雲泥の差! インターンシップで損する企業得する企業

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■「インターンシップで採用」は禁止

新卒採用に向けたインターンシップが近年増加している。

2014年度の採用に向けたインターンシップ実施企業は1300社程度にすぎなかったが、16年度に約4600社に急増。18年度採用ではすでに8000社を超えている(「リクナビ」など就活サイト掲載企業計)。

実施時期は夏・秋・冬に分かれる。夏のピークは8月だが、今年は冬(12月〜2月)に集中すると見られている。

インターンシップ実施企業が急増した背景には採用活動時期の変更がある。

2016年度入社の大卒採用選考活動について経団連は、広報活動が3年生の3月1日以降、選考活動は4年生の8月1日以降とするように要請した。

17年度は3月広報解禁、6月選考解禁に変更し、18年度も同じスケジュールなった。

以前に比べて採用活動が後ろ倒しになったこと、説明会などの広報活動から選考までの期間が短くなったこともあり、3月までに学生に接触し、少しでも採用に結びつけようということで一気に増えた。

しかし、インターンシップを採用につなげることは一応禁止されている。

経団連の「指針の手引き」で

「インターンシップは、産学連携による人材育成の観点から、学生の就業体験の機会を提供するものであり、社会貢献活動の一環と位置づけられるものである。したがって、その実施にあたっては、採用選考活動とは一切関係ないことを明確にして行う必要がある」

として、具体的に「インターンシップに際して取得した個人情報をその後の採用選考活動で使用できない」とクギを刺している。

だが、現実はインターンシップが事実上の採用活動と化しているのが実態だ。企業にとっては職場体験を通じて学生の能力を見極め、これはと思う学生に入社を働きかける格好の機会であり、経団連の指針にまともに取り合う企業はないようだ。

■インターンシップには3種類ある

インターンシップには、
(1)1〜2日の短期の企業広報型(事実上の会社説明会)
(2)職場体験型(5日程度のアルバイトの雑務を行う)
(3)採用前提型(2週間〜1カ月の長期体験)

――の3つがある。とくに多いのは1日だけという1dayインターンシップであり、今年度は延べ約5000社が実施する(冬場に集中する見込み)。3月の解禁前の事実上の会社説明会と考えたほうがよいだろう。

実際に企業はインターンシップでどういう動きをしているのだろうか。

この夏に「サマーインターンシップ」を開催した広告業の採用担当者はこう語る。

「夏と秋、それに来年1月以降に計3回のインターシップを予定している。受け入れる社員には迷惑をかけるために職場を説得しなければならないし、日当を含めた多大なコストもかかる。それでも優秀な学生を確保できなかったら役員会で責任を追及されることになる。覚悟を決めてやるしかない」

すでに夏のインターンシップは青田刈りの場とも言われている。だが、これはという学生を見つけても選考まで引きつけておくのは容易ではない。

大手不動産業の採用担当者は次のように明かす。

「来年6月の選考スタートまでにどれだけ多くの学生と接触するかが勝負になる。そのためにもインターンシップは極めて重要であり、当社も多数の学生を受け入れるつもりだ。ただ、インターンシップで学生に内々定を出しても、来年10月の内定式までつなぎとめるには時間が相当長い。OB・OGが学生と個別に接触するリクルーターを使ってつなぎ止めるようにしている」

採用前提型の長期のインターンシップは学生の資質・能力を見抜くのに有効とされるが、当然コストもかかり、受入枠も制限される。その仕組みについて建築設計業の採用担当者はこう語る。

「受入枠が限られるので書類選考で選別するが、ほとんどの企業が大学名で選考するのが一般的。地方の有名大学の場合は都内の宿泊代プラス交通費・食事代と日当を支給する。これがAコースとすれば、Bコースは宿泊代を支給しないといった1ランク落ちる形で受け入れる。とくに有名大学で研究開発を専攻している学生はメーカーで取り合いになっていると聞いている」

■インターンシップは大企業に有利

こうなるとお金や人員をかけられる資金的余裕がある大手企業が有利になることは間違いない。

中堅IT企業の人事部長はこう本音を語る。

「有名企業はインターンシップの青田買いなどで内定率が上がり、選考の解禁日はほとんど大勢が決まっているだろう。大手企業と同じことはできないのが苦しいところだ。インターンシップでは少人数しか受け入れられないが、学生と濃密な関係を作りながら仕事のやりがいを感じてもらい、会社を好きになってもらうように工夫するしかない」

では、インターンシップでは学生をどのように見極めて選別しているのだろうか。

同社では事務系は1週間、技術系は3日間のインターンシップを実施している。

「事務系は、事業内容について2日間の職場体験をしてもらう。それぞれ指導役の社員を配置し、その後にマーケット調査やリポートの提出など様々な課題を与え、それを踏まえて社員1人ひとりと徹底的に議論している。会社と学生がコミュニケーションする場を増やし、最終的に社員の評価と人事の評価を踏まえて、内々定を出すようにしている」

選考の指標としては、
・ 仕事に対する好奇心の度合い
・ 最後までやりきる力
・ 社員とのコミュニケーション力

を重視しているという。

「技術系の学生にはプログラミングの課題を与える。基本的には自分で調べたり、プロセスを工夫しながら自発的に動いたりして仕上げてもらう。2日間の成果を踏まえて皆でレビューし、最終的にスキルの高い学生に内々定を出している」(同上)

期間中に「本当にプログラミングをやりたいのかどうかもわからずに参加したが、途中でとてもしんどくて自分には向いていない」といった学生も少なくなかったそうだ。

■インターンシップで学生の何をチェックするか

一方、5日間のインターンシップを実施しているのはネット広告会社だ。

総合職と技術職の2つのコースに分かれ、技術職はクライアントからの疑問に対するリポートの作成や企画提案のプレゼン資料を作成し、最終日に発表する。

事務職は与えた経営課題をどう解決するのかについてリポートを作成し、発表する。期間中は学生2人に先輩社員のメンター1人が張り付き、学生の世話と日々の仕事ぶりを観察する。もちろん人事担当者も定期的に観察している。同社の担当者はこう語る。

「リポートの内容だけではなく、コミュニケーション力などのいくつかの指標に照らして評価している。そのため社員との会話や仕事に対する態度も細かく観察している。とくにエンジニア系はおとなしい人が多く、優秀な人でも入社したとたんにメンタル不調を起こす人もいるので、ストレス耐性があるのかも見ている。最終的に合格点に達した学生は、実際の選考試験の1次試験をパスし、2次試験に進む権利を与えられる。そのまま3次試験をパスして内々定を得た学生も多い」

上で紹介した企業はインターンシップと選考試験を兼ねている。経団連の加盟企業ではないので採用活動の解禁時期などに拘束されることもない。結果的にインターンシップが優秀な学生を確保するツールになっている。

だが、この採用直結型のインターンシップが大企業にも解禁されるかもしれない。政府は2016年6月に規制改革実施計画でインターンシップと採用の関係の見直しを求める検討を関係各省に要請した。7月には、インターンシップで得た学生情報を採用に使用することを含めて関係各省の調査研究協力者会議が始まっている。

年度内に新たに「インターンシップガイド」を作成する予定であるが、もし採用直結のインターンシップが解禁されるようになれば、大学3年生の夏のインターンシップから事実上の採用活動が始まることになる。

大企業と中堅・中小企業を巻き込んだ採用活動の長期化が展開されることになるだろう。

(溝上憲文=文)