「経団連会長」を断った男、引き受けた男
かつて経団連会長候補として有力視されていた前会長の川村隆氏が東京電力ホールディングス会長に転じたことで、経団連と東電のトップを日立出身者が占めることを疑問視する声が一部にあったことは事実。
だが、国内外でリーダーシップを発揮できる人材が経済界に見当たらなかったことが日立待望論へつながっていった。経団連会長をめぐり中西氏から相談を受けた川村氏はこう答えたという。「自分でお決めなさい」。
対照的な二人
「川村ー中西」コンビで日立を立て直してきたが、二人はとても対照的だ。川村さんと比較することで「中西宏明」という人物像が浮かびあがる。
まず川村さんは過去の大きな流れから「今」を語る。中西さんは未来から逆算して「今」を語る。だから社内外で中西さんの意図をよく理解できない人たちも少なからずいる。川村さんは意外とロマンチストで個人より社会に興味がある。中西さんはリアリストで人に興味がある。
これは性格だけでなく世代の違いもあるように思う。川村さんは戦中生まれ(39年)、中西さんは戦後(46年)。両者とも日本に対する思いは強いが、川村さんの方がより「国家」を意識している。
中西さんは若い時からグローバル経済を体感し、今でも米ゼネラル・エレクトリック(GE)のジェフ・イメルト前最高経営責任者(CEO)や同IBMのジニ・ロメッティCEOなど世界企業の経営者と深いつながりを持つ。
一方で、中西さんには異端の血が流れている。入社は制御機器を生産する大みか工場(現大みか事業所)。本人は「伝統ある日立工場(現日立事業所)などからあぶれた人が集められていた」と振り返るが、エスタブリッシュメント(既存秩序)への反骨精神が彼の原動力だ。川村さんは日立工場長も務めた保守本流。東電会長を引き受けたのも、電力産業の“落穂ひろい”という意味もあったのだろう。
中西さんが最近、最も刺激を受けた経営者がニトリホールディングスの似鳥昭雄会長だ。守りに入りやすい大企業のサラリーマン社長の姿勢が嫌いなのだ。付いてくるなら付いてくればいいー。経団連に対する心の声が聞こえてくる。
同じ総合電機として競い合ってきた東芝は不正会計に端を発し苦境に陥っている。日立と東芝の対比はいろいろあるが、企業文化の根幹的な違いは「権力者」、「権威」に対する向き合い方だと感じる。
東芝の経営トップは先日亡くなった西室さん(泰三元社長)以降、特に財界活動への意欲が増した。それは自然と社内でも権力者に対する接し方に出たのではないか。会長や社長への忖度や物言えぬ雰囲気があった。中西さんは「うちも最近はそんな風潮がある」と危機感を持つ。インフラ事業を手がけていると、どうしても政権とも近くならざるをえない。
日立はあえて財界トップを目指さないできたが、まだまだとてつもない「形式主義」が残っている。経団連会長の就任によって日立がどう変質していくのかにも注視しなければいけない。
(文=明豊)
