写真=iStock.com/SIphotography

写真拡大

2017年12月、米カリフォルニア州の公衆衛生局が「脳を電磁波から守るために、スマホを体から遠ざけよ」とのガイドラインを発表し、全米で騒ぎになっている。携帯電話の電磁波による健康被害は、現時点では科学的に立証されていない。だが米国では著名人が相次いで脳腫瘍で亡くなったことから、不安が高まっている。どう対応すべきなのか――。

■電磁波の影響を減らす5つのアドバイス

多くの現代人にとって、スマートフォン(スマホ)は今や生活に欠かせない道具。服のポケットなどに入れていつも持ち歩く人、なかには添い寝する人までいます。一方で、スマホを含む携帯電話が発生する電磁波が、健康に害を与えるのではないかという懸念もささやかれ続けてきました。

2017年12月、米カリフォルニア州公衆衛生局(CDPH)は、「携帯電話からの電磁波の影響を減らす方法(How to Reduce Exposure to Radiofrequency Energy from Cell Phones)」と題したガイドラインを発表しました。同ガイドラインは、主に5つのアドバイスをしています。

1つ目は、「体からスマホや携帯電話を遠ざけておくこと」。数フィート(数十センチ)遠ざけておくだけでも大きな違いあるとして、4つのポイントをあげています。

・通話するときには端末を直接耳に当てることを避け、スピーカーホン機能やイヤホンマイク(有線でも、ブルートゥースなどの無線接続のものでもOK)を使う。
・通話よりも文字でのやりとりを中心にする。
・ストリーミングや大きなファイルの送受信をする場合には、端末を頭部や体から遠ざけておくこと。
・持ち歩く際にはカバンの中にしまう。ポケットやベルトにつけるなど、体に密着させて携帯しないこと。

2つ目は、「端末からの電磁波が強くなる状況のもとでは、なるべく使用を控えること」。電磁波が強くなる状況として、以下のような例をあげています。

・ディスプレーの電波強度の表示バーが1〜2個しか表示されていないとき。基地局からの電波が弱いと、スマホや携帯電話は電波の出力を上げて基地局とつながろうとするため。
・バスや鉄道で高速移動しているとき。接続する基地局が切り替わるたびに、スマホや携帯電話は電波の出力を上げる。
・音声や動画のストリーミング、あるいは大きなファイルの送受信をしているとき。動画や音声を視聴するときは、あらかじめ端末にダウンロードし、「機内モード」にして通信をオフにしてから楽しむこと。

さらにガイドラインでは、就寝時にはスマホや携帯を枕元やベッドの中に置かないこと、通話しないときにはイヤホンマイクを外しておくこと、電磁波をブロックするとうたう各種グッズは使わないこと(かえって電磁波の影響を強くするおそれがある)を推奨しています。

■マケインの脳腫瘍との関連性も疑われる

携帯電話やスマホの電磁波と健康被害との因果関係は、まだ科学的には立証されていません。2011年には世界保健機構(WHO)傘下の国際がん研究機関(IARC)が、携帯端末などの無線通信で使われる周波数帯域の電磁界を、「ヒトに対する発がん性が疑われる(Possibly Carcinogenic)もの」(グループ2B)に分類しました。その後も各国の研究機関が調査研究を続けていますが、現時点では因果関係を科学的に示すような証拠は出てきていません。

また、アメリカや日本を含む世界の主要国で市販されているスマホや携帯電話は、過去のさまざまな研究を踏まえたICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)のガイドラインに沿って、発生する電磁波の強さを規制されています。

それでもアメリカでは、スマホと脳腫瘍の因果関係がささやかれ続けています。例えば、ジョー・バイデン前副大統領の長男、ジョセフ3世が脳腫瘍で死んだ(2017年11月、享年46歳)のはスマホの使い過ぎだったとか、やはり脳腫瘍と診断されて目下治療中のジョン・マケイン上院議員(共和党、アリゾナ州)は携帯電話を多用していた、といった話が流れています。

そうした中、「疑わしきは罰せず」ではなく、「疑わしきは放置せず、それに即して予防せよ」というプラグマティックなアクションが、今回のCDPHのガイドラインだといえるでしょう。

■特に気になる若年層への影響

CDPHでは特に、子供の脳への影響を懸念しています。今やアメリカでは子供たちは10歳ぐらいからスマホや携帯電話を使い始め、その大半はスマホを一日中、肌身離さず持ち歩いています。CDPHのカレン・スミス局長(医学博士)は、以下のように述べています。

「10代は子供の脳が発達する時期であり、大人よりも携帯電話の使用による影響を受けやすい可能性があります。保護者の方々は、お子さんの携帯電話の使用時間を減らすことをぜひ検討して下さい。また、夜は携帯電話の電源を切るようお子さんを促すべきです」

若年層のスマホ使用については、カナダ保健省も2011年、18歳未満に対してはスマホを含む携帯電話の使用時間の抑制を大人が促すべき、という提言を行っています。

また身体的な悪影響以外にも、例えば米高級誌「ジ・アトランティック」の2017年9月号は、「スマートフォンが次世代を破壊してしまった?」(Have Smartphone Destroyed a Generation?)という記事で、若い世代の精神面への害の可能性を指摘しています。「2011年以降、ティーンエージャーの鬱(うつ)症状の発症率や自殺率は急上昇している。(スマホとSNSの時代の申し子である)『i(アイ)世代』は、ここ何十年かの間で最も深刻なメンタル面の危機に立たされているといっても過言ではない。そのかなりの要因は、もとをたどれば彼らのスマホにあるかもしれない」

■長期的視野に立ったリスクの考察を

日本政府はどうでしょう。

総務省は、「現時点では、安全基準を超えない強さの電波により健康に悪影響を及ぼす証拠はないことを確認」したとしつつ、「携帯電話を長時間使用した場合のリスクについてすべて解明されたわけではありませんので、心配される場合には、IARCの幹部が言及しているハンズフリー機器やメールの利用など、各個人がそれぞれの事情に応じて適切と思う対策をとることが適当と考えます」と述べています。(総務省「電波利用ホームページ」)。

一方で、子供たちのスマホ使用については、学校に持って来ないとか、授業中は禁止といった個々の学校の規則を除けば、カリフォルニア州やカナダのように、使用時間の制限を推奨するようなガイドラインは出されていないようです。たとえ健康への悪影響が立証されていないとはいえ、スマホが次世代の子供たちにもたらす、精神的影響なども含めたもろもろのリスクについて、国家として長期的視野から考えておく必要は十分あるような気がします。

----------

高濱 賛(たかはま・たとう)
在米ジャーナリスト。米パシフィック・リサーチ・インスティチュート所長。1941年生まれ。カリフォルニア大学バークレー校卒業後、読売新聞入社。ワシントン特派員、総理大臣官邸、外務省、防衛庁(現防衛省)各キャップ、政治部デスク、調査研究本部主任研究員を経て、母校ジャーナリズム大学院で「日米報道比較論」を教える。『中曽根外政論』(PHP研究所)、『アメリカの教科書が教える日本の戦争』(アスコム)など著書多数。

----------

(在米ジャーナリスト 高濱 賛 写真=iStock.com)