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弁護士資格を持つ福岡県直方市の壬生隆明市長が、詐欺未遂罪で起訴された福岡県警の元警視の弁護人に就任したことが昨年12月に報じられた。現職の市長が刑事事件の弁護人になることは異例の事態だとして、話題になっている。

報道によると、壬生市長は元検察官。2014年12月に退官して、昨年4月の市長選で無投票で当選した。被告人の元警視は、6、7月にキャッシュカードを不正に使われたとうそをついて、2つの銀行に225万円の補填を要求した疑いをもたれている。

現職市長が刑事事件の弁護人になると、公務とのバッティングが懸念される。そもそも地方自治体の首長と刑事弁護人の両方を担うことは、法的に問題ないのだろうか。実務上、なにか問題が起きる可能性はないのか。坂口靖弁護士に聞いた。

●兼務は問題なし。信念のある行動かもしれない

「結論から言うと、現職の市長が刑事弁護人になることは、法律上は制限もなく、問題ありません。市長などが兼職できないケースは、地方自治法141条、142条に規定されています。

(1)衆議院議員又は参議院議員

(2)地方議会の議員、常勤の職員、短時間勤務職員

(3)地方公共団体と請負等の取引関係に立つ会社の取締役

などとされているに留まっています。非常に限定されていますよね」

こんな兼職をする市長は、なかなかいないだろう。そのほかの仕事の兼職が自由なのはなぜだろう。

「兼職禁止を広く規定すると、市長に就任できる人物がそれだけ限定されてしまうことになるからです。有能な人物を市長にすることが難しくなるのは、市政には好ましくありませんよね。

現職の市長が刑事弁護人に就任することは、法律上禁止されているものではないため、基本的には何の問題もないと考えられます」

しかし、刑事弁護人ともなると、裁判と公務がバッティングする可能性もある。これはどうすればよいのだろう。

「場合によっては、公務よりも刑事弁護人の仕事を優先して行うという場合も、あり得るかもしれません。

公務と刑事弁護人の職務のバッティングによって、法律上当然に市長職を失うとか、辞職しなければならないというものではありませんが、納得できない住民もいるでしょう。仮に問題があるのであれば、そもそも住民が選挙でその市長を選ばないか、リコールという選択を住民がすれば良いのです。

兼務していたとしても、公務に何の影響もなく、優秀に市長としての仕事をしているような場合、『法律上規定して当然失職させる』というのは、住民の利益になりませんよね。ですから、住民自身に市長をどうするかについての判断を委ねたほうが、住民の利益になるものと考えられるということです。

ただ、今回の市長は、無投票だった。住民はどうにも口をはさめないのではないか。

「そうですね。今回の事案は、無投票で選ばれたという特殊事情がありますが、将来的にリコールすることも可能ですし、無投票になる前に対立候補を立てることも可能でした。やはり住民の民主的判断に委ねるのが妥当であることは、変わりないでしょう」

兼務といっても、刑事弁護人の兼務はあまり聞いたことがない。

「そうですね。これまで現職の市長が刑事弁護人に就任するということはあまり見かけませんでしたね。無罪推定とはいえ、実際上多くの刑事裁判においては、有罪となる人がほとんどであることなどから、刑事弁護人になると、住民などから反感を買い、選挙に落ちる可能性が高まると考える人が多かったからだと思います。

しかし、今回の壬生市長については、選挙のことのみを考えるのではなく、自分の信念に従って行動できる、非常に勇気のある誠実な人物であると言えるのかもしれません」

坂口弁護士はこのように話していた。

(弁護士ドットコムニュース)

【取材協力弁護士】
坂口 靖(さかぐち・やすし)弁護士
大学を卒業後、東京FM「やまだひさしのラジアンリミテッド」等のラジオ番組制作業務に従事。その後、28歳の時に突如弁護士を志し、全くの初学者から3年の期間を経て旧司法試験に合格。弁護士となった後、1年目から年間100件を超える刑事事件の弁護を担当。以後弁護士としての数多くの刑事事件に携わり、現在に至る。
事務所名:佐野総合法律事務所
事務所URL:http://sakaguchiyasushi-keijibengo.com/