「末恐ろしい10代」EURO2016に現れたとんでもない逸材たち
残るは10日(日本時間11日)の決勝のみとなったEURO 2016。開催国フランスが3度目の欧州制覇を成し遂げるのか、それとも12年前の母国開催時にファイナルで涙を飲んだポルトガルが悲願の初優勝を果たすのか。クライマックスへの興味は尽きない。
その両チームには欧州でも特に注目を集める若手がひとりずついる。彼らを含めて、開幕時に10代だった選手は今大会で10人。そのなかから、ひときわ大きな輝きを放った3選手を紹介したい。
■レナト・サンチェス(ポルトガル/18歳)
ポルトガルの名門クラブを救った18歳が、今度は代表の躍進に大きく貢献している。ベンフィカは15−16シーズン、監督交代などもあって序盤は不安定な戦いが続いたが、Bチームでプレーしていたサンチェスをファーストチームにデビューさせると、そこから面白いように勝ち始めた。
彼が初めてプロの試合を経験した9節以降、ベンフィカはリーグ戦の27試合を25勝1分1敗で駆け抜け、一時は不可能にも思われた3連覇を果たしている。
チャンピオンズリーグでもプレーしたMFはファンの願い通りにEURO2016の最終メンバーにも入り、初戦に途中出場。グループ突破をかけた3節では後半開始から投入され、3−3のドローに貢献して決勝トーナメントへの切符を手にした。
クロアチアとのラウンド16では50分から出場して延長後半終盤の決勝点につながる力強いドリブルを披露し、初先発となったポーランドとの準々決勝では1点ビハインドの前半に目の覚めるようなミドル(プロ初ゴールも同じようなロングレンジからのシュート)を叩き込んで同点、延長後のPK戦でもきっちりと決めてみせた。ちなみに、この2試合ではマン・オブ・ザ・マッチに選出されている。
ウェールズとの準決勝では決定的な仕事こそなかったものの、本職ではないサイドMFで献身的に働いた。
つまり、末恐ろしいティーンエイジャーなのである。今大会で、イングランドの18歳、マーカス・ラシュフォードに次ぐ2番目に若い選手は、そのプレースタイルとポジション、ルックスから、「エドガー・ダービッツの再来」とも呼ばれているが、本人は同じ元オランダ代表でも、ダービッツではなくクラレンス・セードルフを「参考にしている」と話す。
こちらのレジェンドは16歳でプロデビューを果たし(アヤックスの最年少記録)、18歳の頃にはチャンピオンズリーグを制している。この偉業には及ばないが、開幕前の5月10日に移籍金3500万ユーロでバイエルンに加入しているため、クラブでの欧州制覇も現実的な目標となった。
「バイエルンでプレーするのを楽しみにしている。でもクラブの方も僕に期待してもらいたいね」とドイツメディアに話したように、度胸も自信も満点だ。大舞台にもまったく動じずに自らを表現するサンチェスが、この勢いのままに母国を優勝に導くことになるのか。そして、その後の新シーズンにはドイツの絶対王者で居場所を見つけられるのか。アフリカのカーボベルデにルーツを持つ新たな褐色のダイナモから、目が離せそうにない。
■キングスレー・コマン(フランス/19歳[開幕時])
カリブ海のフランス領グアドループ出身の両親のもと、パリ郊外に生を受けた天才ドリブラーの名は、フランスのサッカー関係者の間に早くから知れ渡っていた。コマンは7歳の時にパリ・サンジェルマンのアカデミーに入団すると、エリートのなかでもひときわ大きな才能を伸ばしていき、2013年2月にクラブ史上最年少となる16歳8カ月でリーグ1にデビュー。フランス首都のクラブでさらなる成長を遂げていくものと思われていた。
ところがパリでも、その後に移ったユベントスでも満足できるほどの出場機会は得られず、15−16シーズンに2年間の期限付きでバイエルンへ移籍。ジョゼップ・グアルディオラ監督から「自分の力を疑うな。ありのままにプレーするのだ」とアドバイスされると、これまでの鬱憤(うっぷん)を晴らすかのように躍動し、所属元ユベントスとのチャンピオンズリーグ・ラウンド16での1得点1アシストを含め、ドイツ王者で1シーズン目は35試合6得点12アシストを記録した。
今大会では、アイスランドとの準々決勝までの5試合すべてに出場したが(フル出場はなし)、ドイツとの準決勝は最後までベンチを温めた。アタッカーながら決定的な仕事がまだないため、それも仕方ないかもしれないが、記録の上ではすでに大きな足跡を残している。グループステージのスイス戦で時速32.8キロを叩き出し、今大会最速のスプリントを記録しているのだ。
名前をもじって"スピードキング"とも称えられているコマンに、決勝での出番は訪れるのか。若者に共通する継続性の欠如という課題はあるものの、好調時の彼を止められるDFはほとんどいない。ジョーカーとして勝負どころで投入するのも面白いはずだ。
■バルトシュ・カプストカ(ポーランド/19歳)
ハンガリーのラースロー・クラインハイスラーと並ぶ、今大会最大の発見のひとり。この19歳のアタッカーはほぼ無名の存在から、ユベントスやドルトムント、レスターといった有力クラブから注目を集めるまでになった。
初戦の北アイルランド戦で負傷明けのカミル・グロシツキに代わっていきなり先発すると、大人びた所作と洗練されたテクニックを見せたうえに、見事なボレーシュートも披露。88分まできっちりと仕事を果たし、1−0の勝利に貢献した。
この試合を観た元イングランド代表のギャリー・リネカーは「愉快なタレントだ」と賞賛。ただし英国メディアによると、所属クラブのクラコビア・クラコフのヤチェク・ジエリンスキ監督は「この見事なパフォーマンスも予想できた」ものだったという。「(15年4月に)クラコビアで指揮を執り始めた時、すぐに特別な才能の存在に気づいた。テクニック、スピード、スタミナ、戦術理解力と、その時すでに彼はすべてを備えていたんだ」
ロベルト・レバンドフスキに次ぐ、ワールドクラスへの成長も期待されるカプストカ。耳に珍しい名前だが、サッカーファンなら覚えておいて損はないだろう。
井川洋一●文 text by Igawa Yoichi

