オフィシャル誌編集長のミラン便り2015〜2016(26)

 9試合かけて作りあげたミランのアイデンティティは、たった2試合で崩れ去った。

 全てはこの8日間に起こった。ミランはこの2試合でたったの勝ち点1しか手に入れることができなかった。3位の目標はもはや遠い夢、9試合で11ポイントを取り返すのは至難の業だ。また、ヨーロッパリーグ出場権が自動的に手に入る5位にも6ポイントの差がある。

 それにしてもいったい何が原因でこうなってしまったのだろう。これは頭の中の問題、つまり試合に対する精神的アプローチが明らかに間違っているからだ。

 3月13日、キエーヴォのホーム、ヴェローナで、ミランは立ち上がりから30分間、ほぼ一方的に押されていた。その後、終盤に向けて少しずつ持ち直していき、最後にはアバーテとベルトラッチの惜しいシュートもあった。もしそれが入っていたならミランは勝利していたかもしれないが、たとえそうだったとしても納得のいく勝利ではなかったろう(結果は0−0)。

 ミランの抱える問題を誰よりも的確に指摘したのが、ミランの古参の一人クリスティアン・アッビアーティだ。この試合の前半19分に若き守護神ジャンルイジ・ドンナルンマが怪我で退場、久々にアッビアーティがミランゴールを守ったが、試合後、彼は心の内を吐露した。

「今日のキックオフ直後のミランのありさまは受け入れがたいものだった。はっきり言って最初の30分は呆れて言葉もなかった。我々はもっとハングリー精神を持ってピッチに降りなければいけない」

 そう前置きをしたあと、彼は爆弾を落とした。

「誰がとは言わない。しかし叱咤に対し文句をたれているチームメイトを見るのはもうたくさんだ。彼らは叱咤を、ただ非難されているとしか感じていない」

 的確な分析だ。

「この2カ月間、我々はミランにふさわしいプレーをし、結果を出してきた。9試合連続して負けなしだったが、それでも全ての問題を解決することはできなかった。我々が力を出し惜しみしたからではない、試合に対するアプローチが間違っていたからだ。シーズン後半に入った頃に見せたような、勝利への強い渇望を持ってピッチに降りるべきだった。全員が勝利のためにプレーすべきだった。11人のうち1人でも強い気持ちを欠いて試合に臨めば、結果を出すことはできない。ここ2試合にはそれが足りなかった。ただ好調が続くとつい気が緩むこともあるので、今ここで大げさに騒ぎ立てるつもりはない」

 最後に、これからのことに言及してアッビアーティは会見を終えた。

「我々はコッパ・イタリアでは決勝にまで駒を進めたが、リーグ戦はまだ終わってはいない。我々はミランだ。6位などという順位に満足するわけにはいかない。目標にたどり着くため、目の前にいるライバルチームを越えていかなければいけない。リーグはあと9試合、その後にコッパ・イタリア決勝だ。決して気を抜くことなく、これからの全ての試合で結果を出していく必要がある。なぜなら我々は重みのある、そして栄光あるロッソネロのユニホームを背負っているからだ」

 アッビアーティが飛ばしたこの檄は、第10節でユベントスがサッスオーロに負けた際にジャンルイジ・ブッフォンが飛ばしたものと非常に似通っている。その直後からユベントスは全く別なチームへと変身し、19試合で18勝1引き分けの好成績をあげている。

 さて、アッビアーティのこの檄に対するチームの反応やいかに? ユベントスのような変貌を遂げることはできるのか? もちろんミラニスタたちは、1999年にデビューして以来ミラン一筋のアッビアーティの意見に大賛成だ。

 来週の日曜日、ミランは2週ぶりにサンシーロに戻りラツィオと対戦する。選手たちのプレッシャーはすでに始まっており、メディアは今後のミランの行方に注目している。今まで以上に熱い1週間になりそうだ。

 我々としては本田圭佑とその仲間たちが、ヨーロッパに向けての最終的なダッシュを切ってくれると信じたい。

ステーファノ・メレガリ(『Forza Milan!』編集長)●文 text by Stefano Melegari
利根川 晶子●翻訳 translation by Tonegawa Akiko