りますし、率先して準備をすれば、ほかの選手もする。常にそういうことができる選手です」

「1位指名の可能性7球団」の報道を見た時、真っ先に頭に浮かんだのは昨年の清宮幸太郎(早稲田実業→日本ハム)ではなく、1995年のドラフトで7球団から1位指名を受けた当時PL学園の福留孝介(阪神)だった。

 根尾と同じく右投げ左打ちのスラッガーで、ポジションも同じショート。体に巻きつくようなスイングから火の出るような当たりを連発。あの打球は今も強烈に頭のなかに残っている。個人的には、これまで見た高校生打者ではナンバーワンと思っている。

 現時点であのレベルにはまだまだ達していないが、福留にないものを持ち、今の時代のなかでこれだけの評価を得るのが根尾である。

 チームを成長させる、チームを変えるために最もシンプルな方法は、いい手本を入れることだ。レギュラーショートの後釜がほしい、打てる内野手がほしいという球団が根尾を獲りにくるのはもちろん、たとえ育ち盛りの内野手がいても「獲りたくなる選手」「獲っておくべき選手」が根尾ではないだろうか。各球団にとって、これからの10年、15年、柱となる人材を得るチャンスが根尾の獲得である。

 果たして、根尾は何球団から指名を受け、どこのチームが交渉権を得るのか。運命のドラフトがまもなく始まる。