得点こそなかったものの、市船戦では守備で貢献するなど存在を誇示。中村のフィット度は試合を重ねるごとに高まっている。写真:松尾祐希

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 これぞ青森山田!! そう言わしめる、圧巻の勝ちっぷりだった。
 
 4月16日のプレミアリーグEAST第2節、青森山田は地元に市立船橋を迎えた。前年度のチャンピオンシップ覇者にとっては、負けが許されない一戦だ。浦和レッズユースとの開幕戦で一時は2点をリードしながら逆転負け。連敗は是が非でも避けたいところだ。
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 試合開始直前から吹き始めた強風のなか、前半を風下で戦うこととなったホームチームは、序盤から我慢の展開を余儀なくされる。それでも、前半終了間際にMF堀脩大(3年)のFKからU-18日本代表のMF郷家友太(3年)が頭で先制ゴールを奪取。試合の流れを一気に手繰り寄せると、後半はハードワークをベースに一体感のある堅守で相手を封殺。最後まで市立船橋に自由を与えず、クリーンシートで勝利を掴んだ。
 
 その姿に高校選抜を率いる黒田剛監督の留守を預かる正木昌宣コーチも、頬を緩めた。
 
「彼らもこの試合でちょっと自信を付けたと思う。やっぱり同じ高体連のチームで、負けたくない相手。EASTには2チームしか高体連がないし、今後一年、間違いなくライバル関係になっていくので」
 
 高体連組としてリーグ戦だけに留まらず、一発勝負のインターハイや選手権でも凌ぎを削る好敵手。そこから挙げた今季初勝利は、勝点3以上の大きな意味を持つ。
 
 ではなぜ、勝ち切れたのか。理由のひとつは、FW中村駿太(3年)の存在だ。「『トップに上がれないのかな』と察するようなことが続いた。僕(の夢)はプロになって成功したいというのが一番。『このままでいいのか』と思い始めていた」との想いで、3月中旬に柏レイソルU-18から転籍してきた。この生粋のストライカーが、青森山田流の守備に見事ハマっているのだ。これはチームが蘇生するうえで小さくないプラス要素となった。
 前節・浦和戦の後半は、前線でファーストディフェンダーの役割を果たせず、敵にプレッシャーを掛けられなかった。ボールの出所を限定できず、最終ラインと最前線の距離が大きく開いてしまう要因を作ってしまった。
 
 しかし、この日は違った。体力的にきつくなる終盤でも、コースを限定しながら果敢にプレスを敢行。90+2分にお役御免となったが、ピッチを退くまで与えられたタスクをまっとうした。
 
「僕からCBまでの距離間は、正木さんから口を酸っぱくして言われていた。特に後半の苦しい時間帯、僕も戻るのはきついですけど、後ろもラインを上げてくれる。そこを妥協せずにやれたので、試合に勝つことができたんだと思う」
 
 守備のやり方をきっちり把握した中村が、今回の完封勝利に貢献したのは言うまでもない。
 
 ただ、3月22日に合流して、約3週間。日はさほど経っていない。これだけの短い期間でチーム戦術に馴染んだのは、チームメイトとの密な言葉のキャッチボールがあったからこそだ。
 
「練習後も時間を気にせず、自主練習やミーティングができる。朝も昼も夜も同じところで食事をして、寮に帰っても同じ部屋の友だちがいるので、ふと気が付いたときにサッカーの話ができるのは大きい」
 
 コミュニケーションの充実ぶりが伝わってくる。
 同じクラスの郷家はこう話す。
 
「学校の席も近いので、休み時間とかでも話せるし、寮でもたまに一緒になるので、今日の反省とかをすぐにできる。どうやれば自分と駿太で相手の脅威になれるか。そこをよく話しているので、もっと良い関係性を作っていきたい」
 
 これまでは学校に通うだけでおよそ1時間を要し、授業が終われば柏の練習場に移動するのが日課だった。それがいまでは、下校後すぐにトレーニングを開始でき、時間が空けばすぐに仲間とサッカー談義に花を咲かせられる。まさにサッカー一色の高校生活。青森山田流の守り方を早期に理解できたのは、仲間の特長とチームのコンセプトへの理解を、日々の生活のなかで深められたからだ。
 
 とはいえ、まだやるべき作業が多いのも事実。「攻撃のところでもう1点、2点取り切る力がなければ、後ろに掛かる負担が大きくなる。なので、決定力は改善していかないといけない」。正木コーチがこう指摘するのが、チームの決定力不足。得点源の役割を担う中村の出来次第で、これは十分に改善できる。そもそも開幕戦で見えた攻撃面の課題は、中村と周囲の噛み合わせの悪さだった。彼らの距離間がさらに良くなり、サポートに入るタイミングなど互いの動きを理解し合えば、一気に問題は解決するだろう。
 
 24時間、友と過ごす高校生活は、柏時代とはひと味違う。新たな地で新たな道を進む中村駿太はいま、青春を謳歌している。
 
 新たな刺激を欲して高校サッカーに舞台を移した男の戦いは、まだ始まったばかりだ。
 
取材・文:松尾祐希(サッカーライター)