日本代表の次期監督候補に浮上している、元ドイツ代表監督のクリンスマン氏【写真:Getty Images】

写真拡大 (全2枚)

【USAトゥデー記者・特別寄稿|前編】日本代表監督候補に浮上と報じられ、アメリカ関係者は失笑した

 日本サッカー協会の田嶋幸三会長は5日、日本代表をロシア・ワールドカップ(W杯)ベスト16に導いた西野朗監督の退任を発表した。

 後任候補として報じられているのが、2011年から16年までアメリカ代表を率いたユルゲン・クリンスマン元監督だ。現役時代は西ドイツ代表のストライカーとして活躍し、1990年イタリアW杯優勝を経験。「クリンシー」の愛称で親しまれ、母国以外にイタリア、イングランド、フランスのクラブを渡り歩き、98年に現役を引退した。

 2004年にドイツ代表監督に就任し、指導者の道を歩み始めたクリンスマン氏について、アメリカ代表監督時代に番記者を務めた「USAトゥデー」紙のマーティン・ロジャース氏が特別寄稿。5年間の在任期間で、選手選考における平等性と国際競争力の向上を訴えて人気を博しながら、最終的に求心力低下によって解任されたことを振り返り、「日本の大事にしている“和”を乱す人間」と厳しい評価を下している。

   ◇    ◇    ◇

 ユルゲン・クリンスマンが次期日本代表監督候補に浮上したという報道が数日前に浮上した際、アメリカサッカー界のほとんどの関係者が失笑した。日本代表ほどのチームが、1990年W杯を優勝した元西ドイツ代表ストライカーの受け入れを考慮していることに対して、非常に落胆していた。

 クリンスマンは5年間、アメリカ代表を指揮し、2014年のブラジルW杯ではチームを決勝トーナメントに導いた(ベスト16敗退)。地元開催の06年ドイツW杯では、母国を率いて3位。だが16年、ロシアW杯北中米カリブ海予選の真っ只中に解任された時には、そうした実績の信憑性はアメリカではなくなっていた。

 11年にアメリカ代表監督に鳴り物入りで就任した際、クリンスマンはアメリカサッカー連盟にとっては救世主のように見えた。だが、蓋を開けてみれば、救世主どころかチームを退化させてしまった。アメリカがロシアW杯に出場できなかったのも、問題の根源はクリンスマンにある。

 オセアニアに次いで楽と言われている北中米カリブ海予選を突破できなかった事実が、全てを物語っている。ちなみに最終予選3位で本大会に出場したパナマは、グループGで3戦全敗、得失点差は「-9」。ロシアW杯に出場した32カ国で最も弱いチームと世界的に評されている。

不可解な戦術論、「上から目線」の口調、選手批判…

 アメリカ代表監督に就任した当初、クリンスマンはワールドクラスの舞台でも対等に戦えると連盟を口説き、自信を与えた。選手選考に関しても、平等であらゆる選手にチャンスを与えた。アメリカのレジェンド、FWランドン・ドノバンを14年ブラジルW杯の最終メンバー23人から外し議論を呼んだが、その選手選考に関するポリシーは一貫していた。

 その一方で、クリンスマンの求心力が揺らぎ始めたのが、まさにその14年W杯への道のりだった。それまで選手たちはあまり愚痴も言わず、監督に従っていた。チーム内の話もメディアや外部にリークするようなことはなかった。だが、徐々に事態は変わり始めた。

 不可解な戦術論、「上から目線」の口調、メディアの前で公然と行う選手批判……。選手や代表チームに不信感や不満を募らせるような言動が目立った。日本が大事にしている「和」を、まさに乱す人間だった。

 日本代表を率いた前任者、バヒド・ハリルホジッチがJリーグを常に欧州リーグと比較したように、クリンスマンもMLSの足りないところばかりを指摘し、アメリカサッカー界の人々を日に日に突き放したのだった。(文中敬称略)

(後編へ続く)

[著者プロフィール]
マーティン・ロジャース/英国出身。英紙「デイリー・ミラー」、米メディア「Yahoo」を経て、現在は米紙「USAトゥデー」でサッカー専門の名物コラムニスト。W杯予選などクリンスマン政権のアメリカ代表戦をほぼ全試合取材した。(マーティン・ロジャース/Martin Rogers)