「労使折半」で負担する会社員の社会保険料。企業側が半分を負担するため、従業員側に優しい制度のようにも見えますが、さまざまな弊害もあるようです。企業経営者でもあるファイナンシャルプランナーが解説します。

 皆さんもご存じかと思いますが、会社員の社会保険料は健康保険が給与の9.96%、厚生年金が18.182%で合計28.142%。40歳以上になると介護保険の保険料も加わるため、健康保険が11.54%となり、合計29.722%になります(いずれも東京都の場合)。

 これを「労使折半」。個人と企業が半々ずつ負担するのがルールです。つまり40歳以下は約14%、40歳以上は約15%を従業員と会社が半々ずつ支払っているわけです。一見すると従業員側に優しい制度のように思いますが、実はさまざまな弊害もあります。

 その一例が中小企業において、「社会保険に加入すると退職者が続出する」という事実です。驚くべき話ですが、飲食業や運送業など今まで社会保険に加入していなかった会社や個人事業主が「社員のために」と社会保険に加入すると、大量の退職者が出るのです。その理由は、社会保険加入によって保険料の天引きが始まり「手取り」が減るから。

 とは言え、社会保険料はあくまで労使折半。給与から引かれた分と同額を会社が負担し、それらが将来の年金に反映されるため、従業員にとってのメリットは大きいはずですが、「目先のお金が減ってしまうのは嫌だ」ということなのでしょう。「いくら説明しても理解してもらえない」と嘆く経営者も少なくありません。

労使折半は埋めがたい溝の一因

 これらは社会保険への理解の乏しさから来る事例ですが、すでに加入している会社でも、雇用される人間に「優しい」社会保険は、経営者目線から見ると、実は違った側面があります。たとえば「この従業員には年収500万円を支払ってもよい」と考えていても、約15%にあたる45万円の社会保険料がかかるため、それらのコストを考慮して「すべて込みで500万円に」となります。つまり「年収を450万円前後に抑えたい」という心理になってしまうのです。

 経営者は本音の部分で、従業員の給料を社会保険料“込み”で考えている人が少なくありません。つまり、会社が支払っているように見えてもその実、採用時にも昇給時にも、「会社の負担=社会保険料14〜15%」というバイアスがかかり、従業員からすれば、本来受け取れるはずの報酬が減っています。「会社負担」の名のもとに結局は、従業員が負担しているのです。これは多くの従業員が気づいていない“真実”です。

 また、従業員側は労使折半を頭で理解していても、会社負担分に関して感謝することはありません。そして当然の権利ですから感謝すべきことでもありません。しかし、経営者サイドから見ると「給料以外に14〜15%の社会保険料として支払っている」という感覚は残ります。

 給与への不満はどこの会社でも多かれ少なかれあるでしょうが、従業員側の不満に対し、「給与以外にもいろいろ支払っているんだよ」という経営側の言い訳もあり、労使折半は両者の埋めがたい溝の一因とも言えます。

保険料を給与に上乗せする?

 経営者仲間で集まると、こうした本音と建前について「会社負担分の社会保険料を給与に上乗せし、全額を従業員負担にした方がよい」と主張する人がいます。私も同じ意見で、その方が、従業員側も自分がいかに多くの社会保険料を負担しているのか実感が湧いて、年金制度やそれを運営する政府に、よりシビアになるでしょう。

 経営側から見ても、すべてのコストをオープンにすることでブラックボックスをなくし、給与に対する意識の差を埋められると期待できます。本来は国が国民に社会保険の重要性を認知させ、しっかりと理解してもらった上で保険料を納めるべきです。少々うがった見方かもしれませんが、労使折半は加入者の負担を見えにくくし、国が批判を避けるための巧妙なテクニックと言えなくもありません。

「終身雇用の崩壊」「複数の会社を経てキャリアアップする」「複数の仕事をかけ持ちしていく」――。そんなことが当たり前になりつつある今の時代、社会保障についても会社を介さずに各個人が国と直接契約し、丁々発止であるべき姿を議論していく方がよいのではないか。小さな中小企業社長の感想です。

(株式会社あおばコンサルティング代表取締役 加藤圭祐)