メジャーリーガーがいないといっても、プレミア12がメジャーをはじめとするスカウトたちにとって格好の品評会であることに変わりはない。彼らの目は出場する12チームの選手のすべてに向けられるが、侍ジャパンの面々に対する視線はとりわけ熱い。

 日本の野球ファンにとっては言わずもがなかもしれないが、プレミア12でもスカウトたちから最も注目を集めるのは前田健太(広島)、大谷翔平(日本ハム)といった投手陣だ。

 話を聞いたメジャー球団のスカウトのひとり(スカウトA氏)は「前田の安定感は素晴らしい。田中将大やダルビッシュと比べるとやや格は落ちるが、それでもメジャーのバックローテーションを担うのに十分な実力を備えている」と評価する。大谷については「あの球威なら多少の制球ミスも問題にならない。今すぐにでもメジャーで活躍できる」とやはり太鼓判だ。

 準決勝の韓国戦で敗戦投手となったものの、大会を通して評価をさらに上げたのが則本昂大(楽天)だ。今大会は本業の先発ではなくリリーフとして起用されたが、最速157キロを計測するなど、うなるようなボールを投げた。別のメジャー球団スカウト(スカウトB氏)は則本にこれほどリリーフの資質があるとは感じていなかったようで、「あれだけハードに投げられるのならメジャーでは先発よりもリリーフのほうが成功するかもしれない」と述べた。

 他の投手たちについても軒並み評価は高く、やはりメジャースカウトは投手を中心に見ていることを再認識した。

 ただ、野手陣もまったくノーマークというわけではない。近年、日本人野手(とりわけ内野手)がほとんど活躍を見せていない状況を鑑(かんが)みれば、「思ったよりも意外と関心は高いな」という印象だ。

 スカウトB氏はこの大会を通して筒香嘉智(横浜DeNA)に興味を持ったようで、「メジャークラスの身体つきだし、大きな当たりを打てるのが魅力。その一方で、状況に応じたヒッティングもできるのがいい」と語り、今後さらに注視していくとのことだった。

 筒香同様に今大会好調だった中田翔(日本ハム)もやはり彼らの目を引いている。スカウトA氏は、この右の大砲も十分メジャーでプレーできる可能性があるという。

「中田は日本で唯一、メジャーの選手のように豪快にバットを振れる。それに、彼を見ていると、日本でのプレーに満たされておらず、新たなチャレンジを欲しているように見受けられた」

 また、今オフのメジャー移籍を狙う松田宣浩(ソフトバンク)については、内野手ということで活躍に懐疑的な目を向けられているが、スカウトA氏は「彼はプラトーンプレーヤー(レギュラーではないが状況によって起用されるタイプの選手)としてなら出場機会を得られるのではないか」と言う。

 一方で驚かされたのが、山田哲人(ヤクルト)に対する評価の低さだ。スカウトB氏に、今季同じく"トリプルスリー"を達成した柳田悠岐(ソフトバンク)と比べてどうかと問うと、間髪を入れずに「柳田だ」と答えた。

「今年、彼が残した数字は素晴らしいと思うし、リスペクトもしているよ。だけど私には彼がメジャーで活躍できるほどいい選手だとはまだ思えない」

 そしてこう続けた。

「柳田がこのチーム(侍ジャパン)にいたとすると、山田は、私の中では5番目くらいの実力の選手だ。しかも投手を除いてだよ。柳田、坂本、中田、筒香、そして山田。その次は松田だね」

 山田が今季、両リーグ最多の38本塁打を放ったことについても、「狭い神宮球場だからね」とにべもない。メジャーでも、たとえば今季ワールドシリーズ王者となったカンザスシティ・ロイヤルズのように本塁打を量産する選手のいないチームもあるが、やはりクリーンアップ以外の選手でもある程度の長打力が期待されるだろうし、体力的にも今のままでは厳しいという判断なのだろう。

 スカウトA氏は「山田の二塁の守備を見ていると、とても危なっかしい。ゴロのバウンドにうまく対応できていない」と、守備面での不安も指摘した。

ところで、日本の多くの打者が足を高く上げる傾向にあるが、この件については話を聞いたどのスカウトも一様に「懸念している」と口にする。

 スカウトB氏は言う。

「足を上げるにしても打撃の始動時に小さく行なう程度ならば問題はないが、足上げのタイミングが遅いとスライドステップ(クイックモーション)に対応できなくなり、バランスを崩される。大きく足を上げれば上げるほど、スライドステップなど変化を加えられた時に対応できなくなる可能性が高くなると思うね」

 スカウトA氏もこの点に言及した。

「坂本などはすごく高く足を上げるよね。確かにあれは気になる。あの打撃フォームがメジャーの投手相手にまったく通用しないとは言わない。だけど、懸念材料であることは確かだ」

 プレミア12を通して日本の打撃陣はどちらかといえば好調だったが、その点に関してスカウト両氏は、「相手投手のレベルが高くないから」と今大会をあくまで参考程度に考えているようだった。

 スカウトB氏は「日本の打者は、並み程度の投手には強いが、メジャークラスの投手だとやはりそう簡単には打てない」と断言する。日本の野手のメジャーリーグでの成功が容易でないことは事実だろう。

 いずれにしても、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の他にこのような国際大会が始まったことは、スカウトたちにとっては選手を見られる貴重な機会が増えたということで歓迎の様子だった。はたして、近い将来、侍ジャパンのメンバーから何人の選手がメジャーでプレーしているのだろうか。

永塚和志●文 text by Nagatsuka Kazushi