森田直行●1967年、同じ大学の先輩・稲盛和夫氏が創業の京都セラミック(現・京セラ)に入社。2010年、日本航空会長・稲盛氏の補佐役として日本航空副社長に就任。

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――森田直行氏は、稲盛和夫氏の傍らで、JAL再建に副社長として取り組んだ。結果、JALは世界最高水準の利益率を誇る航空会社として蘇った。

■JAL復活はアメーバ導入以前の問題もあった

JAL再建というと、アメーバ経営やフィロソフィばかりが取りざたされる印象があるが、それらを導入する前に大掃除を実行し、まずは利益を生み出す体質をつくったということを覚えておいていただきたい。

まず各本部の調達部門を1カ所に集めて、調達本部として組織し直し、お付き合いのあった業者さんに頭を下げにいってもらった。JALは再生に向けて今が苦しいときなので、業者の皆さんもぜひわれわれを助けてくださいと言って回らせたのだ。業者の方々は、こころよく引き受けてくださった。そして本当に必要なものだけ購入するという当たり前のことを徹底させた。その過程で調達本部が「調達させない部」と陰口を叩かれることもあった。

また、それまでは部長クラスのサインでどんどん支払いをしていたので、支払いに際して経理がチェックを行っていなかった。経理は会社の財産を守るのが仕事だから、それではいけない。支払い後でもいいから経理がチェックするようなワークフローにつくり直した。効果はすぐに出始めた。特に予算制度の問題点を浮き上がらせたのはよかった。というのも、支払いを確認していくと、現場の人間が余りがちな勘定項目に繰り入れて予算を消化しようとしていることがわかったのだ。予算という名目だと使いきることが正しいと思いがちだ。行政や大企業にはびこっている病気に、JALもむしばまれていたということだ。だから、稲盛の指示で予算という言葉を計画に変えた。計画に対して、どれだけ費用を削減し、好業績をあげるか。そういう考え方に切り替えさせた。

部門長たちにも数字を意識させた。彼らに専門的な知識が必要な詳細な損益計算書を見せても、実はあまり意味はない。家計簿のように、もっと簡略化された採算表を作って、それを見せる。さすがに家計簿の見方がわからない会社員はいないだろう。部門別に数字が出ていれば、社員たちも問題点に気づきやすいし、対処も容易だ。こうして徹底的に経費の無駄遣いを洗い出した。その結果、初年度にして、実に800億円もの経費削減ができた。

■営業部門が安易な値下げに応じない理由

もともとアメーバ経営は製造業のための特殊な経営方式という見方をされていたが、JALの再建で脚光を浴びたため、今では一般的な会社にも通用するということを理解していただけたようだ。そもそも京セラが部品メーカーとしてスタートした頃、技術集団である製造部門に大量の人員を抱え、営業といえば、製造20人、30人に対して1人というような状況だった。ということは、製造部門できっちり利益を上げることができていれば会社の経営はうまく回る。営業部門と比べて製造部門の収支がより重要だったために、製造の責任者に製造部門の収支を意識させる必要があった。そこからアメーバ経営が始まったのだ。

製造部門にいると、予定原価内に収めて商品をつくればそれでいいと考えがちだ。最近、日本の電機メーカーは経営不振にあえいでいるが、その原因の一つがそこにあると私は考える。つまり、製造部門が市場の動向に敏感であれば、家電が値下がりを続けているにもかかわらず、売れない商品をつくり続けることなどありえない。例えば京セラの製造部門であれば、製造したところで赤字になることがわかれば、工場を止めてしまう。製造部門がより収益を上げられる製品を探して、それに切り替えていく。営業部門も、ばかみたいな値段で製品を投げ売りすると、製造部門が製造してくれないのが目に見えているので、安易な値下げ交渉には応じなくなる。

(唐仁原俊博=構成 小倉和徳=撮影)